小学校・詩の授業「風景 純銀もざいく」(山村暮鳥)教材分析

『読み研通信』116号より

1 教材分析

  風景 純銀もざいく

       山村暮鳥

  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  かすかなるむぎぶえ
  いちめんのなのはな

  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  ひばりのおしゃべり
  いちめんのなのはな

  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  いちめんのなのはな
  やめるはひるのつき
  いちめんのなのはな。

 この詩は、全部ひらがなで書かれた三連の詩である。どの連も「9音・9行」からなっており、言葉のリズム、響きを視覚に転化させている。

 どの連も「いちめんのなのはな」を8回くり返すことによって、見渡す限り広々と、一面に菜の花が咲き、黄色い菜の花が大地を埋めつくしている風景が、強烈にイメージされる。

 各連の8行目には「かすかなるむぎぶえ」「ひばりのおしゃべり」「やめるはひるのつき」と「いちめんのなのはな」とは違う言葉が述べられている。きちんとしたひらがな文字の並びの中に「麦笛」「ひばり」「昼の月」がはめこまれていて視覚的にモザイクのようである。

 一連の「かすかなるむぎぶえ」は、菜の花畑の真ん中で耳を澄ますと、人影は見えないが、だれが吹いているのかかすかに麦笛が聞こえてくる様子が表現されている。菜の花畑に静けさが広がっている。「いちめんのなのはな」のくり返しによる視覚的世界の中に聴覚が加わり、視点が移動している。そして、再び9行目が「いちめんのなのはな」となり、視点が菜の花畑にもどっている。

 二連の「ひばりのおしゃべり」は一連の「かすかなるむぎぶえ」と同様に視点が聴覚に移動している。しかし、音を発する位置が同じではない。「ひばりのおしゃべり」は地上からではなく、空中から響かせているものである。「おしゃべり」からは、にぎやかで心地のよい明るさ、無邪気さがただよってくる。一連と同様に、9行目が「いちめんのなのはな」となり、視点が再び菜の花畑にもどっている。

 三連の「やめるはひるのつき」は、視覚的表現であるが、一面の菜の花の鮮やかな風景とは対照的なイメージである。「やめる」は欠陥があるという意味であり、満月と比べてうっすらと白く輝いている月、半月(上弦の月)を表している。白っぽくかすんだ昼の月は、菜の花畑を際立たせ、強く印象づけている。昼の月は、ひばりよりももっと上空にあり、視覚の範囲が広がっている。そして、9行目は「いちめんのなのはな」となり、視点が再び菜の花畑にもどっている。詩の最後には句点が入っていて、広々と広がる菜の花畑に「麦笛」「ひばり」「昼の月」がはめこまれて、風景画のモザイクが完成したことを表している。

 最後は、題名読みである。なぜ「純銀もざいく」としたのだろうか。広々とした菜の花畑に春の明るい太陽が当たってきらきら輝き、銀色に見える。そればかりではない。「ひばり」「昼の月」も銀色に輝き、まじりけのない銀一色のモザイク画のような風景である。

2 授業の様子

教師  この詩には、どんな技法や工夫がありますか。
子ども 全部ひらがなで書かれている。
子ども どの連も9行で、1行は9文字になっている。
子ども 8行目だけちがうことばになっている。
子ども ひらがなで書かれているので、やわらかい感じがする。
子ども 菜の花が小さくてやさしい感じがするので、ひらがなにしたのだと思う。
子ども どの連も9文字の行になっているので、詩を見ると長方形のかたちに見える。
子ども 行の終わりが「なのはな」「むぎぶえ」「おしゃべり」「ひるのつき」となっていて、「です」がついていない。
教師  「です」がついているときと比べてどうちがいますか?
子ども 「です」がないほうが、きびきびしていてリズムがある感じがする。
教師  「かすかなるむぎぶえ」「ひばりのおしゃべり」「やめるはひるのつき」をなぜ8行目にしたのですか。
子ども 7行目まで「いちめんのなのはな」をくり返すと、菜の花畑がものすごく広々と広がっている感じがする。
教師  「かすかなるむぎぶえ」からどんなことがわかりますか?
子ども 菜の花畑が広いので、麦笛がものすごく小さく聴こえた。
子ども 小さな麦笛の音が聴こえるくらい、菜の花畑は静かだった。
子ども 「いちめんのなのはな」のくり返すは目で見た様子なのに、この行だけ耳で聴いた様子を書いている。
教師  では、二連の「ひばりのおしゃべり」はどうですか?
子ども この行も耳で聴いた様子を書いている。
教師  ひばりはどこでおしゃべりしているのですか?
子ども 空中です。
教師  三連の「ひるのつき」は?
子ども 上空です
教師  地上→空中→上空と垂直方向に風景が広がっていることがわかるね。
教師  「やめる」は欠陥があるという意味です。満月と比べてどこが足りないのですか?
子ども 昼の月だから、色が白っぽい。
子ども 月の勉強で習ったように、春の月は上弦の月で半月になっている。
教師  菜の花畑と昼の月を比べると、どうちがいますか?
子ども 菜の花の黄色がより目立つ感じがする。

(後略)