大学入試対策演習~読み研方式の学習と断絶しない受験対策指導とは

読み研通信102号(2010.7)

1 はじめに

 今回の報告はベテランの先生方には、当たり前すぎる内容だと思われる。しかし夏の大会の時に、「読み研方式の学習は授業は盛り上がったりしていいのだが、受験対策になかなかつながらないのでは?」という質問を受けたことを踏まえて、私なりの取り組みを書いてみることとした。
 実は、私に投げかけられたその質問は、まさに私自身が前に感じていたことでもあった。一年生から、「構造よみ」や「形象よみ」などを折に触れながら、繰り返し授業を行ってきても、担当が高校三年生になると、生徒の要望もあり、夏休み明けからはどうしても大学受験を意識した問題演習が中心の授業にならざるをえない。そうすると、問題を解説するのが中心となり、どうしてもそれまでの読み研方式での学習と切り離したような授業展開、授業内容になっていたことに、疑問と難しさを感じていたのであった。
 そしてそれは、授業者である私だけが感じていたのではなく、生徒からも「構造よみとか形象よみとかは、面白いけど受験勉強にはつながっていかないのか」という問いがなげかけられたこともあり、「読解力がつけば問題だってできるようにもちろんなるのだ」とったような、もっともではあるものの、生徒には直接実感できないような回答をしていた。
 そこで、試行錯誤をしながらも、読み研方式での学習が、受験勉強にもつながっていくことを生徒が実感できるような授業について考え、今は次の三点を意識して授業を行っている。
 今回は紙幅の関係で具体例を挙げることができないが概要を述べて、その趣旨と意図をご理解頂ければと思う。

2 評論は構造よみを意識させる!

 初読時に、構造よみを意識させて「中心=柱」」「例」「詳しい説明」と段落を中心としておおざっぱな把握をして、問題文上部に記入しながら読むようにさせている。 
 そして「中心=柱」の段落や部分だと思ったところの、筆者の主張の重要構文や接続語に傍線を引いたり、マークを付けさせたりさせている。あまりできない生徒ほど、問題文全部に満遍なく記号が付き、かえってどこが大切なのかも見えなくなってしまいがちだが、こういったことを意識することでしっかりと読む部分と軽く読み飛ばす部分ができて、読むスピードもアップするようである。
 また、いくつもの例を挟んだ、離れた主張部分も見つけやすくなったり、設問に応じて読む深める部分の範囲もわかりやすくなったりすることで、構造よみを意識することが、問題を解くことに繋がることを実感させることができる。

3 小説は「前書き」を読み切る!

 小説の問題では、なにか心理の大きな変化や事件展開がある場面が採用されていれば、「構造よみ」を生かせることができる(「クライマックス」を考えることで、その変化を意識することが設問に解答することにもつながる)ので、その練習も行ったりしている。しかし問題文が全てそういった部分が採用されているわけではないので、いつでも使える「読み方」とはなりにくい。
 しかし殆どの問題文には「前書き=あらすじ」がついている。その「前書き」は、問題作成者が問題文を理解したり設問に解答する上で、最低必要だったり、誤解しがちな点の設定や状況を説明してくれているのであり、それは大きなヒントとなる。そこで「前書き」をそれまで行ってきた「形象よみ」の読み方で読み深めることを意識させている。それによって、その問題文の種々の設定(時・場・人物・事件設定)を読むことはもちろんのこと、今後の展開を予想したりしておくことで、問題文把握が容易になることもある。また、作門者の意識も読み取れることもあり、それはもちろん設問に解答しやすくなることにもなる。
 たとえば前書きに「・・雛人形を買い揃えたうえに、時間的な無理を承知で染物屋に雛壇の後ろを隠す幕を注文する。」ある問題があったが、この「うえに」を読んでおくことで、あとの問の選択肢が非常に選びやすくなることがあった。 

4 作問者・出題者を意識する!

 3で前述したことは、通常の教材を読むことと異なり、「作問者がこの文章をどのように読んだのか」という点を読み解いて解答するのが、問題を解くという事なのである。(特に選択肢問題の場合)
 だからこそ、選択肢を通して、その作問者の「読み」や「意図」を読み解く意識を持つことが重要であり、また、選択肢の中の表現(「のみ」「ばかり」といった限定の言葉や、オーバーな表現など)に注目して選択肢を検討していくことで、作問者のいわゆる「ひっかけ」などにはまらずに正解にたどり着けるようになる。 

5 おわりに

 とかく、問題演習の解説は、問題集の解答がそうであるように、「小説の内容や展開、描写」の「解説」になってしまいがちである。そこを「解き方」の「解説」になるように意識したり、「選択肢」を作った作問者の意図を意識させることで、自分がどういった種類の間違いをしがちなのかを理解して意識できるようにさせたりしている。
 また、上記三点は説明するだけでは成績上位層以外にはだめで、練習を全員ですることが重要だと感じている。
 つまり問題をまず解かせるのではなく、全員でおおざっぱな段落把握をしたり、重要構文や接続語にマークをつけて、その後問題文にあたらせたり、小説の「あらすじ」を全員でしっかり読み込んでから問題を解かせたり、一つの問いを全員で考えることを通しながら、主人公の会話を追うことで、その心情を読み取ったりといった練習を何度も行うことがクラス全体の問題解答力の向上につながることを実感している。そして、そういった授業展開をすることで、ただ、「問題を解く→解説を聞く」となりがちな授業を、それまで行ってきた全員で考えたり意見を出しあったりする授業をと同じような展開を取り入れることができる。
 最後に、さらに「作問者・出題者」を意識するようにさせたことで、推薦試験を受験する者の中から、「この課題から考えると出題者は、こういったことを求めているのではないか?」「面接でこういったことが聞かれるのは、こういった生徒を求めているからだろう」といったことを自然と意識して、考えて回答を用意したり必要に応じて調べたりする生徒も出てきたことは、予想していなかった以上のことだったので、嬉しかったことを付け加えて終わりとしたい。

プロフィール

建石 哲男
建石 哲男「読み」の授業研究会 運営委員/神奈川サークル
川崎市立川崎高等学校/埼玉大学(非常勤)
進路指導主任をずっとやっています(進学指導・就職指導)