視写・写本

読み研通信68号(2002.7)

海崎義隆(読み研運営委員)

小説家になりたいわけではなかったが、中学生のころ、鈴木三重吉の「千鳥」や川端康成の「夏の靴」なんぞを夢中で書き写した時期があった。

詩を視写する

 背面黒板に、四月から月に一、二編詩をチョークで書く。そこが利用できないときは、模造紙に書いたのを掲げる。短いコメントを付ける。

●小学校三年生(九六年度)の教室で
 四月:「ともだち」谷川俊太郎
   :「ののはな」谷川俊太郎
   :「さくら」まど・みちお
 五月:「朝がくると」まど・みちお
   :「春の日」高田敏子
 六月:「ぼくが ここに」まど・みちお
   :「あじさい」尾上尚子
 七月:「おれはかまきり」(かまきりりゅうじ)工藤直子
 九月:「ひかるまんげつ」(つき としこ)工藤直子
 十月:「ぶどう」与田準一
   :「そら」吉田定一
 十一月:「おちば」三越左千夫
    :「いきもの」工藤直子
 十二月:「しらん子」島田陽子
 一月:「冬の花」阪田寛夫
 二月:「こんこんこな雪ふる朝に」三好達治
   :「とる」川崎洋
 三月:「三年生」阪田寛夫
 「ともだち」のコメント**わらいあっても、にらみかえしても、けんかしても、あしたになったらまた遊ぶ。──こういうのが、ほんとの「友だち」なんかもね。三年一組、みんながともだち!

●こどもの活動
1 音読する(朝や帰りの会で、国語授業の最初やおわりに)
2 暗唱する
3 友だちの音読・暗唱をききあう
4 視写する(原稿用紙タイプの専用ノートに)
5 視写した詩に自分のコメント・カットをかきそえる
 何よりいいのは、視写に心を注ぐこどもたちの、放課後の教室の静けさだ。こどもには、一編一編、詩とコメントでふえてゆくノートのひろがりが楽しい。そして三月、はげましと賞賛の一言を赤ペンして、完成の月となる。

もう一冊の本を作る

 お気に入りの単行本を、まるごとマイペースで原稿用紙に写し取っていく。最後に表紙も付けるから、扉・目次・本文・あとがき・奥付、ぜんぶを書き写す。用紙は二〇〇字詰がよい。写し取った分量を実感できるから。高学年生には四〇〇字詰でもよい。
 一冊目は短い文章がよい。少し分厚いのになると、二、三〇〇枚(二〇〇字詰)にはなる。表紙も描かせて、製本。退色防止のニスをぬったり、コーティングしたりして完成。誰かの一冊が仕上がると、それが刺激になる。「ぼくはこれだけやれたんだ」という自信と満足。字は覚える。語いは増える、読解力・想像力はつくはで、いいことだらけ。はじめは、速さよりもていねいさ。

おすすめ参考書

『月刊 どの子も伸びる』同授研、八五年五月~九四年三月号連載、河野幹雄の「今月の教材詩」がコメントの姿勢と技法を学べる。

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
「読み」の授業研究会は、子どもたちに深く豊かな国語の力を身につけさせるための方法を体系的に解明している国語科の研究会です。
2021年に設立35年を迎えました。