話せば→わかる。―添削を口頭で行う―

読み研通信84号(2006.7)

広井 護(土佐高等学校)

一 はじめに

 読み研方式を受験指導に応用すると、きわめて有効であることを発見した。
実は、「口頭添削」と名付けるすこし変わった受験指導を行っている。文字通り口頭で行う添削指導である。「赤ペンによる入試問題の添削」に行き詰まりを感じてはじめたもので、読み研方式による説明的文章の指導をベースにしている。その概略を紹介したい。 
 希望者(高三の受験生)を対象に、放課後その生徒の志望する大学の入試問題(いわゆる過去問)を使って職員室の自席で指導する。この点では従来型の添削指導と似ている。違うのは、それを口頭で行う点である。それにともなって指導プロセスも変わる。

二 指導過程

 指導はA、Bの二段階で行う。
(1)A段階では、問題文の「内容」を生徒が口頭で私に説明する。私が納得したらこの段階は終わる。(時間は十分程度)この段階では設問には全く手をつけず、文章内容の把握だけに課題を限定する。
(2)B段階で初めて生徒は「設問」に取り 組む。そして「解答→自己採点」を行った作業ノートを私のもとに持参して、出来不出来とその理由を私に説明する。模範解答ははじめから生徒に渡してある。そのノートについて私が口頭でアドバイスする。(時間は五分程度)
 以上が全過程である。A段階とB段階の間には一、二日の間隔があくことになる。つまり問題文の「内容把握」と「設問→解答」を完全に切り離すのである。これが従来型の問題練習との決定的な違いである。

三 口頭添削のメリット 

 赤ペン添削によって授業の空き時間を奪われるのは、受験高で高三を担当する教師の宿命のようなものだが、その苦痛をなんとか解消しようとして思いついた方法である。ところが結果的に指導上の大きなメリットを発見した。
 第一のメリットは、正解の根拠が、生
徒に明瞭に理解できることである。単なる答え合わせではなく、問題文の要旨をつかんだ上での自己採点であるため、誤答した場合も、問題文のどの部分の読みが浅かったのかがすぐにわかる。まさに「話せば」→「わかる」のである。   
第二のメリットは、「文章と格闘する力」を生徒が自然に身につけられることである。
 問題文を読んでいない教師(私)に、文章内容を理解させるためには、生徒は問題文を精読しなければならない。一読ではなく、再読、再々読と読み返し、内容をしっかりと自分のものにしておくことが必要になる。教師の教材分析ともやや似ている営みだが、その作業において、読み研方式の「柱」の概念が非常に役に立つ。(センター試験を除く)入試問題のほとんどが説明的文章だからである。
 こういう「文章との格闘」は、授業の中では育てにくい。うまくいった討論の授業などをのぞいて、講義形式の授業を聞かせるだけでは、生徒は教材文と格闘するようにはならない。
 第三のメリットは、指導対象の過去問の種類が爆発的にふえたことである。
 従来の赤ペン添削には、問題の種類をある程度限定せざるを得ないという制約があった。例えば、一人の教師がA大学、B大学、C大学…等あらゆる大学の過去問に対応することは難しい。下調べの時間的負担が大きすぎるからである。
 ところが「口頭添削」では、あらゆる大学の問題に対応することができる。実際私は、「どんな難しい大学でも、どんなやさしい大学でも過去問さえあるなら受け付けるよ」と生徒に呼びかける。
 というのはこの添削は、教える側が問題文も設問も読まずに行うことができる指導だからである。(それについては後述)添削希望者にとって、ふつうの問題集や特定大学の過去問ではなく、自分の志望する大学の過去問をストレートに指導してもらえるメリットは大きい。

四 指導の細部

 A段階の指導の細部を補足したい。
 指導のA段階で、生徒は問題文の内容を私に説明するのだが、この段階で生徒が行うことは次の三点である。

(1)形式段落ごとに問題文の要点をノートにまとめて来る。
(2)口頭で問題文の内容を私に説明する。
(3)私が納得してOKを出すまで説明を繰り返す。

 一方私は、生徒のノートをコピーして、それを見ながら三段階の発問を行う。

(1)「これは何についての文章ですか。一語で言ってください」
(2)「全体の内容を大まかに言ってみてください。前半はどうで、中盤はどうで、後半はどうというように」
(3)「形式段落ごとに細かく説明してください」

 つまり、聴き手である私の問題文に対する理解が、「全体から部分へ」と進むように発問を組み立てるのである。そして説明を聞きながら、不明な点を質問し、言葉不足を補って内容を明確化してゆく。
 また、説明を聞いて納得がいかないところは、文章のその部分を私も実際に読んでみる。すると、ほぼ一読で内容を把握できる。
 これは、私自身も驚いたことだが、文章の全体構造や前後の内容を、(生徒の説明によって)おぼろげにつかんだ上で、細部を読むと、きわめて短時間に内容を把握できる。簡単な問題文であれば、一読もしない場合もある。
 大切なことは、生徒自身が自力で問題文を読むことであり、生徒自身が文章と格闘することである。教師は、生徒の読みに伴走すればそれでよいと考えている。

五 終わりに

 口頭添削を行うようになって、赤ペン添削の限界がはっきりと見えてきた。
自分の答案を赤ペンで修正されても、生徒にはその根拠がわからない。問題文のどの箇所をどのように読み深めることで模範解答にたどり着けるのかという筋道が見えない。文章内容をつかむ前に設問に答えてしまう傾向が強いからだ。だから回数を重ねても効果があがらない。
 逆に、問題文を丁寧に要約すると、生徒は設問を文章構造の中に位置づけることができるようになる。すると回数を重ねるごとに解答にたどりつく筋道がつかめるようになる。ヘビーな入試問題を三問くらいこなすと、はっきりとした効果があらわれる生徒が多い。また本格的に読みの力をつけてきた生徒は問題文の論理矛盾や不適当な設問、模範解答の不備などを指摘するようにもなる。
 最後に、この指導法の限界は個人指導に終始するところにあると感じている。生徒対教師のマンツーマンの関係を生徒対生徒の関係を組み込んだ集団的な学びへと発展させたいと、現在模索中である。

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