「書くこと」再考・「読むこと」再考 ―三読法の実践事情―

読み研通信76号(2004.7)

加納一志(東京都多摩市立多摩中学校)

わたしの課題意識

 よみ研方式の三読法を授業で実践しはじめて一五年ほどが経つが、国語教師として二つの大きな課題意識を持っている。
 一つは、「読む」だけを教える授業実践に多くを傾けすぎていたという反省である。生徒が読むことと書くことの作業を一つの授業の中で相互に関連させながら学習できないものか、三読法の優位点を活かした授業を、書くことと関連づけて発展させることはできないものかと思っているのである。
 二つ目の問題意識は、三読法の実践での扱い方(どの段階、どの学年でどのような言語技術を習得させるのか)の問題である。私は三読法を実践しはじめた頃、一つの作品で必ず三つの読みの方法を教えようと努力した。しかし、今は三読法のいずれかの言語技術を一つの教材で習得させるように心がけている。が、中学三年間(または一年間)で本当に生徒たちに体系的な技術を習得させられているかという問に、はっきりとした答えを出せない自分がいることに気づく。今まで三読法の教育技術の研究や実践には問題意識があっても、それを生徒にどのように体系的に習得させていくのがよいかという点では弱かったのである。
 今回は、この二点について自分の実践も提示しながら述べていく。私自身が中学校一年生を対象に「書くこと」と「読むこと」をどのように関連づけて実践しているかを報告してみたい。
 学年は一年。教科書は三省堂。四月の入学後五月までに、小説の指導を四作品してきた。ニ作品は教科書教材。ニ作品は教科書以外である。作品と指導の要点は次の通りである。

■『竜』(今江祥智 三省堂・一年)
小説のあらすじをつかむ四条件(時・場・人物・事件)の指導
■『大人になれなかった弟たちに……』(米倉斉加年 光村・一年)
小説の構造よみの指導
■『キッドナップ・ツアー』冒頭部(角田光代 新潮文庫)
小説の導入部の書き表し方
※冒頭文を自作してみる。
■『アイスキャンデー売り』(立原えりか 三省堂・一年)
小説・人物像読解ポイント

『大人になれなかった弟たちに……』で「書く」・「読む」を教える

 この作品には場面設定のみごとさがあり、それが読み手をひきつけている。ゆえに、実践上は構造よみを指導するのに典型的な教材であると思われる。もともと舞台俳優である米倉斉加年氏が絵本の場面とマッチするように物語を創り出しているからである。しかし、この作品は文体の鋭さや一語一句の形象性が特別深いわけではない。確かに物語の構造上の見事さからくる形象性はあっても、一つ一つの言葉は考え抜かれた小説家のものとは違う。だからこそ、そこが「書くこと」の指導のキーポイントになりはしないだろうか。例えば、「美しい(美しく)」という表現は三箇所出てくる。一つは親戚を尋ねた時の母の「美しい顔」。二つ目は疎開先の村に着いた時の「美しい青空」。そして、B29の「きらっきらっと美しく」輝く機体。この三つの「美しい」を書き換える授業をやってみると、「美しい」の一次形象・二次形象を読み取ろうと努力しはじめる。

『キッドナップ・ツアー』で「書く」・「読む」を教える

小五の少女が二ヶ月前から家にいなくなったお父さんにユウカイされて送る夏休みの物語。第一章導入部(最初の8ページ)を印刷して読ませ、生徒には隠しておいた。導入部には「時・場・人物・事件」が設定されることは、すでに『竜』と『大人になれなかった弟たちに……』で教えてある。導入部の中から「時・場・人物・事件」設定のキーワードを抜き出して生徒たちが創作したものを次に示してみる。

◆ 今日から夏休みだけど、全然胸がはずまない。
◆ 夏休みの初日に、私はユウカイされた。
◆ 家にお父さんがいることなんて、忘れかけていた夏休みの始まり。
◆ 今日から待ちに待った夏休み、私はお父さんにユウカイされた。
◆ みんな夏休みに予定があるけど、私には予定がない。

 生徒たちは自作の冒頭文と友人の冒頭文を比べ、推敲と本文の形象よみを繰り返していく。おもしろいことに、本物の冒頭文(「夏休みの第一日目、私はユウカイされた。」)と似通った文も創り出した。また、生徒たちに最も魅力的な書き出しはどれかと尋ねると、本物と似通ったものに手を挙げる生徒は少なかった。作者の意図や工夫と形象・叙述の関係を考えさせていくのにも楽しいアイデアである。

『アイスキャンデー売り』で「書く」・「読む」を教える

 この作品では人物像を読解する(姿形・心情・性格・生活)線引きポイント(1行動描写・2会話・3普通と違う表現)を指導した。教科書内のいくつかの形象の読み方を指導しつつ、生徒が形象よみした箇所で鑑賞文を書く指導をしてみた。自分はどの人物の何を読み取り、どう読み取ったのかを意識しつつ「書くこと」が行われていく。
 二学期は『空中ブランコ乗りのキキ』で心内語『トロッコ』で心象風景を書かせる指導を。三学期は高橋健二訳の『少年の日の思い出』と岡田朝雄訳の『クジャクヤママユ』の訳文の違いについて批評文指導を考えている。説明的文章読解指導と「書くこと」の関連づけもこれからの課題であるが、読解指導の良さをさらに発展させるような「書くこと」指導に少しこだわってみたいと思う。みなさんの「書くこと」と「読むこと」を相互に関連させた実践と研究について、これから先にぜひうかがっていきたい。

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
「読み」の授業研究会は、子どもたちに深く豊かな国語の力を身につけさせるための方法を体系的に解明している国語科の研究会です。
2021年に設立35年を迎えました。