飛び込み学年での半年

読み研通信85号(2006.10)

一、はじめに

 今年度は昨年度に引き続き、中三を担当することになりました。飛び込みの学年というのは、自分の授業の方法が通用しないので、生徒との合意を得ながら丁寧に指導する必要があると考えました。やりにくいと感じることもありますが、そこで改めて自分の指導方法を見直すこともできますし、自分の実践の殻を破るような思い切った方法を試すこともできるので、前向きにとらえて楽しく実践しています。
 今年度担当する学年は中一まで荒れていて、授業がなかなか成立しなかった上、学力が他の学年に比べて低いと言われていました。これまでどちらかというと教え込みの授業が多かったようで、授業で発言するという習慣がほとんどなかったようです。
 そこで、今年度、次のような方針を持って授業に向かいました。       
(1)授業の中で発言できる機会を増やす。
(2)基礎的な学力の保障と学習習慣の定着のために漢字学習に取り組む。
(3)苦手意識をもっている文法や作文に時間をかけてじっくり取り組む。
(4)読みの技術を確認していく。

二、まずは、国語通信で自己紹介

 はじめての授業では、今までとはちょっと違う先生だと印象づけようとしました。それは、これまでの自分の国語の授業に対する姿勢を変えて欲しいからでした。
 国語通信を配布して、自己紹介。あいさつがわりに「心にスイッチを」という東井義雄さんの詩の朗読をしました。その後もこれまでの「空白」を埋めるように国語通信で、文章のジャンル分け、助動詞、敬語、説明的文章の読み方など自分が一、二年生で通常指導していることや新しく習ったことでおさえて欲しいことがらを説明していきました。

三、自己主張が大事

 自分の意見をまとめて根拠を合わせて主張するというレッスンを四月当初に行いました。内容は「教室にクーラーをつけて欲しい。勉強に集中するため。」「入試制度を変えて欲しい。受けたい高校が受けられない。」などというようなものでした。あまり主張と根拠がかみあっていないものも多数ありましたが、人前できちんと話をするという経験をもたせることができました。

四、グループで発言しよう

 授業が始まり、一番違和感があったことは、挙手・発言が全くなかったことです。
「授業は先生でなく、君たちが主役なんだよ。先生がしゃべりまくっても仕方ない。」「発言した方がよく考えるようになるし、間違っていても指摘されるから得するよ。」「意欲は形に表さないと認められないよ。」などとあの手この手で発言を引き出そうとしました。その中で、ようやく各クラスで数人、そそっかしい男子や学力の高い女子が発言するようになってきました。
 次にグループ学習に取り組みました。各クラスの生活班ではなく、座席の近い子が四人ずつで、向かい合って座席を移動する学習班です。
 普段は、一斉授業の形態で、全員前に向かっていますが、必要なときだけ「はい、グループを組んで。」と言って移動させます。
 私はグループ学習にするときの基準を次のように考えています。
(1)授業の導入で感想や質問を交流。
(2)全体討論で意見が出なくなったとき。
(3)意見が偏って、考え直させたいとき。
(4)簡単に理解できることがらの教え合い。
 グループ学習で、文法(文の成分と品詞)の教え合いや練習問題の答の発表、敬語習得のロールプレイイングなどグループで学ぶことと発表することに少しずつ慣れさせていきました。どのクラスも発言者が増えていきました。

五、グループで役割分担

 しかし、まだ発言者に偏りがあり、どうしたものかと考えていたところ、ある先生からアドバイスをいただきました。
 四人グループで、司会・発表・記録・知恵袋と役割を割り振って、話し合いの訓練をして、ローテーションしていけば、全員に発言する機会を与えられる、というものでした。
 特に感心したのは、知恵袋という発想でした。知恵袋とは、グループで出た意見に反論する人のことで、自分は賛成していてもあえて反対意見を言う役割です。ディベートのようですね。その役割があると、簡単にまとまらないので、その反対意見に反論できるようにグループの意見をまとめようとするので、深まると言うことです。
 実際にやってみました。確かに役割があれば、強制的に発言させられて、これまで、ほとんど授業で口を開かなかった生徒も発言していました。中には、グループの子に助けてもらっても、発表できない生徒もいましたが、グループ内での意見を聞くだけでも、これまで授業のお客さんだった生徒が、参加できるようになりました。
「知恵袋はあまのじゃくのように反対意見を言うんだよ。」と言っても、イメー
ジできないようでした。そこで、まずは、二つの言葉を言うように要求しました。
「なぜ?」「本当?」これで理由を考えさせたり、立ち止まって考えさせました。

六、グループで新聞の意図をつかむ

 メディアリテラシーの授業では、サッカーワールドカップの日本・ブラジル戦の記事を三社とりあげ、写真・見出し・記事を比較することで、新聞の編集意図をつかみました。その際もグループで、自分が購読したいのはどの新聞社の記事かを問いかけて、グループで論議しました。写真だけ取り上げても、日本のがっかりしている姿とブラジルの喜ぶ姿を映し出す事実をあますところなく正確に伝えようとする社と一人の選手が泣き崩れているところだけを取り上げる社と得点を入れた日本の選手を取り上げるところと様々でした。
 生徒は同じ事実でも取り上げ方が違うのだと言うことをグループで意見交流する中で学んでいました。

七、世界の現実の裏読み

 子どもの権利条約の学習をしたときに条約を簡単な文に直したものをつかい、その裏読みをしました。
 日本では考えられないような子どもの現実が条文の背景にある現実を想像することで見えてきました。
 条文の中で日本の現実に合っていないものを抜き出しました。戦争や少年兵、難民など言葉としては知っていても日常生活からほど遠いものがいくつも出てきました。調べ学習までには発展しませんでしたが、世界の現実に生徒は驚いていました。
 一方、日本の子どもたちにもあてはまる現実も見えてきました。虐待・教育・遊び・表現など。それらをグループで話し合って、自分たちの欲しい権利条約としてプレゼンテーションしました。
 やはり発表するという活動があると、グループでの話し合いも活発になり、四月当初のようなぎこちなさもなくなってきていました。残り半年が楽しみになってきました。