土台となる国語学力をつける授業づくり
読み研通信86号(2007.1)
「読み研第20回夏の大会」は記念大会にふさわしく、過去最高の参加者数を記録した。『読み研』の理論と実践の広がりを確認できた大会になり、たいへん喜ばしい。
広がりはつくれた。しかし一方で授業づくりの悩みを多く聞くようになったのも事実である。一番多く耳にするのは「理論はわかるのだが、実践に移す場合に難を伴う」という悩みである。次に聞くのは「読みのちからがついているのか」という悩みである。前者については、クライマックス等の定義や線引きの観点が明確でないことが理由の一つにあげられる。これについては別の機会に論じたい。本稿では後者について述べる。
読み方指導に関しては、多くの研究団体が独自の指導方法を打ち出している。どの指導法にも優れた面がある。しかしどの指導法で実践するにしても、土台ともいえる国語学力を獲得させる指導がおろそかになっていては効果を生み出すことはできない。読み研といえども例外ではない。ないどころか、小学生の場合特にていねいな指導が求められる。なぜなら読み研の創立者である大西忠治は中学校の教師であり、読み研の理論は当然ながら中学生への実践をもとに構築されたものだからである。
ここでは土台ともいえる国語学力形成の指導について、話すこと・聞くこと、書くこと、読むことの三観点から述べる。
1 読むこと ~表層のよみをていねいに行う~
(1)音読を繰り返す
まずはすらすら音読させることである。
漢字が苦手な子には教材にふりがなをふってあげる。漢字への抵抗感がなくなれば、皆と同じように読めるようになる。「どうだい、今日は気持ちよく読めただろう?」と声をかけてあげるとよい。「うん!」という元気な声が返ってくればしめたものだ。大きくほめてあげればそれが自信となり、読解への意欲へとつながっていく。
拾い読みの子には、教師が一文を読み、同じように音読させる。「追い読み」「連れ読み」などといわれるこの手立てを繰り返す。そして少しでも読めるようになったら、やはり大きくほめる。
大切なのは「間違えずに読めた!」という自信と「この作品を読み込んでいこう」という意欲を、全指導過程の最初の段階である表層よみで確実に与えることである。
音読は、低学年の教室では毎時間繰り返し行われているだろうが、高学年になると、おろそかにされてしまう傾向がある。「大切なのはわかるのだが、音読に時間をとられると内容の読解時間がなくなってしまう」との理由を聞く。
しかしながら、次のような実態がある。クライマックスの決定をめぐり喧々諤々と議論している学級で教材文を音読させてみる。するとすらすら読めるのは先の討論でさかんに発言していた子だけ。一部の子どもたちは一文ごとに読み間違えるというたどたどしさ。
これでは構造よみも形象よみも、理解の早い子どもたちだけに受け入れられる指導方法になってしまう。
(2)語彙や概念を理解させる
次に語彙や概念理解の指導をていねいに行うことである。
語彙については、例えば「大造じいさんとがん」の「狩人」という言葉。「狩人」という仕事を「ハンター」と同様に捕らえていることが原因で、後々の読解に支障をきたしている場合がある。
概念については、例えば「戦争」。私たち大人は戦争と聞けば、一定のイメージを描くことができる。そこで子どもたちもそれなりにイメージできるだろうと推測してしまう。この「それなり」に大きなズレがある。形象よみの後半の段階で子どもたちは、「戦時下とは常時敵兵が家屋に攻め込んでくる状態」ととらえていることがわかり愕然としたことがある。
もちろん構造よみや形象よみの段階で、そのつど語彙の取立て指導を行うこともある。実際の授業とはそういうものだ。その際問われるのは「この言葉は誤解して解釈している子がいるだろうな」との予想をもって授業にのぞんでいるかどうかだ。右の例のように「愕然」とすることがないよう、子どもの発達段階を十分に踏まえた教材研究を進めたいものである。
語彙や概念理解の指導については、一問一答を繰り返すとよい。例えば「一つの花」(四年生の教材)であれば
「戦争中、お米の代わりにおいもや豆などが配られることを何といいますか」
「同じ言葉をよく言うことを○ぐせといいます。○に入る漢字は何ですか」
このとき、内容を確認する問いを発するのもよい。
「ゆみ子の家族は何人ですか」
「配給されるものにはどんなものがありますか。二つ答えなさい」
右の二問などは、簡単な問いであるため、「目の検査」などといわれ軽んじられる場合がある。
ところが子どもたちは「目の検査」発問をたいへん喜ぶ。確実に答えられるからであろう(もちろん「目の検査」発問ですら答えられない子もいる)。一つ問う→答える→マルをつけるというサイクルを繰り返す。はやくていねいに書けた子、きちんと漢字で書けた子などをほめながら進める。「イエイ!」「やった!」という子どもたちの歓声が教室に響くだろう。
このように表層のよみという最初の指導過程で、まさに表層をきちんと確認する。この指導が次の指導過程である構造よみや形象よみを充実したものにする。
さらによいのはこのような表層のよみ指導が、子どもたちに「できた、わかった」という実感を与えることである。これは自信と意欲というきわめて大事な「ちから(学力ととらえてもいいだろう)」をつけることだといえる。ただし、問う→答えるという流れを機械的に行わないよう留意する。先に述べたように、随所に評価を入れるのである。
2 書くこと ~ノート指導をていねいに行う~
読み研を学ぶ皆さんはどのようなノート指導をなさっているだろうか。
読み研の研究会では模擬授業が行われる。そこでノートをとらせる場面はほとんどない。模擬授業という設定上、それは難しいとは思う。が、実際には行わないまでも、指示くらいあるとよい。なぜなら模擬授業を実際の授業で生かそうとすると、ノートをとらせる場面がイメージできないという意見を聞くからである。
クライマックスをめぐって白熱した論議が展開される。形象よみで多様な深い読みが出される。それらを教師が引き受けてまとめて終える。模擬授業で行われるこのような進め方が、実際の授業でも行われているとすると、実践はやせ細ったものになってしまう。
私はノート指導にかなりの時間を費やしている。教室には「とがった鉛筆 まっすぐな姿勢」という標語がはってある。芯が隠れてしまいそうな鉛筆やまるまった背中を見つけると「健太君・・・。言ってごらん」と指示し「とがった鉛筆 まっすぐな姿勢」と言わせている。まずはこのような規律を繰り返し指導する。
ノート指導の実際は次のようである。
対象は三年生。教材は「おにたのぼうし」。クライマックスを探す授業である。
黒板に「クライマックス(お話が一番大きく変わるところ)はどこですか」と書いて赤で囲む。
「ノートに写しなさい。」
と指示しすぐに個別指導に回る。数分後
「書けた子は起立!」
と指示する。
「立っている子のなかで『ていねいに書いた』という自信のある子は挙手!・・・。はい。挙手しなかった子はすわって書き直しなさい。」
このように発問をノートに書かせ、きちんと書けたかどうかを確認する。
次にクライマックス箇所に線引きさせ、そこを発表させる。それを板書する。
「自分が選んだクライマックスの文章をノートに写しなさい。いつもの通り、一行開かせて書きなさい」
文章をそのまま写す、ということも全員ができることはめったにない。確認が必要だ。
「クライマックスの文を全員写せましたね。たいへんよくできました。では次に『理由』と書いて四角で囲みなさい。」
なお四角囲みは必ず定規を使わせる。
「できたかどうか、お隣同士で確かめなさい。」
常にこのような確認を行う。起立させる、隣同士で確認させる、教師のところへ持って来させる等々、様々な手立てを用いる。
「『理由』と書けましたね。では、自分はどうしてそこをクライマックスに選んだか、その理由を書きなさい。はい、指二本分開けて書き始めますよ。どうぞ。」
ノート指導は正直なところいらいらするくらいに時間がかかる。例を示したが、三十数名の三年生の学級では四十五分間でこの通りはできないだろう。
しかしたとえ遅々たる進行であっても焦らず確実に指導していくことが大切である。ノートをていねいにとらせることにより「書く」という地道な指導を積み重ねていく。これがおろそかであると、どんなに白熱した論議が行われても国語の学力はつかないだろう。
3 話すこと・聞くこと ~討論の指導をていねいに行う~
ここでは討論の指導について述べる。対象は五年生。教材は「大造じいさんとがん」である。
(1)やってみせる、追い込む、確認する
1の一行目の「今年も、残雪は、がんの群れをひきいて、ぬま地にやってきた」と、2の一行目の「そのよく年も、残雪は、大群をひきいてやってきた」を比べながらの形象よみである。
●やってみせる
「では読めることを発表してください。はい、直樹君」
「1では『群れ』って書いてあって、2では『大群』って書いてあって、だから『大群』っていうと、何か『群れ』よりも数が多いように思うから、だからがんの数が増えたように思います。」
「言い直しです。次のように言いなさい。『1では群れと書いてあり、2では大群と書いてあります。大群というと数が多いように思います。ですから昨年よりもがんの数が増えたとよめます』はい、言ってごらん。」
だらだらした発言には、このように一文を短くするように言う。「。」をいくつもつけなさい、などと指示するとよい。
●追い込む
「直樹君のよみに納得できる子は挙手しなさい。ほう、こんなにたくさんいますね。直樹君のよみが支持されましたね。ではこの『群れ』と『大群』から読めることをどうぞ。」
挙手は数名だけである。
「挙手は数名ですか・・・。では全員起立。何か思いついた子はすわりなさい。」
全員参加を創るため、子どもたちを追い込む場面をつくる。
●やってみせる
「『群れ』から『大群』にかわったので、残雪のすごさが広がったということがわかります。」
「『すごさが広がった』という意味がわかる子は挙手しなさい。はい。ではわからない子は挙手しなさい。では雄治君、『すごさが広がったとはどういう意味ですか?』と質問してごらんなさい」
質問の仕方、討議への参加の仕方をこのように実際にやらせてみる。
●確認する
「私は昨年よりも今年の方ががんの声がすごくうるさい、というイメージがします。」
「なるほど。聴覚でイメージしたのですね。納得できる子はノートに○、よみすぎではないかと思う子はノートに×と書きなさい。」
○、×をつけるというこの手立ては、野口芳宏先生から教えていただいた。常に学級全員に返していくのである。
●確認する(聞くことについて)
「『群れ』と『大群』のよみがたくさん出されましたね。では、聞きます。直樹君のよみを言える子はいますか?」
ここでは集中して聞いていたかどうかを確かめている。正解を言えたら、その子の聞く態度を大いにほめる。
(2)学習班をつかう
学習班を組織して発言を促すのもよい。各学習班の学習リーダーを集め、次の
ように言う。
「『じいさんは、おりのふたをいっぱいに開けてやった』という文の形象よみをノートに書きましたね。今から班で話し合います。三班の発言が少ないね。三班は発表する人を二人決めておきなさい。五班の絵里さん、とってもいいことを書いていますよ。五班のリーダーさん、ぜひ皆に紹介しなさい。一班の賢治君は『わかんない』といいそうだね。そういうときはどうするのだっけ?そう、班の中の誰の意見がいいと思うか聞いてみるのだね。一班のリーダーさん、賢治君が発言できたらすごいぞ。がんばれ!」
このように学習リーダーに見通しを持たせて班の話し合いを行わせる。
教師「では全体討議です。発言のある班?五班。」
生徒「残雪は『おり』に入れられていたけれど、おとりのがんは『にわとり小屋』に入れられていました。残雪はそれだけ強いがんだと思います。」
教師「はい、誰かつなげて!」
生徒「『強い』というのは、力があるみたいな感じなので言葉としてあてはまらないと思います。」
生徒「賛成です。強いのではなく、大造じいさんの残雪に対する尊敬の気持ちが読めます。」
教師「いいぞ、意見が三人つながった!まだつながるかな。このクラスで意見がつながった最高記録は九人だったね。さあ、抜かせるかな?」
教師は子どもの発言に対し復唱したり、助言を与えたりせずに、意見がつながることを評価していく。こうして言葉に対する鋭敏な姿勢を育てていく。
以上のべてきたような土台ともいえる国語学力をつける指導を地道に行うことが大切である。
プロフィール
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