第11回関西サークル例会報告(2008.5.24 大阪)

 5月24日(土)、第11回例会に9名が参加し、教材をめぐって分析を深めました。

(1)「仁和寺にある法師(徒然草)」(小5)
  報告:加藤郁夫(立命館小学校)

 立命館小学校では5年生から古典の授業がカリキュラム化されており、今回は実践をふまえての教材検討でした。
 加藤氏はまず、石清水八幡宮を参拝した法師が本殿以外の付属寺社を回って拝んだ後、「かばかりと心得て」と表現されている箇所の口語訳をめぐって問題を提起しました。従来の注釈書では、そのほとんどが「かばかり」を「これだけ」「これだけのもの」と否定的ニュアンスで訳しているが、その後に法師が「聞きしにも過ぎて尊くこそおはしけれ」と述べているこなどを根拠に、むしろ肯定的に捉えるべきではないか、というのが加藤氏の主張です。また、法師が失敗した理由を三つ挙げ、兼好が直接語っていない「『まじめ』な信仰の気持ちが、かえって本来の目的を遂げさせないという皮肉」が裏の主題として読めるとの指摘がありました。
 そうした指摘をきっかけに白熱した議論が展開し、教材研究の新たな切り口が見えてきました。この教材は通常中2で扱われますが、扱い方次第では小学生にも通用するし、児童・生徒の発達段階に応じた扱い方の深さがあることが実感できました。今後、読み研として古文の実践を各学年段階で積み重ねていくことが課題です。

(2)「山椒魚」(高3)
  報告:岩崎成寿(立命館宇治高校)

 まず、岩崎氏は作品の構造よみについて問いかけ、発端とクライマックスはどこか、その根拠は何かをめぐって分析を検討しました。その中で、この作品の構造がかなり特殊であること、「二つの勢力」の規定が複雑であることが見えてきました。最初は「発端」の場所が4カ所も出されて意見が対立しましたが、討論を深める中でかなりの部分で各自の見解が一致することもわかりました。ただ、慣れていない生徒を相手に授業にかけると混乱を招く恐れもあります。典型作品を読む力がついた生徒たちが構造よみをすると面白い作品であると言えるでしょう。
 また、三人称の語り手がユーモアと皮肉を込めて主人公の言動を批判的に語っていくという仕掛けがあり、特に、読者に向かって「諸君は……」と語りかける部分に深い意味があることがわかりました。
 最後に、「山椒魚はいつごろ敵意を喪失したのか」や「蛙が『今でもお前のことを怒っていない』とはどういうことかについて意見交換し、ここは授業化すると面白い箇所であることが確認されました。

 最後に参加者の感想を紹介します。

○小学生に古文を教えるということに非常に興味があって拝聴させていただきましたが、作者中心の読みに論点が終始しがちな「仁和寺にある法師」で、登場人物である法師の心情に沿って読むという方法を提起されたのは「目からウロコ」の感を抱きました。特に法師が失敗した理由を分析していくのは、より法師のキャラクターが明白になり、これだけでも多様な読みが可能なので、これからの自分の授業にも参考にさせていただこうと思いました。

○「徒然草」については、小学校で扱う場合には登場人物に寄り添って読む方が理解しやすいであろうという点、中学校ぐらいでは語り手と登場人物の温度差を読むのも興味深いという点などがおもしろかったです。「山椒魚」では、歯ごたえのある文章を読み込む楽しさを味わいました。「蛙」から「相手」へと呼称が変化するあたりなど、言葉に着目する大切さを再認識しました。語り手の「ツッコミ」の意味は、生徒に考えさせるのは難しいかも知れませんが、面白そうだなと思いました。

○例えば、本校では「仁和寺にある法師」を「仁和寺にいる僧」と訳すだけで、一定の時間が要ります。「ある」が存在を表す云々……という文法的説明があり、例文を示し、という具合です。この52段は過去に扱ったことが多いのですが、今回のように解釈していく方法はとても興味深く、面白く感じました。古文授業の可能性が広がるのでは、と思いました。

○いつも思うことですが、一人で分析するより、たくさんの方とあれこれ討論しながら分析する方が読みが深まり、教材への魅力が深まることを実感しました。これから説明文に入っていく予定ですが、説明文の分析方法も読み研方式でやってみたいと思っています。授業をおもしろくする方法をこれからも研究していきいきたいと思います。よろしくお願いします。

○今日はとっても難しかったです。前半の徒然草はとても興味深く学ぶことができました。小学校の古典になぜこの教材かということを聞きたかったのですが、古典を通して言葉をもっと深く味わえるのだなと勉強になりました。「山椒魚」は撃沈しました。次の学習会も楽しみです。ありがとうございました。

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