授業の中の「言葉かけ」

読み研通信82号(2006.1)

1 むむむっ!

 昨年の夏休み、「読み研夏の大会」が行われた時のことです。暑い中、本当にたくさんの方に参加していただき会場は満席となりました。私はその研究会の中のある一つの講座「初心者講座B・説明的文章」を担当させていただきました。模擬授業的な要素も入れながら進めていくと、ある参加者から、こんな声がかかりました。「あの、できれば小学生のこどもに話すような口調でやっていただけますか。」
 「やってみましょう。」その時依頼されていた教材が小学校教材だったこと、また参加者がほとんど小学校の先生方であったことを考え、私はついそうお答えしてしまいました。……しかし、本来の私は高校の教師。高校二年生の担任です。研究会では、小学校の授業を見る機会は多い方だとは思うのですが。正直に言いましょう。小学生相手の授業は一度も経験がありません。むむむっ!当初の予定にはなかったことですが、私は肝を据えて、にこやかな顔をして授業を始めてみた。「さあ、みなさん授業を始めましょう。」(小学校の先生方、スミマセン。なんか私わざとらしくなかったですか??気分の悪い思いをされていなければよいのですが……。)

2 そうかっ!

 講座が、終りました。終了後のアンケートには、さまざまなコメントをよせていただきました。「今回は初心者講座なのだから、そこまですることはなかったのではないか。」と言う声もなかったわけではありません。しかし、ありがたいことに「実際の授業の様子がわかった。」「自分もこういう授業をやってみようと思う。」という声も多数よせていただけました。そのとき、ふと思ったのです。……そうかっ、我々が提示しなければならないのは、授業方法・生徒に身につけさせるスキル・授業分析だけではない。「(言葉かけを含めた)授業における技術」もまた、セットで研究していく必要があるのかもしれないと……。たぶん、「小学生の子どもに話すような口調で」といわれた方は、その部分が知りたかったのではないでしょうか。そこで、今回この紙上をお借りして、私なりの考えを述べさせていただこうと考えた次第であります。

3 そこで…

 生徒が予想しない発言をしたときの声かけについて考えてみましょう。
例えば、構造読みでとんでもないところを発端としてあげてきたグループがあった時、その理由としてちっとも論理的ではない理由を言い出した時、形象読みでみんなが納得できそうもない意見を言い出した時、主題読みで突拍子もない読みを発表してしまった時……。そんなことは授業の中で起こりがち、ですよね?授業者がパニックに陥る瞬間です。しかも、「先生、俺わかった!○○ってことだよね?」と目をキラキラ輝かせながら、全く見当違いのことを言い出す生徒がいた時などは、軽いめまいすら覚え、怒ってしまいたくなるし、それが研究授業で大勢の先生が見守る中の発言だったりすると、もう教壇で卒倒しそうになったりします、よね?
ここでパニックに陥り動揺すると、生徒は瞬間で見抜いて「何だか頼りないなぁ」と思います。生徒を怒ってしまうと、もう彼は二度と発言しなくなりますし、下手をするとそのクラスの生徒との人間関係を壊しかねません。教壇で卒倒すると、……卒倒してみたところで何の解決にもなりませんよね。
皆さんは、そんな時どうしますか。
 
4 そんな時

 よく言われることは「教材研究が足りない!」です。私も駆け出しの頃はあちこちの授業検討会で、先輩にさんざん言われました。「なぜ、こういう意見が出ると予想できなかったのだ。」「こういう間違いは、想定内だ!想定できない方がいけない!」「あらかじめつまづきそうなところがわかってさえいれば、文章内の言葉に立ち返り、自分の間違えを納得させることができたはずだ。」等など。
特に構造読みでとんでもない箇所を出すグループについては、その箇所を出す根拠は彼らなりに何かしらあるはずなので、授業前にありとあらゆる可能性を考えて、生徒が言いそうな根拠を先回りして考えておく必要はあるでしょう。
 検討会で言われたときは、「ああしまった。そうだよな。もっと準備すればよかったな。うやむやなままにしてしまって、生徒に悪いことしたな。」などと深い自己嫌悪の沼に落ちていくのです。でも、そんな時、ふと思ってもみるのです。「準備をしたときには気がつかなかったんだよ」と。どんなに準備しても、想定できなかったことが、授業ではおこるものです。どうしたらよいのでしょうか。

5 班討議がカギ

 生徒が班討議をしている最中、何をしていますか。この時間こそが情報収集をする最大のチャンスといえるでしょう。クラス討議のときに、教師が動揺しないように、それぞれの班の考えをあらかじめ把握しておきます。
 また、そこから一歩進めて、私は積極的に班に語りかけて行きます。例えば、想定外の意見にまとまりそうな班には「どうしてそう思ったの?」と根拠を聞き出します。単純な思い違いによる誤りならば、ここで誤りの根拠を指摘することもあります。
 正しい意見なのに自信が持てず、迷っている班には「おっ、中々鋭い。この近くの文章の中に根拠(理由)がありそうじゃない。探してごらん。」と言って、自信をつけさせた上で、指標を与えます。
 意見が決まって、自信満々の班には「○○って言う意見も出そうなんだけど、どうして違うと思う?」「この意見にするなら、他にも根拠はあるんじゃないかな。」と新しい課題を投げかけます。
この段階での「言葉かけ」は、この後のクラス討議のレベルをより高いものにしていくからです。想定外の意見を出していた班も、いろいろな視点があることに気づき始めます。

6 二次形象を積み重ねる

 特に導入部の形象読みは、いろいろな意見が出ても慌てなくていいのだと思います。ただ、読みが一面的過ぎて読み足りない部分が出てくると、うまくいきません。「肯定的に読むと?」「否定的に読むと?」と促しながら、一度広げておく。そして、その後、例えば「みんな黒板見てね。今日読んできたこといろいろあったけど、共通して言えること何かないかな。」と発問してみる。二次形象を読み取ることになります。作者が何度も述べていることに注目することができたら、そこがその授業一時間のクラスの財産になるのだと思います。こうやって、作品の設定をおさえておく。
展開部以降は、その財産(設定)を確認しながら筋をたどっていくことになります。よって、突拍子もない意見が出てきたときは、まず「どうして?」と根拠を求めてみる。「以前に授業でこういう確認したね。合わないんじゃないかな。」と理由をつけて「ちがう」とあっさり否定する。教師が楯になって、より精密な読みを要求することで、生徒はむきになって、文章の中に糸口を見つけようとし始めます。思考力をつける願ってもないチャンスが授業の中に表れます。