発問と学習集団について

『読み研通信』110号より

1 はじめに

 「学習集団」については、東京大学名誉教授の柴田義松氏が、その著作などで理論的側面や実践例について紹介している授業の教授理論である。「読み研方式」の「よみの理論」と、この「学習集団の理論」の相乗効果により、国語の学習で読みの力をつけたり、学び方を身につけさせたりすることにとても役立つものである。
 「読み研方式」の学習方法が身についている児童生徒にしても、「学習集団」を使わずに一斉授業で学習を進めると、一部の理解ができた子たちが話すだけになりがちである。他の子たちは置き去りにされてしまい、よくわからない授業になってしまう。
 「学習集団」を活かした授業とは、想像力、理解度、生活経験、読書量、語彙力、興味や関心などの違いがある個々の児童生徒が、教材をよりどころにして考えを述べ合い、より多くの意見をもとにして、教師の発問に答える授業であるといえるだろう。

2 「発問」に関して

 「読み研方式」の授業の発問は大別して「一問一答型」と「一問二答型」と「一問多答型」に分かれる。
 「一問一答型」と言っても、「主人公の名前は何ですか?」というような単純なものではない。もちろん、全員が答えを言えるような発問により、クラスの学習に対する意欲付けや雰囲気づくりに欠かせない問い方ではある。
 しかし、ここで述べる「一問一答」とは、「クライマックスの一文はどれですか?」のような、漠然と文章を読んでいてはわからないような問いである。文学作品の「発端」や「クライマックス」の決定、説明的文章の「はじめ・中・終わり」の段落分けなどがそれである。
 「一問一答型」の発問をすることで、答えの候補がいくつかに分かれる場合と、全員がおそらく一致して一つの答えを選ぶと思われる場合に分かれることになる。これは主に構造よみの際にこのような話し合い方の形態になることが多い。
 「一問二答型」としては、例えば文学作品のように、悲劇であると同時にハッピーエンドであるとか、Aであると同時にBでもあるなどの見方をする場合や、AであるかAでないかなどの見方をする場合である。形象よみや主題よみの際に、このような読み方になる。説明的文章で考えると、吟味よみの際に、端的でわかりやすく書かれているが、他の例や可能性について説明がなされていないなどの、論証についての吟味の時などに、話し合いがなされる。クラスを二分してディベートのように討論することもできよう。
 「一問多答型」の問いとは、「登場人物のプロフィールを読みとろう」等のように、性別、年齢、体格、体型、性格、好み、境遇、状況、特徴、口癖、過去の経験、貧富など、様々な答えが予想される問題などである。
 「一問多答型」の場合は、グループ競争のようなスタイルの授業を想定し、多くの意見が出るように学習グループの話し合い時間を確保したい。
 クラス全体の話し合いでは、各グループから出された意見が、妥当なものかどうかを話し合うことで、イメージの共有を目指す。
いずれにせよ、重要なのは教材研究である。

3 学習集団「小グループ」を動かす

 「読み研方式」で授業をされている先生方ならおわかりであろうと思うが、学習集団の授業は、「個人→小グループ→クラス全体」という手順で問いに対する答えを検討する。
 まずは、発問に対して、個人で考える時間をとる。「一問一答型」の場合は、答えと思われるものを考えるが、一つに絞らせず、他の可能性がないかも考えるよう助言し、いくつかの候補を出すようにさせる。
「一問二答型」では、Aについての理由や根拠とBについての理由や根拠について、子どもたちに片方の立場を決めさせて考えさせる。
「一問多答型」の場合は、様々な観点から考えさせたい。観点については、板書などを活用して意見をまとめさせる。
子どもたち一人一人が、自分なりの答えをひとつ以上考えたらグループの話し合いにする。この時、全員が何かしらの意見を持ったことを目視できるよう、わたしは赤白帽子をかぶるように指示を出す。これについては、賛否もあるだろうから、クラスに教師とのハンドサインや机上にものを置くなどの目視が可能になる方法をとれるとよい。必ず遅い子を待ってやる、ヒントを出してやる、全員が参加できることが一番だというクラスの共通理解など、日常の学級経営が必要不可欠であることは言うまでもない。
だれもが最低一つは意見や理由・根拠を見つけたら、小グループで話し合う。小グループは、3~5人が適当である。低学年では、ペアトークでもよい。
小グループでの話し合いは、司会を立てて行う。わたしの場合は、司会は次のような手順で話し合いを進める。
① 話す人を指名する。
 「○○さん、意見を言ってください。」
② 似た意見がないか、反対意見はないかを確かめる。
 「似た意見はありませんか。」
 「反対意見はありませんか。」
③ 他の意見がないか別の人を指名する。
 「他の意見はありませんか。」

※「一問一答型」の場合は、次のように話し合いを終わらせる。
④ グループの意見をまとめる。
 「○○さん、意見をまとめてください。」
⑤ グループの意見を黒板に書く人を決める。
 「○○さん、お願いします。」
 意見を言いたい子や、黒板に書きたい子等の積極的な子、ではない子を司会にする。司会だけはマニュアルに沿って話すことができるからである。

4 机間指導のポイント

 小グループの話し合いでは、机間指導がクラスでの話し合いの重要な準備過程である。
 学習する際、異なった意見があることで子どもたちは、論破しようと根拠を必死に探したり、説得しようと意欲的に言葉を選んだり、内容の理解が深まったりすることが多い。机間指導で異なる意見を発見したら、それぞれの意見の根拠や理由を聞いてやり、大いに褒め、話し合いの中で発言するように声をかける。
 「多答型」の場合は、他のグループが気づいていない答えを見つけているグループを押さえておきたい。話し合いが進んでいないグループには、他のグループと違う視点から答えの検討をするようヒントと助言を与える。

5 「クラスの学習集団」で話し合う

 「一問一答型」は、違う立場のグループと意見を出し合うことで、どちらが納得がいくかを決める。子どもたちに言わせると「バトル」である。相手を言い負かし、自分たちの意見を通すため話し合うことは、知的な興奮と脳の活性化を促すように思われる。
 「○○グループに賛成です。」「△△グループの意見に反対です。」と、話し合いでの立場を明確にしてから、自分たちの意見を言う。教師の指名も個人名ではなく、「○○グループ」と言うようにグループで指名する。なかなか意見の言えない子どもたちも、グループの代表が意見を述べるたびに拍手をしたり、賛成・反対の意思表示をしたりする。
 「一問二答型」や「一問多答型」の場合は、意見が多く出るほど、内容理解が深まり、「鋭い!」「なるほどね。」「そうとも考えられるんだ。」等のつぶやきが出てくる。「バトル」ではないが、お互いを認め合い、感心したり、納得したりの話し合いである。興奮するということではないが、みんなで力を合わせて考えているという一体感が生まれるのは、こちらの方である。

6 話し合いの評価

 せっかく話し合ったのに、話し合いの結果だけで授業をまとめてしまうのはもったいない。誰の意見がよかったか、誰の見つけた根拠や理由がよかったかを、振り返る時間が必要である。
 同僚の佐藤智子先生が校内研修で考案した「足あとノート」が、とても効果的なので紹介したい。話し合いの最中は教科書に線をひいたり、書き込みをしたりすることで、書く作業は手一杯である。
そこで、小グループの話し合いで、自分が納得したり、よくわかる説明をしたりした友達の名前だけをノートに一人書いておく。
クラスの話し合いでも、「なるほど」と思った意見を言った友達の名前を書いておく。話し合いの過程では、名前だけで十分である。
話し合いが終わり、振り返りの時間に、名前を見ながら、どんな意見がよかったかを思い出しながら書くのである。小学校二年生の後半なら、名前を書くことは十分可能である。中学年では、その理由も書くことができる。
「足あとノート」を書くことで、子どもたち一人一人が、学習を振り返ることができ、教師としても、話し合いの評価の客観的資料になるので、とてもよい方法である。
読解と話し合いだけでなく、書く力もつけていきたい。「読み研方式」の「書く」学習法に位置付けられるのではないだろうか。

7 終わりに

 わたしが学習集団を使っての話し合い活動を始めたのは、ずいぶん以前のことである。読み研の大会などで模擬授業を見て、見様見真似で話し合いを進めてみた。現実はそんなに甘くはなく、クライマックスの話し合いでは、意見が二分し、「先生!どっちなの!」と子どもたちに迫られることもあった。何より教材研究が足りなかったことが原因であった。
しかし、今思い出してみると、真剣に話し合ってくれた子どもたちによって、教師が行う教材研究よりも遥かに深い教材研究ができたのだと思う。今まで受け持ってきた多くの子どもたちに、たくさんのことを教わったと本当に感謝している。若い先生方も、ぜひ、学習集団について実践してみてほしい。他教科の話し合いにも応用が可能なので、話し合う楽しさを子どもたちに教えてあげてほしいと思う。