小説「形」(菊池 寛)の指導

小倉泰子(東京都葛飾区立一之台中学校)

 中学3年・1学期、短い時間(計4時間)の中での指導を紹介します。

▼1時間目

1 範読を聞く
2 一読後メモを書く(B5版1枚)
 ①印象に残ったこと
 ②疑問に思ったこと
 ③題名「形」から考えたこと
 ④感想
3 教科書の脚注及びワークを使いながら、難語句の確認をする
  次の授業の前までに、一読後メモの中でいくつかの記述をプリントにしておく。

▼2時間目の前半

1 一読後メモプリントを読み、共感する意見・発見のあった意見などチェックする。
2 読みたい部分の確認 (  )内は子どものメモの言葉
①槍中村が戦場で次々と敵を倒していくシーン。
(羽織とかぶとはさぞかし美しかったんだろうなぁと思いました。)
②吹き分けられるように、敵陣の一角が乱れたところを猩々緋の武者は槍をつけたかと思うと、早くも三、四人の端武者を突き伏せて、また悠々と味方の陣へ引き返した。
③今日は、彼らは戦いをするときのように勇み立っていた。 
(敵の雑兵の新兵衛に対する気持ちの変化 あんなにおじけづいていたのに…)
(自分にもこういう場面があるかもしれないと思った。サッカーでとても伝統のある強いチームのユニフォームをつけた人たちと試合するときは強そうだなぁーとか思ってしまって自分の力を出せないときもあるけど、普通のユニフォームだったらいけるかもしれないと思ったりして力を出せたりすると思うから。今まで中村が強かったのは強いと言われている中村のつけているよろいとかぶとを見て、相手がびびって最大の力を出せなかったんだと思った。)
(形で人はまどわされてしまうんだあなぁと思った。)
④敵の突き出した槍が、おどしの裏をかいて、彼の脾腹を貫いていた。
(この小説の終わり方)
(自分は強いと自他共に思っていたけれど、本当は身につけているもので敵は脅えていた、と少し分かった時に死んでしまう。その最後の展開が面白かった。けれど、何となく少しかわいそうな気もした。)

▼2時間目後半

3 発端を考える
発端 「新兵衛殿、おり入ってお願いがある。」…
 子どもたちの理由…新兵衛がかぶとや羽織を貸したことから、新兵衛はやられてしまうことになるから

二つの勢力を考えさせる
 子どもたちは、「新兵衛と敵」とすぐに発言するが、すぐに、それなら、ここから始まっているのでなくて、始めからそうだということになり、ここで始まっている対立とは何かということになる。そこで、すぐに考えるのが、登場したのは、「若い侍」なので、「新兵衛」対「若い侍」である。しかし、多くの生徒は「まさか?」「どういう対立?」という雰囲気。「新兵衛と若い侍で対立しているというか、反対になっていることがある?」と問いかけてみる。

<板書>
 新兵衛…  実力がある ベテラン   猩々緋とかぶとがなくなる
   ↓
 若い侍…  強いか弱いか分からない 猩々緋とかぶと

 強いのはどちらか?何が強さなのか?実力と見かけ・形の対立、子どもたちから出てこなければ、はっきりさせないままクライマックスへ行く。

▼3時間目 

1 クライマックスを考える
 クライマックス 敵の突き出した槍が、おどしの裏をかいて、彼の脾腹を貫いていた。
 
子どもたちの理由…新兵衛がやられたと分かるところだから
*新兵衛がやられたのはなぜか?
*若い侍はどうだった?
*若い侍はなぜ敵を恐れさせることができたのか?
*新兵衛がやられたことで、何がはっきりしたの? 
 猩々緋とかぶとが敵を恐れさせた。→実力よりも形が力を持つ・意味を持つ。

2 導入部を読む 
読みたい部分の①を読む
 「味方が崩れ立ったとき、~どれほどの脅威であるかわからなかった。」
対句であることを確認しながら、「猩々緋の姿」「唐冠のかぶと」に注目させる。
*誰のこと?               …新兵衛
*なぜ新兵衛と書かないの?        …?
*ここまで、どんなふうに書いているのかな?新兵衛以外ある?
  …「槍中村」
「 」は?…そう呼ばれているという意味。
*導入部の中で他には?…槍中村の猩々緋と唐冠のかぶと 
*「こうして」ってどういう意味?…これまで説明してきたことのまとめ

 導入部の中で、彼の武者姿のことがたくさん書かれていたんだね。

3 (展開部以降) 山場の部を読む
読みたい部分の②③を読む
*特に注目すべき部分はどの言葉?おかしいなという言葉はない?不正確な言葉…。
…猩々緋の武者<山場の部では、この言葉が4回続けて出てくる>
*正しくは?事実通りに書くと?…猩々緋(を身に付けた若)武者
*こう書かれているのは?   …①敵の目から見たままを描写した。
                 敵の目には新兵衛に見えていることが伝わる。
                ②読み手にとって、猩々緋が印象づけられていく。
                 →「形」が強調されてくる。

▼4時間目

1 敵の様子がふだんと違っていたのは、なぜか?
 …①新兵衛が黒皮おどしの平凡な姿で、強そうな武者には見えなかったから。
  ②猩々緋の「槍中村」に突き乱された恨みをはらそうとしていたから。

2 読みたい部分の④つまりクライマックスを読む
  敵の突き出した槍が、おどしの裏をかいて、彼の脾腹を貫いていた。
 槍…槍中村が槍にやられる皮肉
 おどしの裏をかいて、彼の脾腹を貫いていた。
  …決定的な敗け。惨敗。
   残酷・酷たらしい。
 前文の「後悔するような感じが頭の中をかすめたときであった。」とともに、読み手は、 新兵衛と一体化し、新兵衛のような気持ちになりながら、「形」の「実力」に対する勝利を、ショッキングな描写・結末で思い知らされる。

3 この作品の終わり方の特徴
 …クライマックスで終わっている
→①まだ続きがありそうな感じがする。
 ②途中で、読み手は放り出されたような感じがする。
 ③インパクトが強い。
→①まだ先を読みたいという気持ちを起こさせる。
 ②作品の訴えていること・テーマを考えざるを得ないところに追い込まれる。
 ③印象に残る。

4 この作品のテーマを書かせ、発表させる(子どもの書いたものから)
○題名の通り、形、つまり、見た目や外見の及ぼす影響
○見た目の変化による、周りの人たちの変化の大きさ
○形の大きさに気づけないままだと、痛い目食うよ!みたいな感じだと思います。
○「形」(見た目とかも含む)から生まれる(見える)強さとかと、中身のギャップ
○その人のものでもあり、その人のものでもない「形」。「形」に力を与えるのは、その「形」を見ている周りだ。
○自分も他人も形から生まれたものに惑わされてしまう…?
○見た目・形から生まれてしまうおごりとか、その「形」の影響の恐さとか。
○自分の形というか、この場合は槍の上手さのために、槍で殺されてしまった槍中村のかわいそうさ。槍が上手いのに槍で殺される皮肉な運命?