入門講座・説明文の「読むこと」指導・徹底入門

2010年夏の大会で配布したレジュメから

 2010年夏の大会・入門講座の資料です。鈴野が担当の予定でしたが、校務と重なってしまい、実際には加藤郁夫さんに担当していただきました。

0.説明的文章の指導過程 15分

★三段階の指導過程。
(I.構造よみ、II.論理よみ、III.吟味よみ)

 I.構造よみ

●文章全体の流れを俯瞰するための過程。
●具体的には、文章全体を三つのパート【前文(はじめ)・本文(なか)・後文(おわり)】に分ける。さらに、「本文」にも内容的な切れ目(まとまり)があれば「本文1」「本文2」…のように分ける。

・《前文(はじめ)》は、その文章が何を明らかにしようとしているかが示されているところ。小・中学校の教材では、導入的な内容で読者の興味を引いておき、問題提示(問い)の形で文章の方向性を提示している場合が多い。
・《本文(なか)》は、前文での問題提示(問い)に対する答えが具体的に説明されているところである。
・《後文(おわり)》は主に文章全体のまとめが書かれているところであるが、小学校高学年以上の教材についてはさらにまとめを前提とした発展的な課題や結論が書かれている場合も多い。

 II.論理よみ

●文章の論理関係を丁寧に読みとりながら、柱の段落、柱の文に絞り込んでいく過程。この過程で段落どうし、文どうしがどのような関係でつながりあって文章を成り立たせているかがわかり、筆者の主張(最も読者に伝えたかったこと)がすっきりとまとめられる。
●柱の段落以外の段落は、具体的な説明や例などによって柱を支えていると考える。同様に、柱の文以外の文にも、柱の文を支えるための説明や具体例などが書かれている。
●柱の文をもとに、文章の要約を行うこともできる。

 III.吟味よみ

●構造よみ、論理よみで読みとったことをふまえ、文章の良いところは評価し、また不十分なところについては批判やリライトを行う過程。書かれている事実そのものの吟味や、論理関係の吟味を行う。例えば、具体例として選択されている事実は正しいか、主張を支えるための事実としてふさわしいか、書かれている事実から結論を導く過程に飛躍はないか、等の視点で吟味を行う。

※新しい学習指導要領(中学校)における「評価」「批評」に対応。ただし、読み研ではさらに踏み込んで「批判」の要素もまじえた指導過程を提案してきた。

1.系統表(試案)→添付ファイル参照

2.「ドラえもんの人気のひみつ」を例に、構造よみと論理よみの入門。

【構造よみ】

《前文》1段落(話題提示+問題提示)
《本文》2・3段落
《後文》4段落(まとめ)

【論理よみ】

《前文》柱の段落・文は1段落3文。前文の大きな役割は文章全体の方向性を示すこと。問題提示によってそれが示されている。

《本文》柱の段落・文は2段落1文と3段落1文。2段落の2~4文は2段落1文を、3段落2~5文はそれぞれの柱を詳しい説明によって支えている。

《後文》4段落には1文しかないのでそのまま柱の文。

3.「アップとルーズで伝える」(中谷日出・光村4年)を例に…
                        
【構造よみ】

《前文》1~3段落

1・2…導入(読者を文章に引き込む)
3…問いかけ
 「アップとルーズでは、どんなちがいがあるのでしょう。」

《本文》4~7段落

〈本文1〉4~6…テレビ画面でのアップとルーズの特ちょう
    (それぞれの長所や短所)
〈本文2〉7…新聞の写真でのアップとルーズ

《後文》8…全体のまとめ

【論理よみ】
 ★子どもたちと問答しながら柱の文を決め、決まった文にはマーカー(蛍光ペンなど)をひかせる。

《前文》

(1)1段落、2段落は読者を文章に引き込む導入の役割をしている。実は1段落はルーズ、2段落はアップの例が書かれている。
(2)3段落の1・2文では、1・2段落を受けてアップとルーズそれぞれの定義(言葉の説明。順番は逆)をし、3文で問いかけをしている。
(3)文章全体の中で《前文》の役割として大事なことは、その文章が何を明らかにしよう(説明しよう)としているのかを示す、ということである。よって、《前文》の柱はそのことが示されている3段落の3文である。

《本文》

〈本文1〉
(1)4段落はアップの長所と短所がゴール直後の選手の画面を例に書かれている。アップの長所をまとめた4文「アップでとると、細かい部分の様子がよくわかります。」がまずこの段落の柱である。さらに、短所について書かれた7文、「走っている選手以外の、うつされていない多くの部分のことは、アップでは分かりません。」も柱になるだろう。
(2)5段落はルーズの長所と短所が、試合後の選手と応援席を映した画面を例に書かれている。ルーズの長所は5文「ルーズでとると、広いはんいの様子がよく分かります。」なのでこれが柱の一つ。もう一つはルーズの短所が書かれた次の6文「でも、各選手の顔つきや視線、それから感じられる気持ちまでは、なかなか分かりません。」であり、これも柱としてはずせない。
(3)そして4・5で説明したアップとルーズそれぞれの長所・短所をまとめた文が6段落の1文「このように、アップとルーズには、それぞれ伝えられることと伝えられないことがあります。」なので、〈本文1〉全体の柱としてはまずこれがふさわしい(全体を包含している)と考えられるが、実際の授業ではこの6段落の1文を柱と見做すことのみを強調せず、右で示したアップとルーズそれぞれの長所・短所がはっきり書かれている文を指摘させたい(6段落1文の「それぞれ伝えられることと伝えられないこと」はどこに書いてあるか、と問う方法もある)。
(4)6段落2文は1文を受けて「それで」とテレビにおけるアップとルーズの使い分けについて述べており、1文とは別にこれも柱にする必要がある(〈本文2〉7段落との関係からも)。

◎本文1の要約文
★要約文は柱の文をもとに作る。敬体(です・ます調)は常体(だ・である調)に直してよい。

アップでとると細かい部分の様子がよく分かるが、うつされていない多くの部分のことは分からない。ルーズでとると広いはんいの様子がよく分かるが、(人の)顔つきや視線、気持ちまでは分からない。このように、アップとルーズにはそれぞれ伝えられることと伝えられないことがあり、テレビでは何台ものカメラで目的に応じてアップとルーズを切りかえながら放送している。         (172字・句読点等も含む)

〈本文2〉
(1)7段落の内容は、新聞の写真にもアップとルーズがあり、(編集者は)それらを伝えたい内容に合わせて使い分けたり組み合わせたりしている、ということである。
(2)柱の文の決め手に欠けるが、「多くの写真をとっておいて、目的に応じて選んでいる。」ことが述べられている4・5文より、1~3文の方が中心的な内容を述べていると考えられる。いずれにしても、四年生にこの段落の柱を考えさせるのは困難なので、ここは教師が指摘してしまってよいのではないか。

◎本文2の要約文(省略)

《後文》

本文全体のまとめであり、8段落には1文しかないので、そのまま柱となる。

◎後文の要約文(省略)

【吟味よみ】

●「アップとルーズで伝える」はわかりやすかったですか。わかりやすかったとしたら、それは筆者のどのような工夫のせいでしょうか。また、疑問に思った点はありますか。今までの学習をもとに、考えて発表してみましょう。

・それぞれの長所と短所を説明している。
・身近なサッカーの中継を例に出している。きょうみがわいた。
・1段落と2段落が自然な流れでつながっているのに、それぞれルーズとアップのことが書いてあるのがすごいと思った。
・文章にあった写真が使われている。
・伝えたいことに合わせて選んでいる、というところがわかりやすかった。

(疑問点)
・全ての写真はアップかルーズのどちらかなのか。
・7段落に、「取材のときには、いろいろな角度やきょりから~」
 とあるが、角度のことについては本文であまり説明がなかった。

4.「生き物はつながりの中に」(中村桂子・光村6年)を例に…
   
【構造よみ】

《前文》1

《本文》2~6

〈本文1〉2~4(外の世界とのつながり)
〈本文2〉5(一つの個体としてのつながり)
〈本文3〉6(過去の生き物たちとのつながり)

《後文》7・8

【論理よみ】(要約文は省略する)

《前文》

・1段落5文も問いの形をとってはいるが、この文章は最終的には、生き物の特徴について明らかにしようとしているのだから、6文が柱となる。

《本文》

・後文に相当する7段落2文「生き物は、外の世界とつながり、一つの個体としてつながり、長い時間の中で過去の生き物たちとつながるというように、さまざまなつながりの中で生きているということが分かりました。」を手掛かりにすると、それぞれに対応する柱の文をして見つけることができる。本文1は4段落10文(外の世界とのつながりについて)、本文2は5段落7文(一つの個体としてのつながりについて)、本文3は(やや微妙だが)6段落6文(過去の生き物たちとのつながりについて)と考えられる。

《後文》

・7段落2文がまとめの柱。さらに8段落では、1~5文で7段落で述べたことを繰り返し、それを〈前提〉として6・7文の〈結論〉を導き出している。よって8段落6・7文も結論的な柱と言える。

【吟味よみ】

●8段落では、7段落でまとめられたことが繰り返されていると同時に、そこから発展した筆者の考えも述べられています。その流れに不自然なところはないか、本文の内容とも対応させながら吟味してみましょう。

・8段落1~3文は、本文の内容に対応している。
・4文も、本文2の内容を受けていると考えられるけど、この文後半の「たった一つのかけがえのない存在です」については本文の中で言っていたか疑問。
・5文の、「と同時に、あなたは、あなた以外のすべてとつながっているのです。」もわかりにくい。「あなた以外のすべて」とは何を指すのか。「水や空気、大勢の人々や生き物たち」が「あなた以外のすべて」なのか。それらを「すべて」と言いきってしまっていいのか。
・このように8段落4文と5文が説得力に欠けているので、それを前提として導いた最終的な結論6・7文も同じように説得力に欠けると言わざるをえないのではないでしょうか。

プロフィール

鈴野 高志
鈴野 高志「読み」の授業研究会 運営委員/つくばサークル
筑波大学日本語・日本文化学類卒業 同大学院教育研究科修了
茗溪学園中学校高等学校教諭/立教大学兼任講師
[専門]日本語文法教育
[趣味]落語