高橋順子『ジーンズ』で詩の読み方を教える

読み研通信77号(2004.10)

児玉健太郎(大阪府豊中市立第八中学校)

一 はじめに

 本教材は、平成一四(二〇〇二)年度版三省堂『現代の国語2』(一三四~一三五頁)に掲載されている詩教材である。まず教材本文を掲げる。(行番号は筆者による。)

  ジーンズ     高橋順子

1 ジーンズを洗って干した
2 遊びが好きな物っていいな
3 主なんか放っといて歩いていって
  しまいそう
4 元気をおだしってジーンズのお尻
  が言ってるよ
5 このジーンズは
6 川のほとりに立っていたこともあ
  るし
7 明けがたの石段に坐っていたこと
  もある
8 瑠璃色が好きなジーンズだ
9 だから乾いたら
10 また遊びにつれてってくれるさ
11 あいつが じゃなくて
12 ジーンズがさ
13 海にだって 大草原にだって
14 きっと

 本教材は若い男女間の恋愛感情を背景にしていると読め、中学生には共感しやすい。生徒達が一読しただけでも大体の意味は分かるであろうし、何らかの感覚に訴えてくるものがあろう。そうしたぼんやりとした生徒の読みを、もっと意識化させ、言葉として表現させることが必要である。
 こうしたことをふまえて、この詩教材の分析と授業で指導すべき言語技術とについて述べる。

二 教材分析

 以下、構成読み・技法読み・主題読みの順で分析する。なお、読み研では一般に、読みの第一段階は「構造読み」と呼ばれているが、筆者は「構成読み」としている。

【I構成読み】
 この詩の構成は次のように読める。

 起 1~4行目  
 承 5~8行目
 転 9~12行目  
 結 13~14行目

 《起》では、ジーンズを洗って干した語り手が、その干されているジーンズの様子について語っている。ジーンズは擬人化されて語られ、時間は現在である。
 《承》ではそのジーンズについて過去の回想が述べられている。引き続きジーンズは擬人化されているが、現在から過去へという時間的な変化が読める。
 《転》からは、語り手が未来への希望を語ることになる。過去の回想から未来への希望という変化が読める。また、語り手が初めて「あいつ」という人物について言及する。さらに、ここでもジーンズは擬人化されているが、表現技法としては新たに倒置法が表われる。すなわち、時間・人物・表現技法の三点において変化を読むことができる。これは大変化と読むべきである。
 そして、《結》で未来への希望を誇張して示すことによって前向きな姿勢を強調する。と同時に省略法によって余韻を残しつつ詩全体を結んでいる。
 この詩においては、時間・人物といった「本文の意味・内容の変化」と、表現技法を中心とした「文体・表現の変化」とが、詩の構成、特に《転》を読む観点となる。

【II技法読み】
 紙幅の都合で全文の詳細な分析を示すことはできない。そこで生徒に身につけさせるべき読みの方法(言語技術)と関わる部分にしぼって述べる。
 第一に、詩全体にわたって「ジーンズ」が擬人化されている。そこでまず「ジーンズ」を読む。
 例えば教師のスラックスや生徒の制服のズボンなどと対比させて読むとよい。行動的・活動的で、一般に若者がはく普段着と読める。さらに、丈夫で破れにくく、そうたびたび洗うものではない。
 また、「ジーパン」という呼び方と対比させると、少ししゃれた、おしゃれな感じもする。例えばビンテージ物と呼ばれるような希少価値のある値段の高いものには、「ジーパン」よりも「ジーンズ」という呼び方の方がふさわしいだろう。
 これらのことから、次のようなことが読める。①語り手や「あいつ」が若く行動的・活動的な性格であること。②「ジーンズ」を洗うという行為に何か特別な意味があること。③「あいつ」は語り手にとって普段着で会うような気心の知れた相手であったこと。④しかし一方で、少ししゃれた「ジーンズ」をはいて会うべき相手でもあったこと。
 第二に、6・7行目の対句的表現である。この部分は擬人法も使われている。「川のほとりに立っていた」り、「明けがたの石段に坐っていた」りしたのはジーンズをはいた語り手自身である。対句による強調で、「川のほとり」「明けがたの石段」だけでなく、そのほか様々な場所に行ったことがあると読める。つまり、様々な場所で自分とジーンズが一緒だったこと(いつもジーンズをはいていたこと)を示し、一体感を強調している。
 またこの部分には普段見慣れぬ「坐」という漢字が使われている。一般的な「座」という書き方と対比すると、あまり使わない特別な文字で強調されると共に、絵画的印象も強まる。つまり、二人で石段に「坐って」いるイメージが視覚的に強められ、その時の様子が語り手の思い出に強く残っていること、語り手にとってそれは何か特別な行為であったことが読める。
 次の行(8行目)では、この思い出が「瑠璃色」と美化されている。川の水の色や明け方の空の色が「瑠璃色」であると同時に、語り手にとってそれらの思い出は「瑠璃色」のように美しく懐かしく思い出されるもの、宝石のように貴重なもの、しかしガラス(「瑠璃」はガラスの古語)のように壊れやすくもあるもの、ということが読める。
 第三に、10・11・12行目の倒置法である。擬人法・余白空けも使われている。余白空けの効果もあって、後半が強調される。
 「あいつが」という表現は、その後の余白空けによって特に強調される。「あいつ」に対する語り手の特別な思いが読める。「あいつ」は、肯定的に読めば非常に親しい人物、否定的に読めばよく思っていない嫌いな人物と読める。いままでは「あいつが」「遊びにつれてってくれ」た。ジーンズをはいて様々な場所に行ったように、「あいつ」と一緒に様々な場所に行ったと読める。しかし今は「あいつ」が連れて行ってはくれない状態なのである。
 とするとジーンズを洗うという一行目の行為は、「あいつ」との思い出・記憶を忘れようとする象徴的な意味があると読める。汚れがジーンズから洗い流されることが比喩だとすると、汚れは語り手が忘れたい思い出・記憶である。ではジーンズそのものは何の比喩か。それは語り手の心・精神・意志そのものである。
 つまり、「ジーンズが」「つれてってくれる」とは、語り手が自分の意志で行くという、自立の宣言であると読める。

【III主題読み】
 以上の読みから、次のような主題が読める。
○精神的に落ち込んだ状態でも、未来へ
 向かって積極的な姿勢を持ち続ける健
 気な語り手の姿。
○ジーンズは行動的な服装で、生地も破
 れにくくしなやかで強い。行動的・積
 極的で強靱な、つまりジーンズのよう
 な精神・意志を持って生きていくこと
 の大切さ。
○精神的な自立を遂げようとする語り手
 の成長する姿。

三 指導すべき言語技術

 本教材では次のような言語技術を指導すべきである。

1 その詩に即した観点で、詩全体を起承転結にわけ、構成を読みとる技術。
2 表現技法を中心に、その詩の言葉に即して形象を読みとる技術。

 形象を読みとるさらに具体的な技術としては、次の五つを指導すべきである。

(1)語句の一部を、類似する他の語句に置き換えた表現と対比させ、その差異を読み取る技術。
(2)一般的な表現と対比させ、その差異を読み取る技術。
(3)語句や文字の音感や形から、多様な意味を読み取る技術。
(4)表現されたことがらについて、その肯定的価値と否定的価値との両面を読み取る技術。
(5)比喩において、「たとえるもの」の属性から「たとえられるもの」の性格を読み取る技術。

四 終わりに

 第一学年時より、国語の授業では言語技術を学ぶと宣言し、読みの方法についても学習を積み重ねてきた。生徒ひとりひとりが、他の詩を読むときにも使える言語技術として詩の読み方を身につけなければならない。そして言葉を根拠に読みとったことを自分の論理でまとめ、それぞれの主題を創っていくことが大切である。

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
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