本当に、若者は凶悪化しているか?

高橋喜代治

 大学の「道徳教育研究論」という講義の第1回目のテーマを「若者はだんだん悪くなっている?」とした。これから教師になろうとしている学生に事実をしっかりと知ってもらい、そのうえで教師の構えを作ってほしいと思ったからだ。
 まず、次の質問を黒板に書いて挙手を求めた。

 凶悪な少年犯罪は増えていると思うか?
①そう思う
②あまり変わっていないと思う
③減っていると思う

 
 約120人の学生(ほとんどが2、3年生)の挙手の状況は、①が約100名、②が約10名、③が数名だった。
 そこで、私は下記のような一覧表を見せた。警察庁が発表している資料である。ただし、実際は、詐欺や窃盗などの犯罪項目があるのだが、「凶悪」ということで、私の判断で項目を減らしてある。1946年~2006年までのデータが示されているが、このレポート用に中途は私が省いた。

ご覧になれば一目瞭然で、凶悪な犯罪数は減っている。しかも大幅に、である。「少年」人口の数が示されていないから、数だけで単純に「減っている」と断じることはできない。検挙率などの問題もある。そのことで、私が警察庁に問い合わせたところ、少年人口を考慮しても、3分の1に減っているということである。
 学生たちの多くは予想が外れて一様に驚いていたが、驚いているだけでは意味がないから、なぜ事実と違うように認識してしまったのか話し合わせた。学生は120人もいるし、机は3人掛けの固定であり、話し合いといっても隣どうしか2,3人での意見交換程度だったが、数人にその結果を発表させた。学生たちは一様にテレビや新聞などのマスコミからの影響を挙げていた。「凶悪化していない」と答えた学生も数人いたが、彼らはどこからかその知識を得ていたらしかった。
 話題が少し変わるが、同じようなことが地球温暖化とその主因にも言える。一般に「今地球が温暖化している。その主因が二酸化炭素などの人為的温室効果ガス」ということが巷には流布している。企業開発した新製品のセールスポイントも「エコ」である。その論理の流れを学校も大きく受けている。
 しかし、エネルギー・資源学会の機関誌に掲載された特集「地球温暖化・その科学的真実を問う」のパネリスト5人の研究者の見解で「人為起源の温室効果ガスで気温が上昇している」と主張している学者は1名にすぎない。他は例えば、「自然変動の寄与が大きい」というのである。「地球が温暖化していて大変だ→その主因は二酸化炭素などの温室効果ガスだ→だから二酸化炭素をださないようにエコしよう」という論理や実践を斜めに見たり、疑ってみたりする必要がありそうである。
 冒頭で述べたが、学生たちはこれから教師になろうとし、そのために「道徳」の講義を履修している。しかし一番大事なのは「少年・若者は凶悪化している」という認識で、子どもたちを権威的にからめ捕ったり道徳的徳目を押し付けたりしない構えであると思う。そのためにはあらゆる情報を鵜呑みにしないメディア・リテラシーの精神と方法が大事になってくることは当然である。更に、共に生き成長するパートナーとして社会を切り開く道徳の在り方を考えることだと私は思っているし、学生たちにはそんな構えの教師になってもらいたいと思って講義しているつもりである。

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