第10回関西サークル例会報告(2008.1.26 大阪)

 1月26日(土)、9名の参加で第10回例会を開催し、小説の教材研究を行いました。

 最初に、中学校の定番教材である「走れメロス」(太宰治)について、加藤恵美子先生(池田中学校)が報告しました。検討では、「メロスとディオニスは一見正反対に見えるが、人物形象を丁寧に読んでいくとかなり近い性格であることが見えてくるのではないか」「メロスとセリヌンティウスを対比させて読むと意外な形象が浮かび上がってくるのでは」「メロスの使う『信実』の意味が『悪い夢』を通して変化するが、それはどういう変化なのか」等の論点をめぐって意見が出されました。

 次に、「蝿」(横光利一)の教材分析を有賀康文先生(立命館宇治中学校・高等学校)が報告しました。これは高校2年の教科書に掲載されていますが、新感覚派を代表するかなり異色の作品です。「主人公は誰なのか。蝿は主人公と言えるのか」「転落事故は偶然の出来事なのか。馭者の居眠りは日常化していたのではないか」「この作品が生徒に違和感を与えるのは、感情移入を拒否する仕掛けになっているためではないか」などの意見が出されました。

 短い時間ではありましたが、今後授業実践をすすめていく上での様々なヒントを得ることができました。

 以下、参加者の感想を紹介します。

○初めて報告させていただきましたが、以前から教材について抱いていた課題をじっくり考えることができてよかったです。参加された方の意見をうかがって、教材理解が深まりました。これから授業で実践しますが、教材分析のモノサシを教えていただきました。

○初めて参加させていただきました。何もかも新しい視点だったので、ノートに書いて復習をしつつ、自分の読みを深めていきたいと思います。ありがとうございました。

○メロスや王の変化に注目して今まで読んできましたが、メロスとセリヌンティウスを対比させるという新しい見方を教えていただき、とてもおもしろかったです。今まで読み流してきたところからも人物形象が読めることに気づかされましたので、自分の授業にも取り入れていきたいです。「蝿」については、一語一語にこだわり教材分析をされていたので、研究の仕方を勉強できてよかったです。主人公がはっきりしない小説というのは生徒がなかなか興味を持ちにくいと思いますが、生徒たちが考えている小説の常識というものに一度疑問を持たせるという意味で挑戦したくなりました。

○読み研方式による教材研究を今回初めて行ったのですが、今まで見えてこなかった作者の意図などが一つひとつの言葉から見えてきて、目から鱗が落ちる思いを何度もさせていただきました。みなさんの意見により、私の読みの問題点や未熟さ、別の視点がはっきりとしてきて、私自身非常に意義のある発表となりました。

○「走れメロス」は、「表現を対比的に読むこと」「自分の通念(常識)と矛盾する部分を読むこと」、この二つを教えることのできる教材だと考えている。「恐ろしく大きいもの」とは何かということをもっと深く考えていこうと思った。「蝿」は初めて読む小説で、難しかった。感情移入を拒否する作品という見方がおもしろかった。

○中高の作品を研究する機会はとても新鮮でおもしろいと思います。「走れメロス」でメロスの単純さを考えたとき、セリヌンティウスの心の広さが際立つというお話に納得しました。また、これまで主人公を意識することを小学校でやってきましたが、「蝿」には主人公がいないということに驚き、作品の幅広さを感じました。ところで、物語文や説明文など小中高における教材の系統性はどこにあるのだとうかとの疑問を持ちました。

○例会を定期的に開いていただき、本当にありがたく思います。毎回参加することは難しいのですが、参加するチャンスがたくさんあって嬉しいです。「走れメロス」について様々な分析をお聞きすることができて、大変興味深かったです。また、高校教材の「蝿」も非常に興味深かったです!違う校種の教材を勉強することを、また楽しみにしています。ありがとうございました。

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
「読み」の授業研究会は、子どもたちに深く豊かな国語の力を身につけさせるための方法を体系的に解明している国語科の研究会です。
2021年に設立35年を迎えました。