『走れメロス』の学習を終えて
『走れメロス』の授業を終えて、皆さんに感想を書いてもらいました。私はとても感心しながら皆さんの感想を読みました。君たち、なかなか鋭いじゃないの! 何人かの感想文から部分的に抜き出して、並べてみました。これらを読んでみると、「走れメロス」という作品の魅力が、もっと実感できますよ。
※ ......信実を知らない者と知ってる者とでは、ものの考え方が違うと思う。知らない 者は幸せだと思う。それは走る前のメロスのように夢があるし、良い事と悪い事と を素直に判断できるから。......
※ ...信実というのは、もっと自分からすすんでやれるものだと思ってたけど、そんな 簡単なものではないコトだと思いました。......信実をつらぬくコトはとても大変で、 いつもつらぬけるわけじゃないけど、それでも人は生きていかないといけない。... ...
※ 「走れメロス」の中での「信実」は、「得体が知れず恐ろしいもの」となっている が、僕が感じている信実とは少しちがうと思った。僕が考えている信実は、なんか よくわからないけど「裏切ったらヤバイもの」。でも「走れメロス」で読んだ信実 もうまく当たっていると思う。......
※ 前に一度読んだときには、メロスとセリヌンティウスの友情の物語だけのように感 じたし、王も簡単に変ってしまったので、あまり読みごたえがなかったが、授業で 読み進めていくうちに王の心のゆらぎや、メロスの考えている「信実」が変ってい く様子や、なぜ変わったかなどが見えてきて、おもしろかった。......
※ 「走れメロス」は一度読んだことがあったけど、ここまで深い話だとは思わなかっ た。......ディオニスも一応人を信じたいんだ、とか、だいぶディオニスに対する印 象が変った。悪い夢のところで、メロスが王以下のところまで落ちぶれてしまった りするところは、とてもびっくりした。......
※ ......とにかく信実をつらぬきとおしたメロスは、人間らしい弱い心も持っているが、 本当に強いと思った。
※ ......メロスは本当の信実を知らず、王様は何かわからないでとても恐ろしいものが 信実だと知っていたということが分かり、おどろきました。しかし、その信実から 逃げるかあきらめずに立ち向かうかでは、ぜんぜん違うと思いました。......
※ この話の中には二つの信実があったけど、私は最初のメロスが考えた信実が、信実 だと思っていた。でも、話を読んで主題読みをして、もう一つの信実があって、信 実とはすばらしいものでなく、こわく恐ろしいものだと知った。私は、メロスが間に合ったことよりも、「信実」に勝ったことの方がすごいと思った。
※ 最初に読んだときは、言葉も難しくなく、ほとんど何も考えずに読み終えてしまい ましたが、授業を聞いているうちに、一つ一つの言葉が選ばれて書かれているとわ かりました。「信実」という大きなテーマで、二つの側面について述べていて、最 終的に「恐ろしいものである」と書かれていました。しかし、スピード感があり重 苦しくないので、作者のセンスがすごいと思うざます。また、メロスが作者と重ね られていて、主題を偉そうに述べて終わるのではなく、少し控え目に(最後に照れたように)書かれていて面白かったです。......
※ 形象読みで王の性格を読んだときは、王のかわいそうな面、あわれな面など、沢山読めて、人を信じられないで乱心といわれている王を哀れに思えた......。この物語 を読んで、人間の本心、信実をつらぬき通す難しさ、そして自分はいつも自分の逃 げ道や言いわけを見つけながら生きているなと、実感しました。
※ 「信実」が苦しく辛いものなのは、メロスも暴君も生きているし、心があるから見 ることができたのだと思います。......「信実」を知らずには、人を知ることはでき ません。暴君ディオニスは、メロスとセリヌンティウスに助けられていたんだと思 います。
※「走れメロス」を読んで、太宰治が物語にこめた感情が沢山自分に伝わって来まし た。......メロスが、これでもうおしまいだ、となった時に水の流れる音がし、結局 メロスを助けるものとなったが、それは僕は、神(?)又は信実が、メロスを助け ようとしたものかな?と思いました。僕には、信実はただ恐ろしいだけではなく、 このような壁を作り、人に壁を通りぬけていくような心を作るためにあるものでは ないのか、と思いました。
※ 最初、「走れメロス」を読むと聞いて、がっかりしました。よく知っている話だし、 ヒーロー(主人公)が結局最後には勝つというベタな話だと思っていたからです。 でも、いざ読んでみると、すごく奥が深く、メロスや王の気持ちがわかるところも ありました。......実際、この作品が多くの人々に長い間読まれているのも、メロス や王の中に自分を少しでも見ているからかもしれません。......私はメロスより王の ほうが好きです。王は逆にメロスに思い知らせたと思います。途中、メロスは王以 下のレベルまで落ちましたが、すぐにはいあがりました。王は長い間苦しんでいて、 そこからやっと信実を見つめることができたので、私は本当に王におめでとうと言 いたいくらいでした。......
※ 最後のシーンにまでメッセージが込められているとは・・・。自分にはまんまの事 を書いた文章しか書けないです。......それはさておき、信実がきびしいものとさと ってしまった。メロスがそれでもなお信実を守り通そうとする訳ですが、実はこれは太宰氏の自分に対する理想ではなかろうかというトンデモ理論を展開してみます。
※ ......(暴君ディオニスは)裏切られたから人を信用しなくなったのではない気がしました。王はそのせいで人を信用しなくなったのではなく、信実の意味を知ってしまった時に、その信実が恐ろしくなって逃げ出したんだと思いました。......
※ ......今回、文を深く読んでみて、けっこう面白い話だなと思いました。最初は「正 義のためなら死ねる」みたいな考えが気に入らず、拒絶反応がでてましたが、メロ スの気持ちに共感できることが多かったです。私が、この物語の登場人物で一番印 象に残ったのが、王のディオニスです。多分、作品の中で一番人間らしかったと思 います。人が信じられなくなったディオニスと同じ気持ちをかかえている人は、今の時代、多いと思います。
※私は最初、信実は美しいものだと思っていた。主題読みになるまでずっとそうだと思っていた。だけど実は、恐ろしいものだということが私にとって衝撃的だった。 でも、それに勝つことができたメロスと、メロスを待ち続けたセリヌンティウスは、 本当にすごいと思う。......でも、まだ信実は私にはよくわからない。わかるまでか なりかかりそう・・・。
※人間を大きい力で引きずり苦しめてゆく。それは私が軽く考えていた信実の意味と は全く逆で、別のものでした。今回、「走れメロス」という作品を読んで、人と人 の間や、一人一人の人間の中に存在する大きな力について考えることができました。「信実」というものの圧力に押しつぶされないように、せいいっぱい生きたいと思います。
※ メロスが最初は自信を持って、私には愛と信実の血が流れている、とありましたが、走っていくうちに自分のこころ、本当の心を知ったんだと思います。
※ 今思うと「走れメロス」の主人公はメロスじゃないとダメだと思いました。メロスのように純粋な人でないとこの話は成り立たないと思いました。
※ 信実は、今までは普通にいいものだと思っていたけど、実はとても恐ろしいもので、 それでも逃げずに生きていくということを知った。人を信じても信じられなくなっ てしまうときもあり、スポーツだったとしても、絶対に勝てるって信じてても負け てしまうなど、考えてみればいろいろあり、自分も今までに同じようなことがあり、 信実ってものは、簡単だと思っていたが、難しいものであることがわかった。
※ やはり「信実」とは表面的にただ良い、やさしく美しいものではないと思いました。 ......僕はメロスと同様、最初は「信実」というものを甘くみていましたが、約束と いうものは一言でいえるものではなく、とても厳しくやぶることはできない恐ろし いものと、特に中学生活を送っているなかで実感してきました。
※ ......信実とは恐ろしくて、自らはコントロールできず、引きずられてしまうも・と 書いてありました。ああ、なるほど。こういう考え方もあったのか!と感心してし まいました。
※メロスがおくれそうになっても信じつづけていたセリヌンティウスもすごいと思 った。
※メロスは最初、王は信実を全く知らないと思っていたが、本当に全く信実をしらなかったのはメロスであった。メロスは走り出した頃、自分は正義のヒーローで、王 は完全に悪者になっていたが、実はメロスも王も同じ人間であった。この話を授業 で読んではじめてそのことに気がついた。この話はメロス中心で展開しているが、 セリヌンティウスやディオニスの目線から見た話もあったら面白いと思う。
※ メロスとセリヌンティウスの友情はとてもすばらしいと思いました。......「信じる ことから友達づくり」っていうのは本当だなあーと思いました。......あと、信実と か愛とかは、すばらしいのと同時に、おそろしくてこわいものっていうのは、なる ほどって思いました。だけど、その信実を大切にして生きていけたらいいなぁと思います。
※ 本当の意味での、とても重い「信実」を知った今、私はどうも日常的に「信実」と か「信じる」などの言葉を使うのがためらわれます。......私はまだメロスやセリヌ ンティウスのような「信実」は理解できません。理解しようとせず、恐ろしいもの から逃げてしまうかもしれません。けれどいつか、「信実」を自分の身をもって理 解し、「信実」のために走り、生きつづけたいと思いました。
※メロスはディオニスのように自分に負けて人をうたがうような人にならなくて良 かったと思った。本当に強い人は、引きずられているにしても、走ってこられる人 だと思いました。
※最後に読んだ作品が、これほどずっしりしたものでとても満足しています。中3で 読む作品も意外性のある話であることを期待しています。
プロフィール
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茗溪学園中学校高等学校(茨城県)、成蹊大学(東京都)
[専門]国語科教育法、学力論
[趣味]万年筆、鞄
- 2021.11.28授業づくり『走れメロス』の学習を終えて
- 2018.12.24授業づくり『鉄道員』創作問題
- 2014.09.29授業づくりディベート入門
- 2001.08.10教材研究小川国夫『物と心』 ―形象・主題よみの授業のポイント―