漢文を楽しく深く
『読み研通信』102号より
1、漢文は奥が深い
生徒が抱く疑問として、「英語をなぜ勉強するのかわからない。」というのがある。同様に「古文をなぜ勉強するのか。」という疑問もある。これは社会科で言えば、地理をなぜ学ぶのか、歴史をなぜ学ぶのかということにも通じるものがあるのだろう。国語を教える際に、こういった疑問に答えられるようにしておかないといけない。もちろん簡単に生徒を納得させられるものではないのだろうが、古文・漢文を学ぶ意味を伝える努力なしに授業は成立しないのではないかと思う。
まずは、古文は日本の古い文章であり、歴史的仮名遣いで書かれており、文語文法にのっとっているため、生徒には難しく感じる。現代文でも読み取り困難な生徒にとって、敬遠しがちになるのも無理はない。ましてや中国の古い文章なんていうと、自分とは関係ない、外国語以上に学ぶ意味がわかりにくい。
そこでなんとか興味がわくように漢文を学ばせたいと考えている。そのために古文や漢文の奥深さや楽しさを生徒の目線で伝えるようにしてきた。
2、漢文は中国語である
各学年においてポイントのおさえ方に違いはあるにせよ、漢文の授業びらきはおおむね次のように行ってきている。
①漢文は中国語であることの確認
②漢文の読み方のコツ
③日本人に通じる考え方
まず、漢文を国語のつもりで勉強し始めると理解できない語句を敬遠してしまうことになる。初めに漢文は中国語なのだから、英語と同じように外国の言語を学ぶ覚悟をもつように言っている。英語の勉強方法を漢文でも生かせることがあるので、生徒にどうやって英語を勉強しているのかを聞いてみると興味がもてるだろう。
とは言っても、もちろん中国語の発音を教えて、会話ができるようになることは授業の目標ではない。しかしなまじっか漢字が使ってあって意味がわかるからと、わかった気になってしまうことは避けたい。外国の異文化を学ぶこと、その上時代を何百年もさかのぼって学ぶことはそれなりの準備が必要だと考える。
漢文(中国語)は英語に似ていると説明している。アルファベットと漢字のどこが似ているのか?と生徒はポカンとして聞いているが、文法的には主語・述語の後に何をという目的語がくるということを簡単な文で説明している。以下二年生の十一月の授業でのやりとりである。
T「『私は本を読む。』これを英語に直してごらん。」
C「I read a book.」
T「そうだね。ではそれを中国語に直せるかな?」
C「・・・」
T「(板書して)我読書だよ。」
C「私は読書?」
T「これは中国語だから我が主語で、読が述語で、書は書物のこと本をという目的語になる。目的語っていうのは国語の文法の授業では修飾語といっていたね。」
T「英語の授業で日本語に訳す時にreadとa bookをひっくり返して訳したの覚えてる?『私は読む本を』じゃ変だもんね。同じように漢文でもひっくり返さないと意味が通じないんだよね。それは英語と中国語の文の構造が似ていて、日本語は語順が違うから起きることだよ。」
こんな具合に文法上の違いを理解することが漢文学習の入り口で必要だと考えている。このことがこの後返り点の理解につながっていく。
3、漢文はコツがつかめれば読める
外国語というととっつきにくく感じるかもしれないが、実際には中学で学ぶ漢文はそれほど複雑な文章ではないし、簡単な法則が理解できれば、訓読文を書き下し文に変えることは、それほど難しくはない。
T「昔の日本人はえらいなあ。中国語を日本人にも読めるように訓読文を発明したんだから尊敬しちゃうね。君たちもこの法則さえ理解できると中国の文化に触れることができるよ。」
中学校での漢文学習では返り点や送り仮名のついた訓読文を書き下し文に直して音読することが求められる。だからはじめに簡単に法則を確認しておく。
T「送り仮名って日本語では『歩く』の『く』の部分のように活用のある言葉の活用語尾のことをさすよね。でも漢文では、『本を』の『を』も送り仮名って言っているから、ちょっと日本語とは違うよね。これも中国語との文法の違いなんだ。中国語には日本語の付属語にあたる言葉の使い方が少し違うんだよ。」
T「返り点というのは、レ点や一・二点があるね。これも文法の違いで、述語にあたる言葉を後から読むようにした工夫なんだね。だから返り点がついている漢字はたいてい述語のように動きを表す言葉であることが多いよ。『有』も『習』もそうだね。それをひっくり返して読むんだね。英語でも返り点があるといいのにね。(笑)」
こんな説明をしながら、漢字一字を○印で表した例文に返り点をつけて、読む順番を考えさせた。法則さえつかめば答えがわかるので、生徒は数学の公式をあてはめるがごとく熱中して考えた。一定のパターンが理解できてくると、実際の漢文を読んでみたくなってくる。
漢字をならべる順番がわかって、カタカナで書かれた送り仮名を平仮名に直すだけだということで、それほど難しくはない。ただし置き字については説明しないとわからないので、練習問題ではあらかじめ指摘しておく。ここが理解できると三年生で漢詩を勉強したときに、訓読文にあえて返り点がつけられていないことに気づく生徒もでてくる。そこが倒置法になっているということで、文法上の違いが表現の効果にどうつながっているのかを考えさせることもできる。
4、日本人にも通じる考え方
中国語という異文化を理解する入り口にたった生徒は、故事成語であったり、論語であったり、中国の古くから伝わる言葉や物語に共感を示すことができる。
論語にある「己の欲せざる所、人に施すこと勿かれ。」を学んだときなど、クラスの中の出来事がいくつも浮かび上がってきた。やられて嫌だったことがいろいろ出てきた。計画的に指導できれば人権学習としても考えられるような気がした。
古代中国の人の考え方が現代の日本人にも通じるという経験は、冒頭にも述べたように、古文や英語、歴史や地理を学ぶ意義ともあいまって、いろんな教科で強調されるべきことだと考えている。
プロフィール
- 2019.12.14教材研究漢詩「黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る(李白)」の教材研究
- 2018.02.05教材研究夏草──「おくのほそ道」から(松尾芭蕉)の教材研究
- 2016.07.04教材研究「生物が記録する科学」の吟味読み
- 2015.08.21関連著作加藤辰雄『クラス全員を授業に引き込む!発問・指示・説明の技術』(学陽書房)