子ども向け読み方講座を開いて
読み研通信84号(2006.7)
日浦成夫(東大阪・枚岡西小学校)
採択された教科書や教材の変化とその対応の難しさ
国語の読み方をどのように実践していくかは、その学年の一年間を見通して考えていかなくてはなりません。また、今や一社の教科書だけでは不十分で、以下に述べるような工夫をしていかなければ読みの力をつけていくことはむずかしいのではないかと考えるのです。今使っている教科書を中心にしつつ、メリハリをつけながら時間配分を考え実践していくことが問われていると思うのです。
国語の教科書の変化が速く、採択会社の変更、同じ会社でも教材の変更などと、教材研究を進めていてもそれらはすぐに過去のものになってしまいがちです。出てくる作品もバラエティに富んでいて、読み研にとっての基本的な作品が少ないと思うのです。とくに最初の文学作品は、各社とも工夫を凝らしているようなのですが、読み研方式のスタートの作品としては、考えてしまうものが多いのです。
今年は五年担当で、国語は大阪書籍です。(昨年は六年で光村図書でした。)最初の文学作品は、『かばんの中にかばんを入れて』という作品です。ファンタジー作品ですが、そうとも言い切れないあいまいさが残る作品です。そして、この作品はまず「事件」がはっきりとしません。当然「二つの大きな勢力」がはっきりとらえられません。初めに学習する作品としては、とてもやりにくいと思いました。
今までは、文学作品の構造を『水戸黄門』などで「ものさし」として教えて、初めの作品に臨んでいましたが、中途半端になってしまうことが多かったです。今年は、増してやりにくさを感じました。したがって実践的な課題として、組み換えや投げ入れなどを工夫していかなければならなくなります。この時に、今まで教材研究を深めてきた教材を投げ入れとして利用していくことができます。
一方、本校では(転勤してきて二年目)国語の研修が中心で、子どもたちはいろんな国語の学び方をしてきています。また、毎年担任が変わることも多いので本当にいろいろといえます。
読み方講座の開設へ
そこで、今年は、子どもたちが今までいろいろ学んできた国語の読み方をまとめるというか(そんな大それたことはないのですが)、今までつけてきた読み方の力を発展させつつ一定の方向性をもたせるという意味で、思い切って読み方講座を持とうと考えたのです。
読み研を学び始めた初心に返り、短くて、典型的な作品でまず読み研方式の基本を学習させようと考えました。それを学年スタート時の「総合」などの時間を利用して、「読み方講座」と銘打ってすることにしたのです。
まずは「構造よみ」から
「構造よみ」では、大阪の昔話『ならずのナツメ』と『はしのうえのおおかみ』を取り上げました。『はしのうえのおおかみ』の「二つの大きな勢力」は、おおかみの葛藤と変化なのでつかみにくいのですが、事件の展開がわかりやすくおおかみがはっきり変化するクライマックスがとらえやすいので二つ目にもってきました。そして、仕上げは、なんといっても新美南吉の『はな』です。「形象よみ」、「主題よみ」まで耐えうる作品です。
二つの作品で力をつけてきた子どもたちは、この『はな』では、(何年生で実践してもいつもそうなのですが)必ずや発端では、冒頭=発端説と「ひろしくん」が「けんぼう」の学校にやってくるところ説に意見が分かれ、「読み」の実力がついてきたことを示してくれます。
教科書の教材では、新出漢字や意味調べ、音読などで進めておきます。そして読み方講座で「構造よみ」が『はな』まで進んだ頃、この「構造よみ」を教科書教材に当てはめてみました。
実際には、一つ目の文学作品『カバンの中にカバンを入れて』に続いてすぐに二つ目の文学作品『手紙』(戦争文学)に、まず当てはめることにしました。孫とおじいちゃんがうまくいっていなかったのですが、八月十五日終戦記念日という日を境に、おじいちゃんが戦争について語り、友だちの遺書になってしまった手紙を孫に託すということから、おじいちゃんの気持ちを理解して心が通じ合うという作品になっています。「二つの大きな勢力」である孫とおじいちゃんがわかりやすく、その背景に戦争を描いておじいちゃんの戦争への思い(反戦への願い)を孫に託していくこととおじいちゃんを理解し心が通じ合うことが重なったクライマックスが理解しやすいので、まず先にこの『手紙』に当てはめたのでした。
「構造よみ」においては、このような工夫をすることによって、教科書教材を読み方の実践として「読む」ことができます。子どもたちは、読み方講座で学んだ読み研の「ものさし」を使って読み取るようになります。そして、この「構造よみ」だけでもかなり作品を読み取ることになるので、後は教科書の手引きのところをすれば終わることもできます。
「形象よみ」には投げ入れ教材も
次に「形象よみ」をどうするかは、この二つの教科書教材では物足りません。投げ入れを考え、光村図書の五年の最初の教材の『新しい友達』を持ってくることにしたのでした。
説明的文章の講座での工夫
説明的文章でも、読み方講座は有効になると思います。でも、短くて典型的な教材がなかなかないのです。
大阪書籍では、説明的文章の構造を五年の初めに「序論・本論・結論」と提示しています。間違いではないにしろ論文に使うような用語で、小学校の子どもたちに馴染む言葉とはとても思えません。また、「はじめ・なか・おわり」という言葉でも説明のしかたを述べています。統一した言葉として(概念としても)、読み研が使う「前文・本文・後文」が有効です。
教科書の教材であつかっている短い説明文(十段落に満たない)を二つ使って、説明文の読み方講座としました。二つ目のとても短い説明文は、作文として提示されつつ、これが説明の仕方として述べられています。「自然のおそろしさ」について説明したものですが、題はありません。そこで、典型の文に近づけるために、前文の最後に問いかける文を入れたらどうだろうかとか、本文の自然のおそろしさの説明三つ、台風・大雪、かみなり、地震について、「まず」「そして」「さらに」と例を出す言葉を入れるとよくわかるとか、君たちならば四つめの自然のおそろしさの例として何で説明するかを考えさせたりした。題も考えさせたりした。この講座で学んだことを使って、次の『花を食べる』に臨むのですが、この説明文は、「構造よみ」にはとても適している文章です。しかし、それ以上になると物足りなくなると思うのです。そこで、投げ入れを考えていくことになります。
まとまった講座として、読み方講座を開くことは、子どもたちに文章の読み方について、読み方というものがあることを教え、読むことへの興味を引き出し、授業でのおもしろさを発見させ、体験させることにつながると思います。
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