討論のある授業づくり
読み研通信76号(2004.7)
内藤賢司(福岡・辺春中学校)
1 はじめに
本稿では、まず実際の討論の様子を述べ、その後で討論のある授業づくりについて、私が意識的・日常的に展開していることについて述べていきたい。
中学一年生。二十名のクラス。学習班は五つ。各班四名構成。班には学習リーダーが一人ずついる。小説『空中ブランコ乗りのキキ』(別役実)の「クライマックス」はどの文かを確定する読みの学習である。教科書は三省堂。
2 討論する生徒たち
生 私たちの班は「人々のどよめきが、潮鳴りのように町じゅうを揺るがして、その古い港町を久しぶりに活気づけました。」だと思います。キキの四回宙返りが成功したことが分かるからです。
生 そこは違うと思います。そこは、四回宙返りはもう終わっているところだから、もっと前にあると思います。
教 それ納得できる?では、この考えは消そう。ところで、事件を構成する二つの勢力とは、何だろうか。それを認認しておかないとクライマックスはずれてくるよ。『水戸黄門』では、正義と悪とが二つの勢力。『竜』では、三太郎の二つの気持ち……成長したい気持ちと、今のままでいたい気持ちだったね。では、この小説では何と何が二つの勢力なのだろうか。
生 『竜』と同じように、キキの中の二つの気持ちが事件を作っている勢力だと思います。
生 四回宙返りしたいキキは一つの勢力になると思います。
教 なるほど。もう一つは?
生 いまのままでいいキキ。
生 死にたくないキキ。
教 ということは、つまり、三回宙返りのままでいいということだね。よし、ではこの二つの勢力に決着がつくところがクライマックスだ。
生 私たちは「見てて下さい。四回宙返りは、この一回しかできないのです。」と考えました。四回宙返りを決意しているからです。
生 反論します。四回宙返りを決意したところは、もっと前にあります。「キキは黙ってぼんやりと海の方を見ました。しかしまもなくふり返ってほんのちょっとほほえんでみせると、そのままゆっくり歩き始めました。」のところで、キキははっきりと四回宙返りを決意しています。
生 私たちは、キキが実際に四回宙返りをしているところがクライマックスだと思います。「しかしキキは、やっぱりゆるやかに、ひょうのような手足を弾ませると、次のブランコまでたっぷり余裕を残して、四回宙返りをしておりました。」というところです。実際に成功しているからです。
生 賛成です。(拍手が起こる)
生 しかし、そこは、四回宙返りは終わってしまっているところではないですか。「四つめの宙返りをしておりました。」というのは、もう過去のことではないですか。
生 いや、これは今やっているところです。「余裕を残して」とあるから、これは間違いなく成功しているのです。成功しているところです。
教 四回宙返りの途中なのか、四回宙返りは終わってしまっているのだろうか。(その様子を指示棒でやってみせて)どうだい? うん、そうだね、四回宙返りの途中だね。
教 よし、ではここをクライマックスにしていいですか。
生 いいです。いいと思います。
教 みんないいですね。
生 いいです。納得です。
教 そうだね。二つの勢力の中で揺れていたキキが、実際に四回宙返りをやっているところこそがクライマックスにふさわしいところだね。思っている段階ではなく、実際にやっているところ。具体的な事実で決着をつけているところをクライマックスにすべきだね。『竜』でも三太郎が実際に飛び出すところだったね。
3 討論することで……
生徒たちは、「えー、もう時間がきたの。早ァーい」と言っている。一つの発言が他の発言を引き出している。生徒たち自身で読みを作り出している。「もっと前にあるよ」と言って前の表現部分に着目させたり、「たっぷり余裕を残して」とか「四つめの宙返りをしておりました」などの大事な表現部分に着目させている。このような討論を仕組むことによって、読みは広がりと深まりを作り出しているといえる。
私は、生徒たちのクライマックス論議を楽しんだ。生徒たちの学びに私自身も学ぶことができた。教材研究で目の届いていなかった部分を、生徒たちは指摘しあっていたからである。
4 討論のある授業づくりのために
討論のある授業――私は、次の三つを相互に関連させながらそれぞれを発展させていくことが討論のある授業をつくることになると考えている。
A 学習班づくり
・参加意識が増す。
・意見が出しやすい。
・班員に支えてもらうことで、全体への意見も出しやすくなる。
・班の人数は、三~四名がよい。一人ひとりが大切にされやすい。班員の意見も聞きやすい。
B 学習リーダーづくり
・討論の進行をしていく役割。
・班員の意見を組織していく役割。
・一人ひとりの意見を大切にしていく役割。
・時間要求など、班員の学習要求を支えていく役割。
・ 班員の意見を支援していく役割。
C 討論づくり
・討論するテーマにふさわしいものを設定する。対立意見が出るようなものであればさらによい。右に紹介した「クライマックス」を確定しようというテーマもその一例である。
・個人思考→班での検討→全体での検討(討論)の流れを大切にする。
・各班からの意見を整理してやりながら、できるだけ二~三つに絞り上げて、対立点を明確にしてやる。こうして全体での討論が激化するようにする。
・必要であれば、班や個にもどして再検討させる。個・班・全体という形態を有機的に絡ませていくようにする。
5 終わりに
討論のある授業を生徒たちは好む。また、討論は、読みの広がりと深まりを可能にする。討論のもつ意味は大きい。
私は、右に紹介した三つのことを日々の授業の中で具体的に展開していきながら、討論という学びのスタイルを生徒たちの中に根付かせていくようにしている。
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