文末表現や接続語で段落の中心をつかむ?
高橋喜代治
―埼玉県の「教育に関する三つの達成目標」パンフの件―
次のテキストをみなさんはどう思われるか。埼玉県教育委員会が昨年4月に出した「教育に関する三つの達成目標」のパンフレットの国語(中一)の説明文の例示である。いわば、教師のための教科書のようなものである。ちなみに「三つ」とは学力、規律ある態度、体力のことだ。
中学校一年生でしっかり身につけましょう
文章の構成や展開をとらえて内容を読み取ることができるようにしましょう。
※文末表現や接続語に気をつけて段落の中心部分を押さえましょう。
〈筆者の問題提起の段落〉
1 動物たちはそれぞれ特有の方法で、身の回りの情報を得たり、得た情報や気持ちをたがいに伝え合ったりして生活している。特に、群れで暮らすことの多い動物たちにとって、それはとても重要なことである。
2 海で暮らす動物たちは、どのようにして情報を得たり、伝え合ったりしているのだろうか。クジラを例に調べてみよう。
〈問題に対する答えの段落の一つ〉
3 クジラたちは、周りの状況を的確に察知し、とても上手に生活を送っている。そのことから、クジラたちは、情報を受信・発信する何か優れた手段をもっているのではなかと、かなり以前から話題になっていた。しかし、その「何か」は、長いことなぞのままだった。
4 ところが、クジラが鳴くことが知られるようになって、このなぞが解明され始めた。クジラの発する音が、優れた働きをしていることが明らかになってきたのである。
「クジラたちの音の世界」(中島将行)
〈これが身に付くと〉
文章の構成や展開をとらえて読み取ることで、長い文章でも内容をまとめることが容易になります。また、2,3年生での、文章を読んで、自分の表現に役立てる学習につながります。
他に古典や作文、漢字などの例示があり、「これだけはしっかり身につけましょう」として、県下の全ての学校と保護者に配布された。現場よ基礎学力をしっかりやれ、ということなのだろう。
1年後に、身に付いたかどうか一斉テストを実施するというので、学校現場はかなり気にして混乱した。県がそのデータを公表しようとしているのは分かっているので現場は学校間格差が白日のもとに晒されやしないかなどと、色々心配もしたのである。
学校には学校裁量の年間指導計画があるというのに、このパンフが何の相談もなく突然現場に下ろされた。親にも配ってあるから、現場などに文句を言わせないという県の強固な決意すら感じる。ビックリして私は町の教育委員会などに「学校の教育課程編成権を侵害しているから抗議したらどうですか」と進言したが、今の教育委員会にはそれを「侵害」だなどと受け止める器量など全然ないことを再認識しただけだった。
ところで、千歩も百歩も譲って、教育課程編成権のことは傍らにおいて、ではこの説明文の例示で指導したら力はつくのだろうか。
執筆者(県教委)は「文章の構成や展開」をとらえれば「内容を読み取ることができる」としている。まあ、そこには私もおおよそ異存はない。疑問なのは「文末表現や接続語に気をつけて」、「段落の中心部分を押さえましょう」の読みの方法である。文末表現や接続語に気をつければ段落の中心部分は押さえられるという。
執筆者の読みの理論に従ってやってみる。
例題文には段落の中心部分として「海で~だろう。」の文にアンダーラインが引いてある。この文の文末は「いるのだろう」となっているから、そこに着目すれば確かに問題提起の段落だということは読み取れる。だが、説明文は文末が疑問形になっている箇所は一つではないことの方が圧倒的に多い。その場合どうするのだろうか。また、何故問題提起の段落が中心なのだろうか。つまり1と2の関係である。現場で子供に教える場合、そここそが肝心なのである。
次に3と4である。執筆者によれば、この4が答えの段落の一つ(中心部分)であるのは「ところが」の接続語だということになる。変だと思うがそれしか判断材料がない。文末表現は「のである」「され始めた」だから、3と差異が認められない。
例示どおりにやったらいつになっても「文章の構成や展開をとらえて内容を読み取る」ことはできないことになるのだが、それでも、これを指導させて一斉テストで力試しをして、「大きな成果」をあげたことになっている。
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