「教育基本法第10条」の吟味よみ

高橋喜代治

 昨年10月、大学の国語科教育法で「教育基本法」の吟味よみを行った。学生への課題を次に示す。

○次の条文は現教育基本法と改定案の第10条(教育行政)です。比較し、その違いについて考察しなさい。また、あなたはA、Bのどちらを支持するか決め、その理由も述べなさい。更に、どちらが現、改定か予想しなさい。

A
教育は不当な支配に屈することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行わなければならない。
2 地方公共団体は、その地域における教育の振興をはかるため、その実情に応じた教育に関する施策を策定し、実施しなければならない。

B
教育は不当な支配に屈することなく、国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである。
2 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。

「A、Bいずれが現教育基本法か」などの問いは教職課程の、しかも3年生の学生達に対しては常識的すぎやしまいか、などと思ってはいけない。誰も分かってはいなかった。余談になるが、学校現場の先生方だって、この二つを示しただけではたぶん半分くらいは判別がつかないと思う。

 私の説明なしで、最初に15分で学生達が書いたA、Bの読みをいくつか次に示す。

・Bの方は、教育は国民のためのものだという考えがあらわれている。Aは地域での教育の振興を重んじている。
・Aは法律に対して従うべきだが、実施するのは教育行政ではなく地方公共団体としているところから、地域ごとの教育に力をいれている。
・Aはより明確。「法律によって」や「地域の実情」など。Bはあいまいさがある。「教育の目的」とか「必要な諸条件」など。

 この時点での学生に支持を問うと、Aが多かった。理由を聞くと「Aの方は、教育は法律に従って行うということが強調されていて、法治国家にふさわしい」という意見だ。更に「どちらが現教育基本法か」を問うと、同じくAが多かった。

 次に第1項について次のような助言を行った。

  前半「教育は不当な支配に屈することなく」は同じ文言だが、後半の違いで「不当な支配」はどう違ってくるか。または同じか。

「不当な支配」とはどんな力なのか。後半部分のつながり方で大きく違ってくるからだ。
 この吟味では次のような読みが出された(学生の発言を私が整理したもの)

・Aは「法律に従って」ということだから、「不当な支配」は「公的」以外という感じになる。
・Aは遵法を強調しているので、「不当な支配」の前半部分は無くてもよい気がする。
・Bは「国民全体に直接に責任を負う」とあるから、「不当な支配」とは「国民全体」と違うもの、ということになる。
・Bは「国民全体」に「直接」とあるから、「不当な支配」と対比されているのではないか。

 A、Bの違いが段々分かってきたところで、更にBの「国民全体に直接に責任を負う」の吟味を行った。「国民全体に間接に責任を負う」とはどういうことか問うたのである。学生の吟味は次のようなものであった(これも学生の発言を私が整理したもの)

・「間接」だから国民全体に対しての責任が軽くなる。
・「間接」となると、国民以外に責任を負うことになるような気がする。

 そこで、「国民以外」とは何が考えられるか、問うた。学生達が考え込んでしまったので「国民全体に対立する概念は?」と聞くとやっと「国」、「国家」という支配機構が出された。そして学生達はどうにか「不当な支配」とは国家権力による支配であることに辿り着いた。
 その後、第2項の「教育行政」の「教育条件整備」についての「現」と「改定」の吟味を行って授業を終了した。
 学生達は教育基本法成立の歴史的背景や憲法との関係などの知識が少ないので「不当な支配」や「教育行政」の「条件整備」の意味などを深く読ませるのが予想以上に難しかった。学習後は学生達のA、Bに対する支持状況はBの方がかなり多くなった。

 授業後の学生のコメントを掲載する。

・ 現行法は第1項と2項が深く結びついているが、改定法は1項と2項の関連が弱いと思う。
・ 今日の授業でいったい日本の教育はどうなってしまうのか心配になってきた。
・ 始め何だか分からなかったが、二つを比べて読むと、二つの条文の意図やねらいの違いがすこしずつ分かってきたような気がする。