将来のマネジメントに活かせる「読み」の力

 先日、あるビジネスコンサルタントの講演を聴く機会があり、面白い内容だったのでさっそく著書を読んでみた。岸良裕司・きしらまゆこ著『考える力をつける3つの道具』(ダイヤモンド社、2014年)である。

 本書は、職場・家庭・学校など幅広い場面で遭遇する問題を解決するために、「考える力」を訓練する方法について、「3つの道具」を切り口に解説したビジネス書である。「ウサギとカメ」「アリとキリギリス」を題材に取り上げ、非常にわかりやすく書かれている。

 本書の問題意識が「考える力をつける」ことにあるため、文章を論理的に読む方法を追究する読み研の理論と相通じる「匂い」が最初からしたのだが、読み進めていくうちに、「吟味よみ」とそっくりな表現に遭遇した。
 それは、「3つの道具」の一つである「ブランチ」という方法について述べた章でのことである。「ブランチ」とは、「原因と結果の関係を使って、論理的に考える力をつけるために編み出された」方法のことである。「吟味よみ」とそっくりな表現は、ものごとの因果関係を分析した後、それが妥当かどうかを検証する「チェック項目」として述べられていた。

「ちゃんと論理的に考えられているかを検証することはそれほど簡単なことではない。話があいまいだったり、本当にあるかどうかわからなかったり、話のつながりが支離滅裂だったり、他に原因があるかもしれないのに、原因を決めつけてそのまま話を進めていたり……。日ごろ、よくあることではないだろうか。
こうした、ちゃんと考えることを妨げる障害の数々を解消するための便利な方法が用意されている。それが、次のちゃんと考えるためのチェック項目だ。
 〈あいまいでわかりにくくないか〉
 〈本当かどうか〉
 〈因果関係が合っているか〉
 〈他に原因はないか〉」

 以上の記述は、例えば下記の「吟味よみ」の方法と同じ発想であると言える。

「選ばれた語彙・表現に曖昧性・恣意性はないか(語句や表現に曖昧さやわかりにくさはないか)」
「選択された『事実』に過剰・不足はないか(選ばれた事柄や例に不足はないか)」
「因果関係に問題はないか(原因と結果の間に不十分さはないか)」
「ア 関係がなく、たまたま同時に変化したものを無理に因果関係としていないか/イ 因果関係が逆である可能性はないか」
 ※読み研編『国語力をつける説明文・論説文の「読み」の授業ー読む力を確かに育てるあたらしい指導法入門ー』(明治図書、2016年)         

 岸良裕司氏は、企業マネジメントのコンサルタントとして高い知名度を誇る方である。
 子どもたちが将来社会人となって様々な組織のマネジメントに携わるにあたり、読み研の理論が有効性を持っていることを示唆する出来事であった。