『モチモチの木』(光村小三)の授業

読み研通信87号(2007.4)

本山智子(町田市立忠生第三小学校)

I.はじめに

 シリーズの二回目として、斎藤隆介の「モチモチの木」を取り上げた。
 教師は、物語を読んで構造よみをする。この時まずつかむべき事は、発端とクライマックスである。発端がどこかつかめたら、発端の前までの部分である導入部に於いて、この物語が仕組まれている事件の伏線となるものを捉えることが重要である。その時の視点として、一体何と何が絡みながら(二つのものの矛盾・葛藤)事件が展開していくのかを掴むことである。そこに着目して読み進めていくと、二つのものの矛盾・葛藤がどう展開していくのかが見えてくる。そして、そのものが転化確定したところがクライマックスである。

II.モチモチの木(光村小三下)を例に教材の捉え方と授業展開を示す

(1)クライマックスを

  豆太は、子犬みたいに体を丸めて、表戸を体で吹っ飛ばして走りだした。

と、捉える意見が多い。なるほど、豆太の大きな変化の場面であり、緊張感が高まり、読者に強くアピールし、描写性も厚い。

 では、この話は一体何と何が絡みながら(二つのものの矛盾・葛藤)事件が展開していくのかに着目してみる。
 それは、豆太とモチモチの木である。導入部において、その事は、明確に書かれている。五つの豆太のおくびょうさと、モチモチの木の大きさと豊かさが述べられ、そして、夜のモチモチの木が豆太にとって、こわいものであるという、豆太とモチモチの木の関係性が読み取れる。
 ここで、書かれ方に注目する必要がある。
 冒頭文の

 「全く、豆太ほどおくびょうなやつはない。」
 「どうして豆太だけがこんなにおくびょうなんだろうか―。」

と、おくびょうという言葉が二回繰り返され、強調されている。繰り返されている言葉に注目することが、読み解く一つのセオリーである。豆太のおくびょうさがこの話の事件の伏線である。そのおくびょう豆太に立ちはだかるものとしてモチモチの木の存在があると読むことが大切である。モチモチの木は、豆太にとって、
(1)自分の前にあってびくともしないでっかい存在
(2)時に豊かな実を与えてくれるすごいもの 
(3)夜のモチモチの木は怖いもの、超えられない存在。
じさまの急病という事件に遭遇して、豆太のおくびょうさが、どう展開していくのかが、モチモチの木との関係性を通して書かれている。
 展開部では事件の発展として、《今夜はモチモチの木に灯がともる晩であり、そして、それは勇気のある一人の子どもしか見ることができない。》ことがじさまの言葉を通して語られる。
 山場の部から起こった事件は、じさまの急病である。豆太の前に起きた人生の試練である。じさまを助けなければという、豆太の一心が、モチモチの木の存在を超えて、夜のこわさを超えて、寒さや痛さや遠さを超えて、豆太の内面に勇気を生み出した。
 さて、ここでクライマックスを

  豆太は、子犬みたいに体を丸めて、表戸を体で吹っ飛ばして走りだした。

とする意見はどうであろうか?
じさまを助けなければという豆太の一心が、豆太のおくびょうさを超えた部分ではあるが、豆太は夢中である。じさまを助けることができるかどうかまだわからない。ここは、豆太の変化の始まりである。その後の記述を通して、豆太の走る状景、心理描写が描かれている。医者様にじさまの異変が伝えられて、医者様のねんねこに包まれて小屋に向かう時、豆太は、見た。

 「モチモチの木に灯がついている。」

 クライマックスは「モチモチの木に、灯がついている。」である。豆太の前に、怖いものとして立ちはだかっていた夜のモチモチの木が、美しいもの、やさしいものとして、豆太の前に現れた瞬間である。豆太とモチモチの木の関係が転化するところといえる。豆太が勇気を持って一つの事をなし終えた時、モチモチの木は、豆太にとって怖いものからやさしい美しいものへと変化した。
 と同時に、読者は、(豆太は、おくびょうさを越えて、じさまを助ける事ができた勇気ある子になった。)と、この時、合点するのである。
(1)導入部で、モチモチの木との関係性を描くことで、豆太のおくびょうさが読者の前に投げかけられる。
(2)展開部では、(モチモチの木の灯を勇気ある一人の子だけが見ることができる。)ことがじさまの言葉を通して読者に提示される。
(3)(1)と(2)の展開を踏まえて読み進めていくと、クライマックスにおいて、読者は、豆太が勇気ある子になれたと、納得する。
a.豆太とモチモチの木の関係性の変化
と同時に
b.ここで読者は、「豆太が、おくびょうな子から、勇気ある子になれたんだ。」と受け止める。
 終結部では、その後のじさまとの生活で、豆太はまたもとのおくびょう豆太にもどっているほほえましい姿が描かれている。

(2)構造表

○冒頭(おくびょう豆太)全く、豆太ほど……

○発端(霜月二十日のばん)そのモチモチの木に今夜は,灯がともる……

○山場のはじまり(豆太は見た) 豆太は、真夜中に、ひょっと目をさました。……     

 ◎クライマックス『モチモチの木に灯がついている』

○結末 ……医者さまのてつだいをして:いそがしかったからな。

○終わり ……起こしたとさ。

(3)「クライマックス」に関わる授業シミュレーション

Tクライマックスは、お話が大きく変わるところでしたね。では、この話のクライマックスはどこですか
C豆太は、子犬みたいに体を丸めて、表戸を体で吹っ飛ばして走りだした。です。
Tここで、何が大きく変わったの?
C豆太は、おくびょうだったけれど、それに打ち勝って勇気のある子になったところだから。
Cちがうと思います。クライマックスは「モチモチの木に灯がついている。」です。
Tなぜそう思いますか?
Cモチモチの木の怖さを打ち破って飛び出したけれど、それはまだ、勇気が持てたとはいえないと思います。豆太は、、じさまを助けなけりゃと思って、夢中で飛び出したのだと思います。最後までがんばって、医者様のところまで行けて、ちゃんとじさまのことが伝えられた結果、《豆太にモチモチの木の灯が見えた!》ところで、勇気が証明されたからです。
T豆太にとってモチモチの木はどんな木だった?
Cすごいでっかい木
C豆太は、おくびょうな子だったから、夜のモチモチの木はとてもこわかった。
Cうまいもちになる実をつけてくれる木。
Tそうだね。モチモチの木を見ながら豆太は大きくなったんだね。豆太にとって身近な存在。昼間はモチモチの木にからいばりしているけれど、夜のモチモチの木はとってもこわいんだよね。
Tそうですね。豆太は、とてもおくびょうな子ですね。ここをしっかりおさえておく事が大事です。さて、クライマックスにつながる場面の始まりを山場の始まりというんですが、ここでいったい何が起きたの?
Cじさまが病気になった。
T豆太はどうした?
Cじさまが死んじまうかと思った。
Cじさまを助けなけりゃと思った。
C医者様をよばなくっちゃと、思った。
Tそこで豆太はどうした?
C表戸をふっとばして、医者様を呼びに外へとびだした。
Tなぜ、ふっとばしたの?
C早く医者様をよんでこなくっちゃ、じさまが死んじまうと思ったから。
C勢いつけなければ、モチモチの木の側を通っていくんだから、豆太にとっては、大変なことだから。
T豆太は、ここでどんな子だった?
C勇気が持てた。
Cまだ、勇気がもてたかどうかは、わからない。でも、じさまのために、今まで夜、外に行けなかったのが行けた。
T表戸をふっとばして、モチモチの木を通過できて、そして?
Cはだしだったから、霜で足が冷たかったり、血がでてもがんばった。
Cなきなきでも、医者様のところまで行けた。
Cおくびょうだと自分では思っていたけど、本当は勇気があった。
Tさて、クライマックスを読みます。何が変わった?
C豆太は、じさまを助けるために、医者様をよんでこれたから、勇気のある子になったから、モチモチの木の灯が見えた。
Tじさまの言うとおりのことが豆太に起きたんだよね。と同時に、豆太にとってこの時、モチモチの木がちがったものになったんだね。どんなふうに変わったの?
Cこわいものから、美しくて、やさしいものになった。
C自分をおどすものではなく見えた。
Tその通り。豆太とモチモチの木の関係が、かわったんですね。でも、じさまが元気になったら、またもとのおくびょう豆太にもどってしまって、モチモチの木もこわいものにもどってしまうところがおもしろいね。
Cでも、先生ちがうよ。また、じさまが病気になったり、何か大変な時がきたら、豆太は、きっとまた勇気が出せると思っているよ。
Cそうだよ。豆太はじさまを助けたんだから。一回できたんだから。
Tそうですね。豆太も、変わったんですね。豆太は意識していなくても、またじさまが病気になったらきっと勇気を出して、じさまを助けるでしょうね。

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
「読み」の授業研究会は、子どもたちに深く豊かな国語の力を身につけさせるための方法を体系的に解明している国語科の研究会です。
2021年に設立35年を迎えました。