「竹取物語」の冒頭部分を読む
内藤賢司(運営委員)
私の、次のような小さな読みの試みでも、古典の読みのおもしろさが生徒たちに広がった。その実践を次に報告します。
「竹取物語」の冒頭部分(教科書掲載部分)を、小説・物語の導入部を読む指標で読んでみたい。この指標(時、場、人物、事件設定など)を使って読むことで、読みの広がりと深まりが生まれることを生徒たちに実感させたい。実際、この指標を使った私の実践でも、読みの広がりと深まりが生まれたように思う。
冒頭部分(導入部の一部)を次に引用する。(三省堂版『現代の国語1』)
今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
野山にまじりて竹をとりつつ、
よろづのことに使ひけり。
名をば、さぬきの造となむいひける。
その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。
あやしがりて、寄りて見るに、筒の中光りたり。
それを見れば、三寸ばかりなる人、
いとうつくしうてゐたり。
小説・物語では、冒頭部分(導入部と重なる)に、これから展開する事件の仕掛けが多様な形で存在している。その事件の仕掛けを、導入部を読むときの指標で読んでいくのである。ここでは、読むべきところの線引きが済み、その線引きした部分についての形象を読むところから述べていくことにする。(この作品の導入部はもっと長いのであるが、ここでは中1の教科書に掲載されている所だけを扱う。)
(1)時の設定
○ 今は昔
・ もう昔のこと。
・ むかしむかし。
・ これから語られることは、相当昔のことであるということ。
(2)場の設定
○ 野山にまじりて
・ 野山に近いところ。野山が近くにあるところ。野山からそう遠くないところ。
・ 「里」のイメージ。
(3)人物の設定
●「竹取の翁」について
○ 竹取の翁
・ 親しみを込めた言い方。愛称。あだ名のようなもの。
・「竹取の翁」というように、周りの人たちに認知され呼ばれていた。
・ いつも「竹」を取っていたのだろう。
・ 竹に関わることをしていたのだろう。
・「翁」とあるから、かなり歳をとっている。
・ この時代の人の平均寿命はどれくらいだったのだろう。
○ 野山にまじりて竹をとりつつ、よろづのことに使ひけり。
・ 職業が読める。
・ 竹でいろんなものを作って、それで生計を立てていたのではないか。
・ (例えばどんなものが考えられる?) → かご、箸、お椀、ざる、味噌こし、釣り竿、箸入れ、御簾、魚籠、柄杓……。
・ 竹に関わることで生計を立てていたということから、そんなに裕福な生活をしていたとは思えない。
・ 野山に分け入って竹をとってきて、いろんなものに使っていたということであるから、「翁」とは言っても、まだまだ元気のようである。
・ 「よろづのことに使ひけり」とあるから、竹を加工していろんなものを作っていたということは読めるが、それを売って生計を立てていたというところまで読めるかどうかわからない。
・ いや、作るばかりでは生計は立てられない。やはり作ったものを売っていたのではないか。
・ 竹でものを作るのが上手な人だ。
○ 名をば、さぬきの造となむいひける。
・ 名前がわかる。「さぬきの造」という人である。
* この部分には、深く立ち入る必要はないだろう。名前が「さぬきの造」であったということぐらいでいいと思う。新潮日本古典集成『竹取物語』によれば、補注のところに、「大和国広瀬郡散吉(さぬき)郷に住んだ讃岐氏の一族か。」「『造』は朝廷から任命された郷の長であろうが、後に『造麻呂(みやつこまろ)』とあり、個人名となったものであろう。」とある。
● 「かぐや姫」について(この段階では、まだ「かぐや姫」とは出てこないが、もう生徒たちは知っているので、「かぐや姫」とする。)
○ 筒の中光りたり。
・ 筒の中にいた。
・ 光を伴っている。
・ 光り輝く人物である。
○ 三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。
・ ずいぶん小さい。(一寸は約3㎝ぐらいである。)
・ とてもかわいい人である。
・ 竹の筒の中に座っていた。
・ この世の人とは思えない。
(4)その他の事件設定
○ その竹の中に、もと光る竹なむ一筋ありける。
・ 多くの竹の中で、一本だけ根本の光っている竹があった。
・ 何か不思議なことである。
・ どうして、この翁の所有する竹にだけ現れたのだろうか。
○ 筒の中光りたり。
・ 筒の中が光っている。それが外から見える。
・ 筒の中だけが光っているのではなく、その光も外にもれ出ている。
・ あり得ないことである。
○ 三寸ばかりなる人、いとうつくしうてゐたり。
・ 不思議な人である。
・ 竹の中からの出生ということになる。
・ どうして、竹の中にいたのだろうか。
・ 何か幸せをもたらす人物ではないか。
・ 不吉な予感もさせる人物である。
・ 何かとんでもないことが起きそうだ。
・ 翁も驚いてしまっただろう。怖くはならなかっただろうか。いや、怖いというよりも、心を引きつけるような存在だったのだろう。
・ 二人の運命的な出会いである。この後の展開も思いもかけないことが起きそうである。
○ (文章の始まりの一文)今は昔、竹取の翁といふ者ありけり。
・これはもうずいぶん昔の話であるということ。
・ 語り手によって語られるもので、物語の始まりの一般的なパターンである。
・ 聞き手(読み手)の関心を、昔へ誘い込むような働きがある。昔を語り手と聞き手で「今」の時点で共有し合う言い方。
○ 話者設定
・ 語り手は第三者である。
・ 話者は、昔のことを聞き手に語り聞かせている。あるいは、昔語りに仮構しながら、話者の思いを述べようとしている。
・ 淡々と語っているようにみえる。
・ 果たして、語り手の意図はなんなのだろうか。興味あるテーマである。
このように、導入部の読みの指標を使って読んでいく。いろんな意見が出ておもしろい授業になると思われる。指導言によってはさらにいろんな意見が出ることだろう。ただ、初めての古典学習であるので、あまり細かにならないようにすることも必要だろう。
いずれにしても、近代や現代の小説を読むようにして古典を読んでいっても、十分に読めるということを、私は実際の授業で実感したのだった。生徒たちからは、冒頭のこのわずかの部分から、こんなにたくさんのことが読めるのかという驚きの声がでる。そして、「古典って、いろんな想像ができておもしろいじゃん。」といった声も出る。そしてまた、このやり方は、他の小説の導入部を読む場合の練習にもなる。ぜひ、実践を。
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