AL型学習と班・グループ学習の指導
『読み研通信』116号より
高橋 喜代治
一 はじめに
アクティブ・ラーニング(以下、AL型学習)が盛んに推奨されている。昨年11月には文部大臣はAL型学習の具体的在り方を中央教育審議会に諮問した―1。
AL型学習とは「一方的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習方法の総称」とされている―2。これにより「認知的、論理的、社会的能力、教養、知識、経験などの汎用性のある能力」―3を養うのだという。
政府は1月14日に平成27年度の予算案を閣議決定したが、政策目的に応じて配分される教職員等の加配で、AL型学習の推進に関わる教職員を200名も増員した。教職員定数が削減されていることを勘案すれば、AL型学習にかける文部科学省の意気込みが分かる。
講義形式と異なると言った場合、すぐ頭に浮かぶのが小集団(班やグループ)を単位とした学習形態である。この稿では、AL学習を「能動性のある学習」と捉え、小集団(班やグループ)の指導の在り方について私見を述べたい。
二 「介入」という指導
AL型授業について精力的に実践し発信している小林昭文氏が日本教育新聞に「アクティブラーニングが授業を変える」(以下、「連載」)でその理論と実践を報告している―4。教科は高校の物理である。
小林はこの連載で、グループ学習にかかわって、「グループ学習時の介入の開発が、AL型授業を継続し、質的向上を図るための最難関でした」と述べている。これはグループ学習を本気で導入した場合、誰でも実践的に突き当たる問題である。小林は試行錯誤の末、「質問による介入」にたどりついたという。その質問による介入とは、次のようにすべてのグループに、30秒という短い時間で質問して回ることである。
A チームで協力できていますか?
B 確認テストまであと10分ですが、順調ですか?
C 確認テストまであと5分ですが、順調ですか
この質問による介入で「生徒が自主的に活動する」ようになったという。また、「チームで協力できていますか?」と質問することで、生徒たちは隣の友達のことを気遣い、協力し合うようになるという。更に、グループ内の学習を教師が介入しない代わりに、生徒はグループ内で解決できないことは他のグループに出向いてもよいことになっているという。
前掲した質問による介入に示された10分、5分という時間から考えると、グループ学習は25五分ほど継続して行われると推定される。
小林のグループ学習は、教師の学習内容への介入なしで、推定二五分も学習を継続するという意味では、能動的であり、自主的な学習が成立しているといえよう。また、他のグループに行って意見交換してもよい(学び合い)ことで、倫理的、社会的能力が期待できると私は思う。
ただし質問による介入では、グループ内でどのような教科の学習がグループとして成立しているのか、あるいはひとりひとりの生徒に養い得ているかは、指導している教師にも皆目分からないことになる。また、介入としているが、質問による介入は、実質的には指導であると思う。
三 班の学習への積極的指導
読み研の国語の授業では、班の話し合いは全体討論とセットで行われることがほとんどだ。そして積極的に班への指導が行われる。かつて読み研の運営委員だった内藤賢司氏の「クジラの飲み水」(説明文 中1)の班の指導を見てみよう―5。
授業は構造よみで、生徒たちは「前文はどこまでか」を巡って班の話し合いをしている。班員は学習リーダーを含めて4人。教師は、班の話し合いに入る前に個人の意見形成のための時間を数分とっている。Aは学習リーダーで司会を担当。
A それでは前文についての考えを出してください。
B 僕は、前文は第2段落までだと思う。第2段落の最後に問題提示をしている文があるからです。
C 私は第3段落までだと思う。第3段落まではまだクジラのことが細かく書かれてはいないからです。
D 私は、第2段落か第三段落かで迷っています。どちらの段落にも問題提示の文があるし…。
A 僕もそこのところで迷っています。第2段落までか、もっと話し合ってみよう。
C 第3段落にも問題提示の文がある。ここまで問題は続いているんではないかな。ここまではクジラについてあまり詳しい説明はしていない。問題がまだ続いている。だからここまでが前文ではないの。
B いや、第3段落からはもう細かな説明に入っていると思うよ。第2段落までだよ。
T いい話し合いをしているね。そこのところはポイントになるところだ。前の時間にやった「魚の感覚」も参考になるね。そこで学んだことは何だったかな。
内藤は、この班の話し合いの学習を評価し、今後の話し合いの方向についてアドバイスしている。班の話し合いを把握していなければできないことである。小林の「質問による介入」とは対照的である。
班の話し合いはA(学習リーダー)によって自律的に進められ、全員が自分の意見を形成している。前文はどこまでかという説明文の教科内容を身に付けようとしている。能動的であり、社会的であり、十分に汎用性のある学力が期待できる。
内藤は、班の学習の指導のポイントとして次の三点を挙げている。
A 読みの指標を持たせること
B グル―プの人数を三~四にすること
C 学習リーダーがいること
四 個人の意見形成と可視化の工夫
現在、私は教職実践演習(後期二単位。教育実習を修了した4年生)を担当し、グループ学習を取り入れている。学生は男女混合で31名。グループ人数は4~5名。この授業でのグループ学習の個人の学びに焦点をあて報告する。
テーマは、「保護者とつながる学級通信・第1号」である。学級通信を発行する意義や内容、構成について講義した後で、私が中学校で担任をしていた時に発行した学級通信を吟味、検討させた。内容は「ごあいさつ」「こんなクラスにできたら」「3Bの仲間」「担任・高橋とはこんな男です」の4つの記事。手書きである。吟味、検討の観点は、次の2つ。紙数の制約で、Bのみについて述べる、
A 保護者の信頼を得るのに真似をしてみたい記事や書き方
B 保護者の信頼をえるのに疑問を感じる記事や書き方
次の指示を出す。
(1)保護者の信頼を得るためには疑問を感じる書き方について話し合い、いちばん問題と思うものを一つだけ報告してください。
(2)まず個人で3カ所探して、私(高橋)
によく見えるように、赤線で示してください。時間は3分です。
私が、グループ学習で授業を進める時に最も注意を払っていることは、ひとりひとりの学び(意見)の形成と、その把握だ。
ひとりひとりの思考ができていないとグループの学習内容が意見の強い者や成績が良くて権威を持つ者に支配される。更に、その後の全体討論も一部の者の空中戦になってしまい、全体化しない。そうならないためには、グループの話し合いに入る前に、学生がひとりで考えしっかりと意見を持つための時間の保障が必要である。また、それを教師が把握するための可視化が不可欠である。
時間は必要に応じて設定すればよいが、私は3分が多い。時間が足りなければ「もっと時間が欲しい」と要求を出すように普段から指導している。ほんとに集中すれば、3分で相当なことができる。
赤線を引かせることで、学生の考えていることが可視化され、学生がどんなことを考えているか、おおよそが把握できる。机間を巡って、赤線ヵ所をサッと確認することが可能だ。
学生たちは次に示したイ~ウのような、私がほぼ予想した部分が指摘していた。一か所しか指摘できない者も約半数くらいはいた。
ア 少し成績のよい人も少し悪い人も、女子も男子も、A君もB君も、じつはみんな「俺どうしようか」と悩ん でいるのです。だからみんなでその悩みに挑戦し突破しよう(こんなクラスにできたら)。
イ 家族。ちゃんといまして、妻と子ども二人(担任・高橋とはこんな男です)
ウ 男女別の学級名簿(3Bの仲間)。
グループの話し合いに移行させ、1つに絞らせると、選んだ問題ケ所がバラけた。イを主張したのは、ある1
つのグループだけだったが、理由を述べさせると、「ちゃんといまして」をめぐって討論になった。「そのくらいはユーモアとしてみとめていい」という意見と、「結婚するのがあたりまえだという固定観念の押し付けだ」という意見である。
この学級通信を吟味、検討する個人とグループ、更に全体討論で、学生たちは主体的に学び、能動的な学習に成り得ていると私は思っている。また、保護者に信頼されるような学級通信作成の観点も養えたと言えるのではないか。
五 まとめにかえて
「講義形式の授業なんて小学校や中学校ではもう死語だよ。今頃何で?」という声が聞こえてきそうである。だが能動的学習への改善が、教師の指導性をどれだけ抑えるかという観点で論じられ実践が進められてしまう可能性もあり得る。読み研がこれまで実践してきた班による学習指導も、教科内容を含め、教師の指導性抜きには成立しない。また、班の子どもの学習内容(話し合いの内容)をどう把握するかという課題も残されている。ただ、これまでの読み研の班を導入した学習が十分にAL型であることは確かなようだ。
状況への警鐘と期待を兼ねて、2つの対照的なグループ・班の実践を紹介し、拙い私の実践を加え報告したものである。
【注】
注1 2014年 文科省諮問「初等中等教育おける教育課程の基準の在り方について」
注2 2013年 中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力育成する大学へ」に付された用語集。
注3 前掲の答申
注4 小林昭文氏の連載26(2014年10月13付「日本教育新聞」)
注5 内藤賢司「グループ学習を学び合いに生かすためのポイント」(科学的「読み」の授業研究会編 『国語の授業改革6』)所収
プロフィール
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