「形」(菊池寛)の易しく楽しい「吟味読み」の試み
内藤 賢司
小説の「吟味読み」をどう展開するか。今、読み研ではさまざまな方法でその模索が行われている。そして実践も少しずつ進んできている。
読み研代表の阿倍昇さんは、物語・小説を「吟味する方法」として七つの方法を提起している(『国語授業の改革8』P18参照/学文社)。
私は、こんな「吟味読み」(そう言えるのかどうか自信はないが)の展開はどうだろうということで、一つの試みを紹介したい。気軽に進めてみたいのである。この気軽にという点が大切なのだ。「吟味読み」をあまり堅苦しく考えないほうがいい。自分でやれる方法でやっていけばいいと思う。そして、そういう実践を徐々に定式化していけばいいのだと思う。
ところで、この「吟味読み」であるが、もちろん、構造読み、形象読み、主題読みの後で展開するものである。それまでの読み込みが前提であるということはいうまでもない。で、その実践については、読み研ホームページの6月のところで、熊添さんが紹介しているので、それをごらん頂きたい。
次のような点から「形」、「形」と「内実」(実質・実力)について話し合いをもってみたらどうだろうか。ここでは、話し合いの観点と生徒たちの予想される反応のいくつかを紹介することにする。これはあくまで一つの観点であり、大雑把なものである。また、生徒たちの意見を引き出すための指導言等も示していない。もし参考になるようであれば、さらに細かな検討を加えていただき、実践をしてもらいたいと思う。
1 実際に「形」の力を感じたことはなかっただろうか。
・部活動の大会に参加したとき、強いといわれているチームのユニホームに脅威を感じた。
・昨年度の優勝チームとの試合では、ユニホームにまず威圧された。
・イチローのバッターボックスでの構えはいい「形」だなあと思う。
・一流のスポーツマンの人たちの「形」はやはり強そうに見えるしかっこいい。
2 私たちは、どちらかというと「形」よりも実質を重視しがちであるが、実際はどうだろうか。
・中学生になったら制服という「形」がまずある。これで、なんだか小学生に卒業したという実感を得た。
・むしろ「形」の方が重視されている場合が多いのではないか。
・「形」から入って、力をつけていくようなものもある。
・例えば、剣道や茶道なども「形」から入る。
・そういうものは、「形」から入った方が、早く上達するのではないか。
・「形」はスポーツの基本のようなところがある。
3 「形」は、いつも力を発揮するのだろうか。
・優勝チームのユニホームに初めの方は威圧感を感じていたが、自分たちのチームが有利に試合を進めていくとき、そのユニホームは逆に弱く見えてきた。
・そこに「内実」がなかったら、いつかは見破られる。
・作品中の「若侍」は、次回の戦いで力を発揮できるかどうかわからない。
4 「形」と「内実」(実質)をどのように考えたらいいのだろうか。
・王監督の選手時代の「一本足打法」という「形」は、努力と工夫の結果見いだされたものである。「内実」と「形」を同時に追求したものではなかっただろうか。
・この作品の新兵衛の場合、「内実」が「形」を形成している。「内実」が「形」を支えていると思う。
・結局、「内実」が「形」を、「形」が「内実」を、相互的に形成していくといえるのではないか。そのように考えるべきではないか。新兵衛の場合もそうだったのではないか。
5 以上、4つの観点からいろいろ考えてきたのだが、この作品をどのように評価したらよいのだろう。
・「形」にとらわれる人間心理を見事に描いていると思う。
・「形」もまた軽視すべきではないと思う。
・大切なことは「形」と同時にそれにふさわしい実力、内実を身につけるべきだと思う。その意味では、新兵衛の考えが間違っているとはいえない。
・「形」への過信も「実力」への過信も危ないと思う。
・「若侍」の「形」へのこだわりは、「形」に対するみんなの共通の考えを見事に反映していると思う。ただしそれはあくまでもひとときのものであって、「若侍」も「形」ばかりでなく、内実・実力を身につける努力をするべきである。
以上のような取り組みから「形」という作品のもつ内容や主題を自分のものとしてとらえることができるのではなかろうか。これは生活レベルに引きつけた「吟味読み」と言えるのかもしれない。小説の作品のもつ力を生活へと開いてゆく読みである。
もちろんこれは一つの事例である。作品の内容や主題を意識しながら、気楽に楽しく展開してみたらどうだろうか。
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