福岡八女サークル9月例会の報告と10月例会のご案内

1.9月例会の報告
(1)参加者  11名
(2)日 時  9月2日(土)14:00~17:00
(3)場 所  おりなす八女 茶室
(4)内容(概要)

 ★小説「赤い繭」安部公房(高三)
 
   高校三年生の教科書に収録されている小説「赤い繭」の教材分析を行いました。安部公房
  は「超現実主義」(シュールレアリスム)の影響を受けた前衛的な作品を多く残した作家で
  あり、この「赤い繭」もそのような要素を含んだ短編小説です。
   主人公の男は、「おれの家」を探して街中を歩き続け、そのうち足にまとわりついてきた
  絹糸を引っ張るとそれは自分の身体がほぐれていったもので、それが全身を包み込みはじめ、
  最終的には「おれ」が消滅して空っぽの繭だけが残る、という話です。
   検討した構造は以下のとおりです。

   ○冒頭=発端  「日が暮れかかる。人はねぐらに急ぐときだが、
    |       おれには帰る家がない。……
    |
   ○山場のはじまり「おや、誰だ、おれの足にまつわりつくのは?……
    |
  ◎クライマックス 「繭の中で時がとだえた。」
    |
   ○結末=終わり  ……しばらくその中をごろごろした後で、彼の
            息子の玩具箱に移された。」

 
   発端は冒頭と同じ、「日が暮れかかる。人はねぐらに急ぐときだが、おれには帰る家がな
  い。……」というところになりました。「おれ」についての説明は何もないまま、突然「お
  れには帰る家がない。」という、この作品の事件である「自分の所属する場所を探すこと」
  がここから始まっており、そこから事件が展開していきます。
   クライマックスは、「繭の中で時がとだえた。」というところになりました。この部分は、
  「そして、ついにおれは消滅した。」「後に大きな空っぽの繭が残った。」「ああ、これで
  やっと休めるのだ。夕日が赤々と繭を染めていた。これだけは確実に誰からも妨げられない
  おれの家だ。だが、家が出来ても、今度は帰ってゆくおれがいない。」の後にあり、これら
  の部分もクライマックスの候補として挙がりましたが、【実体としての「おれ」が消滅】→
  【「家」という容れ物を探していた自分が「繭」という容れ物に】→【休むべき夜の手前の
  夕方で時がとだえた】というところから、その「時がとだえた」ところが最高潮に達したと
  ころと捉えるべきではないか、という結論になりました。
   短いですが、男が家を探し続ける行為や、繭の描写など象徴的な描かれ方をしているとこ
  ろが多く、「安心して所属できるところは永遠に見つけることができない」という現代に生
  きる人間への風刺も含まれているような、深い読みができる小説だと思います。

   他に、中学校の短歌と俳句の単元について、また「忘れもの」「ぼくは川」という小学校
  四年生の詩について分析を行いましたが、ここでは省略します。

   今回はいつもより参加者が多く、色々と活発な意見が出され、非常に充実した会となりま
  した。最後は参加した感想や日頃の授業の悩みなども出し合いました。読み研のやり方での
  「一問一答でなく進められる楽しさ」や「読むための土俵を作ることができること」など、
  良さを再確認することができました。二回目の参加者の先生が、「今同じ学年でやっている
  先生に、短歌を読み研のやり方で提案したら、『わくわくする。面白い。』と共感してくだ
  さった。」というお話をされ、読み研の方法の広がりも感じることができました。

   これから一層、多くの先生方にご参加いただき、子どもたちに読みの力をつける方法につ
  いて考えることのできる会にしていけたらと思います。
   

2.9月例会のご案内
 
(1)日時   10月21日(土) 14:00~17:00
(2)場所   おりなす八女 研修棟    ℡ 0943-22-5332
(3)内容   (予定)参加者の持ち込み教材を使って

                連絡先:福岡県久留米市立諏訪中学校  渡邊 絵里

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
「読み」の授業研究会は、子どもたちに深く豊かな国語の力を身につけさせるための方法を体系的に解明している国語科の研究会です。
2021年に設立35年を迎えました。