「きつねのおきゃくさま」の教材研究

読み研通信85号(2006.10)

橋口みどり(東京・町田サークル)

一、作品について

 絵本「きつねのおきゃくさま」の教材化である。話者(語り手)は、昔のお話を聴者(聞き手)である子どもたちに聞かせるように書いたものである。「むかしむかし、あったとさ。」から「とっぴんぱらりのぷう。」のあいだに、こんなお話があったのだよというかたちにしている。そのエピソードの途中にも、「そうとも。よくある、よくあることさ。」とか、「ひよこは、まるまる太ってきたぜ。」などきつねの心に寄り添ったり、きつねの心を煽ったりしている。
 きつねを中心に読んでいく。
 まず、はらぺこきつねがやせたひよこと出会う。それから、あひる、うさぎと次々に出会う。きつねにとって三匹は小さく弱いもので餌である。ましてやきつねははらぺこなのだから、三匹は食べたくてたまらない「ごちそう」である。「太らせてから食べよう」「心の中でにやりとわらった」「ひよこは、まるまる太ってきたぜ。」「にげる気かな」という繰り返しなどから、きつねが三匹を餌として育てたことが読み取れる。ところが、最初に出会ったひよこから「お兄ちゃん」「やさしい」と言われ、きつねはひよこにやさしく食べさせ、「ぼうっとなった」。次の出会いはあひるである。ひよことあひるに「親切なお兄ちゃん」と言われ、親切にし、「ぼうっとなった」。次の出会いはうさぎでる。三匹に「かみさまみたいなお兄ちゃん」と言われ、かみさまみたいに育て、「ぼうっとなった」。自分の家に次々やってくるお客が自分の良いところを、しかも自分のいないところで言っているのを聞き、きつねは自分の存在感がどんどん認められていくのを感じる。きつねは今まで一度も体験したことのない快さを感じていく。きつねにとって三匹との出会いは、取って食べようという自
分の思いと違う方向に展開していく。三匹との出会いや生活の中で三匹への愛情と喜びが高まっていく。きつねにとって三匹は、最高の喜びをあたえてくれた「おきゃくさま」なのである。そこへおおかみの出現である。きつねは逃げないで自分から「きつねがいるぞ」と出て行くのである。きつねの三匹への愛情が、おおかみと戦い、三匹の命を守ることになる。きつねは、もしおおかみが出現しなかったら、三匹を食べていたかもしれない。おおかみという敵の出現によってきつねの態度が決まったのである。おおかみは逃げていき、そのばん、きつねは、はずかしそうにわらって死んだ。
 終結部、「せかい一やさしい、親切な、かみさまみたいな、そのうえゆうかんなきつねのために、なみだをながしたとさ。」を読むと、ひよこはもとから、あひるもうさぎも最初は疑っていたが、一緒に生活しているうち三匹ともきつねになんの疑いもなく信頼を寄せていった。そのきつねが、おおかみが来た時自分たちの命を救ってくれた「ゆうかんな」恩人なのである。一方きつねは、おおかみが出てくるまでは、三匹に愛情を寄せながらも餌にしたいという葛藤でゆれていた。それが、おおかみの出現により、三匹への愛情に目覚め、おおかみと毅然と戦うのである。その結果、きつねは三匹を守り、力尽きて死んだ。
 生物としての食うか食われるかという生活を乗り越え、純粋で無垢な信頼で結ばれたこんな物語がむかしむかしあったのだよということで終わっている。

◎ 作品の構造

初め一行「むかしむかし、あったとさ。」

おはなしの部分を5場面にわける。
〔一〕エピソード1
時・場・人物・事件設定を読む。
きつねは第一のおきゃくさまのやせたひよこと会う。ひよこを餌として育てながらひよこの「やさしいお兄ちゃん」のことばにぼうっとなる。    
〔二〕エピソード2
きつねは第二のおきゃくさまのやせたあひると出会う。あひるも餌として育てながらひよことあひるの「親切なおにいちゃん」のことばにぼうっとなる。
〔三〕エピソード3
きつねは第三のおきゃくさまのやせたうさぎと出会う。うさぎもえさとして育てながら、ひよことあひるとうさぎの「かみさまみたいなお兄ちゃん」のことばにぼうっとなる。
〔四〕おおかみとたたかうきつね
 おおかみが出てくる。きつねは逃げることなくおおかみと戦い、三匹は救われる。
 クライマックス『そのばん。/きつねは、はずかしそうにわらってしんだ。』 
〔五〕きつねのお墓をつくる
 最初からきつねを疑うことのなかった三匹が、さらにおおかみと戦い、命を救ってくれたきつねのためにお墓を作ってなみだをながした。

最後の一行「とっぴんぱらりのぷう。」

◎ 主題
 生き物は弱肉強食、食うか食われるかという中で生きている。きつねが弱い三匹にだんだん愛情を深めていった時、おおかみという大きな敵が現れる。きつねはそれまで食おうか育てようか葛藤していたが、心を決め、おおかみと戦い、愛するものを守った。自分の存在感が認められ、誉められるという人生最高の喜びを与えてくれた三匹の「おきゃくさま」のために、きつねはおおかみと戦った。その結果、三匹の命は救われ、自分は力尽きて死んでしまう。死んでいくきつねの、三匹に対して餌にするか愛情を注ぐかの葛藤や、純粋に頼ってくる三匹と自分の下心をもっての対し方のずれや、到底力が及ばないおおかみに向かったきつねの心の変化など複雑な気持ち。

二、教材化の視点

 読みとるうえでポイントが二つある。
 まず、エピソード1、2、3の繰り返しである。ひよこが仲立ちになって三匹と出会い生活するという繰り返しの中で、きつねは、
(1)自分にとっての「ごちそう」を育てているのだという気持ちをずっと持ち続けていたこと
(2)三匹への愛情がどんどん深まり、餌か愛かで葛藤していたこと
 二番目に、クライマックスの読みである。「なぜ、はずかしそうにわらって死んだのか。」いくつか読める。
(1)自分を純粋に信じてくれ三匹を太らせてから食べようと考えたことが、今となっては恥ずかしい。
(2)今まで優しいと言われたことがなかったのに、結果として三匹に優しくして死んでいく自分への屈折した喜び。
(3)食べようという気持ちがあったけれど、おおかみという敵が出てきた時三匹への愛が高まり、勝てるわけのない強いおおかみと戦ってしまった。でも三匹が助かってよかった。
(4)俺は、死ぬ。おまえたち三匹が俺に、俺の人生の中で最高の喜びを与えてくれたのだよ。三匹は気が付いてないだろうけれど。
(5)きつねと三匹の気持ちのずれ、ともにわかりあって生きていくことのできないきつねの寂しい一生。などを前の文章との関係で読む。

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