第11回九州大会報告(2010.3.27 八女市)

読みの醍醐味を味わった一日

内藤賢司(読み研八女サークル代表)

 第11回九州読み研大会は、2010年3月27日(土)、福岡県八女市の八女教育会館にて行われた。
 今回のテーマは、前回に引き続き「確かな『読解力』を保障する授業づくり」とした。「確かな『読解力』」が今ほど求められている時はないのではないか、という思いからである。講師には、前回に引き続き、読み研事務局長の加藤郁夫さんにお願いした。

 学習1は「確かな『読解力』を保障する古典の授業づくり」。これを担当したのは、運営委員でもある八女市の中学校教諭・熊添由紀子さん。「竹取物語」を使い、模擬授業を通して、古典の読みの授業を提案した。
 読みの指標を提示しながら、「竹取物語」の冒頭部分を読んでいった。古典も現代文を読むようにして読んでいけばいいというのが提案の趣旨であった。(1)小説の導入部を読む方法(時、場、人物)で読む、(2)表現の違いに着目して読む、(3)違う言葉に置き換えて読む、そしてまた、(4)古典独自の文法(例えば「係り結び」など)に着目して読む、の指標を使いながら具体的に読んでいった。
 一例だけ紹介する。上の(3)。「筒の中光りたり」という言葉から、翁は「かぐや姫」のどういう状態に出会ったのかを問うていった。竹を切ったにちがいない、切った後が光っていたのではないか、いや竹の中から光とともに透けて見えたに違いないといったような考えが出された。しかし、確かな理由づけができない。そこで「筒の中光りたり」と「筒光りたり」とを比べて読んでみようと、熊添さんは読みの指標を提示した。そうするとまさに「筒」ではなく「筒の中」であることが見えてくるのである。「かぐや姫」は、「筒の中」から光りを発しつつ透き通るかたちで翁の前に登場していることがわかった。この発見の驚き。参加者は、「おお」「ああ」という驚きの声を発したのであった。
 学習2は「確かな『読解力』を保障する物語・小説の授業づくり」。加藤郁夫さんに担当していただいた。「カレーライス」を使い模擬授業を通しての提案であった。
 「構造読み」が次の「形象読み」にどう繋がっていくのか、そこのところが私たちの課題でもあった。そこで、加藤さんは、この作品の「構造」を丁寧に読み解いていく模擬授業を展開された。「発端」と「クライマックス」の論議は、どちらも意見が大きく分かれたものであった。
 ここでは、「クライマックス」論議を紹介しておく。参加者からは、3つの箇所が出された。それぞれの意見を出し合う中で、加藤さんがこだわったのが作品の書かれ方であった。この作品は何がどう展開されている作品なのかという指摘である。その検討から、この作品は「ごめんなさい」が言えなかった仲直りの物語ではないか、ということが明らかになっていった。ここから「クライマックス」は【「ごめんなさい。」は言えなかったけど、……いつもよりちょっと楽しく過ごせそうだ。】というところだと、参加者に納得をつくり出していったのである。
 そして、その「クライマックス」論議を通して、「形象読み」で読むべき箇所が見えてきたのである。「ごめんなさい」を言おうとしてそれが言えない「ひろし」の思いが変化していくところこそ、着目すべき箇所であるということである。そこを線引きしながら読んでいけばいいという訳である。
 意見の対立を上手にさばきながら、その対立を学びへの動機づけにし、より深い読みにつなげていく加藤さんの読みの深さ、そして指導言の確かさは、参加者に感動を与えたに違いない。

  参加者はのべ28名であった。50名以上を目指したのであったが、これが達成できなかったのは惜しまれる。これについては、総括をしっかりしたいと思う。しかし、学習そのものは、「読解力」指導についてインパクトのある学びを提起することができたし、これからの私たちの活動に繋がっていく意義深い大会であった。

 最後に、感想の一部を紹介する。

○特に古典の授業の形象読みは目から鱗でした。形象読みの目の付け所やポイントも学べてよかったです。また、午後の授業ではわかるようでできなかった構造読みの討論の仕方が具体的にわかりました。自分の力で学べる子どもたちを育てられるように今後も勉強をしていきたいと思います。
○読み研方式の古典に初めて参加して授業が見えてきました。文法とことばにこだわる、どこをこそしかけとして読むのかを取り入れていきたいと思います。クライマックスは絞るのが目的ではなくそこから見えてくる作品のしかけを読むということにもう一度返りたいと思います。
○改めて表現やことばに即して読むことの大切さを実感しました。また、そのような読み方をしてこそ、古人のものの見方考え方に触れることができるのだと思いました。加藤先生の授業では、「盛り上がらないクライマックス」もあるという発想は私の中にありませんでした。「決定することよりも論議の過程で見えてきたものを大切にすること」ということばが心に残りました。
○「読み方(学び方)を教える」というところがとても勉強になった。これまでは私が提示したものを子どもたちが学ぶというかたちでいつも受け身的であった。これではいけないといつも思っていたが……。次年度も複式学級を持つことになったが、今日の研修を生かして自分たちで読み進められる授業づくりに努めたい。
○高校では文法学習を中心に授業展開したり、古語を覚えさせたりと、そんな表面的な授業をつづけていました。今日の学習で、もっと丁寧に文を読むこと、生徒の感想や疑問を大切にすること、そこにヒントがあること、改めて気づくことができました。ありがとうございました。
○深い教材研究の上にたった面白さ、展開があるなあと感じました。一人でする解釈ではなく、複数で読んでいくことの必要性も思いました。どこをどう丁寧にとらえていくかも含めて。班の活用の仕方も参考になりました。学びの場(意見の交流と高まり)で子ども同士がつながっていくこともわかります。

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
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