「公立校は学校なのか」AERA4月3日号の波紋
小中一貫“教育特区”東京・品川区の教育改革裏話
この春、東京品川区で公立の小中一貫校が発足し、話題となった。「教育改革」が嵐のように進むなか、品川の教師たちの間でこんな落首がささやかれている。
品流し 改革進んで 品回し
「AERA」4月3日号には「東京都の教員の間では品川区への配属が「品流し」と呼ばれ、嫌われている。一時期、他区へのぎたために、現在では品川区内を転々とさせられる『品回し』も増えているのだという。」とこの間の事情が説明されている。(傍線部は「他区への【転出希望者が多す】ぎたために」の誤植か)品川区の教員を招いて学習会を開いたときも、こんなひどい状況が話題となった。品川区では、団塊の世代交代も重なって、現場には若い新卒の教師ばかりが増えている。そうなると、教育の質の低下をカバーするためにベテラン教師の負担が重くなる。退勤時刻で家に帰ることなぞ夢の話だという。若い教師は、勤務時間など問題にせず、夜遅くまで学校に残って仕事をする。しかし、家庭のあるベテラン教師はそうはいかないと、嘆きの声が聞かれた。
「坊主と乞食と学校の先生は3日やったらやめられない」などと昔は悪口を叩かれたものだが、いまや「学校の先生は3日やったらやめたくなる」のが現実だ。だが待てよ、と私は思う。かつて、教師が生徒を刺し、校内暴力で日本一荒れた学校と言われた東京町田市の忠生中学校で、私は退職までの13年間を過ごした。事件が起きたのは、転勤2年目である。その後配属されてきたのは若い教師たちであった。「忠生中流し」であったに違いない。しかし、この荒れた学校を再建したのは若い教師たちの力であった。若い教師たちをどう見るのか、その力をどう育てるのか。嘆きつつも明日への展望を切り開くことがベテラン教師の任務ではないのか、と…。
品川区教育委員会から『品川区小中一貫教育要領』(講談社)という本が出版されている。その中で、今年度に1校開設し、来年度にもう一校公立の小中一貫校を開設する方針を発表している。建物は当面2校を建設する計画だが、教育内容はすべての公立小中学校で今年度からスタートした。しかし、カリキュラム作成に当たっては、現場の先生たちの意見は吸い上げられず、どこかで作られたものが天から降ってきた。
さて、小中一貫教育の国語科の指導指針なるものを見てみよう。その特色は、文化審議会答申を先取りして現行指導要領を改めようとしている点にある。国語学力の基礎基本を語彙力と読み・書きに置き、論理的思考力を育て、読書活動を推進するという。この方向性には賛成だ。
しかし、実際上の具体案になると、語彙力については漢字の習得字数を増やし、「覚える時期を早める」ことに矮小化されている。漢字学習の系統性、子どもの負担増、文に即して語彙を獲得する重要性は問題にされず、漢字の量的獲得のみが目的化された。漢字配当表は現行の指導要領に日本漢字能力検定協会の4級配当漢字316字を加えただけの杜撰なものだ。例えば、いろいろな言葉集めをすることができるとして、「花、野菜、くだもの、魚、虫、動物など」の例が挙がっているが、「野菜」などという難しい漢字を1・2年生に教える必要があるのか。
「読むこと」が総論では重視されていたにもかかわらず読書指導に代替され、見かけの数的増加になっている。読書活動を国語の時間に週1回導入するにしても、単に図書館で本を読む時間にならないか。これで果たして「読みの力」がつくのだろうか。 結局、総論で打ち出された積極的な国語科の指導指針は、化けの皮がはがれて現行指導要領を焼きなおした程度のものになっている。さらに、問題なのは、「ステップアップ学習」である。「生徒の特性等に応じ多様な学習活動が展開できるよう」に「課題学習、表現や理解の能力を補充的に高める学習、発展的な学習活動を各学校において適切に工夫して取り扱う」のがステップ学習である。これは補充授業や習熟度別学習に道を開いたものである。おそらくこの方針が浸透すればするほど、学力の二極分化はますます激しくなっていくに違いない。
さらに問題なのは、学区自由化によって学校間格差・学力格差の矛盾が拡大し、学力テスト体制に即応する意図が見え隠れしていることである。小中一貫教育を導入すれば、競争原理に基づく子どもの差別選別がいっそう加速することは明らかだ。
品川区の国語科の指導指針は羊頭狗肉であり、実際問題としては漢字習得数の過重な負担と読書指導が国語授業の中に組み入れられたという結果になっている。これが果たして改善された方針といえるか、大いに疑問である。
【資料】
1.小中一貫教育 4 (2) 小1・2
(2) 3・4
3 5・6・中1
2 中2・3
2.国語で育てたい力 品川案 現行
①言語事項 ①話すこと・聞くこと
②読むこと ②書くこと
③書くこと ③読むこと
④聞くこと 言語事項
⑤話すこと
⑥読書活動
3.授業時数
A話すこと聞くこと 1~4学年……年間 30単位時間
5・6学年 25 〃
7学年 15 〃
8・9学年 10 〃
B書くこと 1・2学年 90単位時間
3・4学年 85 〃
5・6学年 55 〃
7学年 40 〃
8・9学年 30 〃
C読むこと
読書指導 1~4学年 30単位時間
5~9学年 10 〃
プロフィール
- 2017.05.26授業づくり実践をどうつくりだしていくのか- 若い教師への実践のアドバイス -
- 2008.05.20授業づくり新学習指導要領国語科に見る人間観・教育観(下)
- 2008.04.19授業づくり新学習指導要領国語科に見る人間観・教育観(上)
- 2007.05.25授業づくり1時間の授業をどう組み立てるか(2)