きつねのおきゃくさま 教材についての雑感

「きつねのおきゃくさま」の教科内容についての雑感

教材分析

①登場人物について
寓話や昔話に登場する動物は、その動物であることに寓意を持たせているので、登場人物についての性格や性向・一般的なイメージなどはおさえておくことが大事です。
例……『おてがみ』の「かえるくん」と「がまくん」が逆では物語が成り立たない。
・きつね  人間に近い所で暮らしている 人をばかす 化ける ずるい 狡猾 悪知恵がはたらく 肉食
      キツネ憑き 九尾狐 お稲荷さんのきつね 
・ひよこ  子どものにわとり 弱い 経験が足りない かわいい ピヨピヨ鳴く 世間知らず 
・あひる  家畜 自然の中では暮らせない 食べられる側 フォアグラ・北京ダック
・うさぎ  家畜 ペット 野うさぎは野生 はねる 素早い 食べられる側 フランス料理 中華料理にも
・おおかみ 攻撃性 獰猛 群れをなす 怖い 弱いものをつかまえて食べてしまう 悪役

②動物の出てくる順番からわかること
 人物のイメージで考えると、ひよこ・あひる・うさぎの順番にも意図があることがわかる。世間知らずのひよこが、まずきつねのお客様になる。次に鳥小屋などを襲われるあひる、直接追いかけられるうさぎと、がぶりとやられることを警戒する順へと変化していくことが読みとれる。つまり、騙されやすいひよこのおかげで、あひるとうさぎもきつねの罠にはまってしまうのだ。ひよこはしょうがないにしても、あひるは、きつねの危険さに気が付くべきだった。うさぎなら、もっと怪しむべきだった。このような物語の変化・発展が仕掛けられている。だんだんきつねを疑って当然のはずの生き物までが、きつねを信頼してしまったことに、食べるに食べられなくなっていくきつねのドラマが読みとれる。

③話者(ナレーター)について
 「むかしむかし、あったとさ。」などと昔話の語り口調が基本である。しかし、時折ワイルドになる。「まるまるふとってきたぜ。」が三度出てくる。これは、きつねにとって、育てた獲物が食べごろをむかえたことを、きつねの側からの視点で語っている。「・・・・・・ぜ。」と、まるでスギちゃんのように悪ぶって語る語り口である。ここから、話者がきつねに近いことが伝わってくる。きつねという存在が、ひよこ・あひる・うさぎにとっては、命を奪う存在であることを当然のように述べている。

④きつねの葛藤
きつねにとって、育てた獲物が食べごろをむかえたところに、次の登場人物が現れる。一匹食べて、あとは逃がしてしまっていいのか。今まで我慢してきたし、もう少し我慢すれば、ひよこもあひるも食べられる!!!という下心がふつふつと湧いてくる。それとともに、「やさしい」「親切な」「かみさまみたいな」という言葉できつねは「ぼうっとな」る。元来きつねは、ずるがしこい、騙すなどの悪いイメージが先行しがちなキャラクターである。そのきつねを「やさしい」「親切な」「かみさまみたい」と心から思う生き物がいて、きつねを頼りにしている。きつねにとっては、今までにない幸せな状態である。
 がぶりとやりたい、と同時に、自分のことをよく思ってくれるひよこ・あひる・うさぎの言葉に、この上のない快感を味わってしまう。ぼうっとし、「親切なきつね」という言葉を五回もつぶやき、うっとりして気絶しそうになる。ひよことの出会いから、春のうた、夏のうたと、季節がめぐる中、きつねはやさしく親切に獲物を育てていく。この葛藤をずっと味わいながら……。
この二つの思いを行ったり来たりする葛藤がおもしろい。それに、文学的で読み手によって食べようとしている、いや、親切に育てようとしていると、叙述によっても判断できる。

⑤おおかみについて
 このおおかみ、「くろくも山」にすむ。くろくも山ときくと、嵐が来そうな険しい山、えさの少ない山、おおかみの巣窟があるような恐ろしい山、日の当らない山、草食動物たちがとても住むことのできないような山である。そこから来たのは、当然、腹を空かせた凶暴なおおかみであろう。おおかみも悪役であるが、騙したり、罠にはめたりというよりは、むしろ直接の素早い攻撃で獲物をつかまえるというキャラクターである。食物連鎖の頂点に君臨する存在である。このおおかみが、まるまると太ったひよこ・あひる・うさぎを見つけてしまった。あっという間もなく、三ぴきは餌食になってしまうだろう。

⑥きつねが飛び出したのは
 きつねは、自分のことを心から「やさしい」「親切な」「かみさまみたい」と思ってくれる三びきを助けたい気持ちと、せっかくまるまると太るまで育てた三びきを、おおかみに食べられてたまるかという気持ちが混ざっていただろう。さらに、きつねとおおかみでは、おおかみが大きく、勝ち目がないということを考えずに向かっていった。また、「やさしい」「親切な」「かみさまみたい」なきつねと言われることでぼうっとなっていることから、きつねは、自分のことを過大に評価してしまったのかもしれない。のぼせてしまったのだろう。勝ち目がない戦いに勝ってしまう。

⑦「そのばん。きつねは、はずかしそうにわらってしんだ。」とは?
 おおかみが逃げてから夜までは生きていた。おおかみを追い払ったものの、致命傷を受けて死ぬことになってしまった。戦いが長い時間を要した。何度もピンチになり、それをはねのけた。傷を負っても戦い続けた。「たたかったとも、たたかったとも。」「じつに、じつに、いさましかったぜ。」のくり返しなどからも、それは読みとれると思う。

⑧なぜ、「はずかしそうに」なのか?
 調子に乗りすぎたかな。「神様見たい」に、自分のことを持ちあげてしまった。はずかしそうな顔を三びきに見せたのは、おおかみと同じ食べようとしていたのに、けがした自分を三ぴきが心配してくれている。食べることができなくて、本当はよかったんだなあ。早く食べておけば、死ぬことなかったかなあ。
 
⑨なぜ、「わらって」死んだのか。
 自分が、実は三びきを食べようとしていたという事実がばれなくてよかった。食べようとして、食べることができなかったけれど、それでよかったのかもしれない。三びきを守るなんてがらじゃないが、おれもおおかみを追い払える力があったんだなあ。食べるチャンスはあったのに、結局だめだったなあ。おれって、いさましかった?最高だぜ!かっこよくもあり、情けなくもあり。

⑩「せかい一やさしい、親切な、かみさまみたいな、そのうえゆうかんなきつね」
 きつねは、ひよこ・あひる・うさぎ・おおかみにであったことで、とても素晴らしい存在として、拝まれるようになった。きつねにとっては、結局はよかったのかな。

⑪とっぴんぱらりのぷう。
 お話のおわり。「めでたし、めでたし。」と違い、悲劇的な終わりや残念なエンディングにも使われる。軽~いお話なのよ、という感じがする。

寓話の読み方 小学2年生でも楽しめるといいな。