発問を考える 「ごんぎつね」より ─仲間と学ぶことの喜びと発見のある授業を─
読み研通信72号(2003.7)
発問こそ命
まだ二十代の頃、校内研の講師として来られた、当時千葉大付属小の野口芳宏先生が「授業は発問が命、本質をえぐり出し、葛藤を生み出す発問に教師の力量の全てがかかっている」、そのようなことを話された。それは強くインプットされ、授業をやるたび頭をかすめる。
読み研や文芸研に属する仲間たちの授業を何回か拝見し、読みのセオリーについては多くを学んだが、発問という点においては、ずっと疑問を感じてきた。発問の鋭さのない授業は平板になりがちだし、ドラマ性は生まれない。したがって、子どもたちにとって、授業がおもしろいものとなりにくい。
昨年度、四年生を担任した。子どもたちの鋭い読みにたじたじとなることが何回かあった。「ごんぎつね」を通し、具体的な発問を提示し、授業を一部分再現してみることにする。
発問例 1
いたずらばかりしていたごんが、なぜ、どこで後悔しはじめたのか
この発問は、さみしさとは言え、村人にいたずらの限りを尽くし喜んでいたごんが、何故に後悔し、つぐないを始めようと思い立ったのかを考えさせるねらいである。この点が「ごんぎつね」の作品は実にみごとに書かれており、新美南吉のすごさを改めて感じとることが出来る。
子どもたちは次の6箇所をあげた。
A 「ああ、そう式だ」とごんは思いました。「兵十のうちのだれが死んだんだろう」
B と、村の方から、カーン、カーンと かねが鳴ってきました。
C 人々が通ったあとには、ひがん花が ふみ折られていました。
D 「ははん、死んだのは兵十のおっか あだ」
E そのばん、ごんは、あなの中で考えました。
F ちょっ、あんないたずらをしなけりゃよかった。
子どもたちの論争が始まった。主な発言は次のようなものである。
p E・Fの後悔は、いきなりはするは ずがない。もっと前である。
p 〈Dの意見〉死んだのが兵十のおっ かあと分かったから、そのときから後悔したと思う。
p つけたし!村のことをなんでも知っているごんは、兵十はおっかあと二人ぐらしだってことを分かっていて、おっかあが死んだら兵十は一人ぼっちになってしまったということがごんには分かって、それでさみしい気持ちが分かって後悔をしはじめたと思う。
p それなら、そう分かる少し前の「いつもは赤いさつまいもみたいな元気のいい顔が今日はしおれています」のところになるんじゃない。
p 「人々が通ったあとには、ひがん花がふみおられていました」がごんの気持ちをあらわしていると思う。
p そこに賛成。ひがん花がふみおられ たというところは、いたずらばかりして、調子にのっているごんの心がふみ折られたということだと思う。
p ごんの今までの気もちがふみおられたんだと思う。
p ?段落の「墓地には、ひがん花が赤いきれのように咲いていました」と書いてあるけど、そこは、なんかすごく明るい世界って感じ。それにくらべて、ひがん花がふみ折られたというのは、ごんの心がすごく暗くなっていることが分かる。
p たしかに、「ひがん花がふみ折られていました」は、ごんの暗い気もちをあらわしているけれど、私は、もっと前の「と、村の方からカーン、カーンとかねが鳴ってきました」のところだと思う。
「と」ということばの前と後とでは、雰囲気が全然違うように思う。「と」の前は、「いいお天気」とか、「おしろの屋根がわらが光っている」とか、「ひがん花が、赤いきれのようにさき続いている」とか、すごく明るい感じがするけど、「と」の後からは、なんか暗い感じになっていく。
p ごんは、村のことなら、何でも知っていると勉強したでしょ。だから、村の合図のかねの音もなんでも知ってい たと思う。だから、そう式の出るかねの音は、暗い感じでカーン、カーンと鳴ったと思う。
T えーっ!鐘の音っていろいろに変わるの?
p そのころは、電話もテレビもないから、ニュースは、鐘の音で知らせたと 思う。火事のときは、カンカンカンカンと激しくたたいた。
p ここのかねの音は、カーンカーンってなんかさびしい感じで、ごんの心も なんかさびしくなったと思う。だから、「と」からごんの心は変化したと思う。
p Aの人に言うんだけど、「兵十のうちのだれが死んだんだろう」というところは、まだごんが興味津々という感じで、悲しい気持ちにはなっていない。まだ、いつものごんだと思う。
こんなやりとりが長く続いた後、やはり、「と」の前と後では、場面の雰囲気が「明」から「暗」に、大きく変化していることに気づいていった。その場面の変化こそ、ごんの気持ちの変化であることを読みとっていったのである。
そして、A~Fまでの意見は、すべてきわめて重要で、A→B→C→D→E→Fとひとつながりになっており、しだいしだいに、ごんの後悔の念が強まってい
き、やがて、つぐないへと変化発展していったことを、子どもたちは学びとっていった。
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