「学び方」を学ぶ授業……授業開きで

高橋喜代治

―――日本語の音数はいくつか?

1 はじめに
 日本語の音数はいくつだと思いますか?私は、「授業とは何か」ということを実感してもらうために国語の中1の「授業開き」で日本語の音数を探る(いくつかを数える)授業を行ってきました。
 国語の授業開きは次のようなねらいを持つべきだと私は考えて実践してきました。
① 国語の授業とはこんなにおもしろいのだということを実感してもらう。
② 国語の授業ではこんなふうに協同して学ぶんだということを実感してもらう。
③ 国語の授業はことばの力をつけるから世界の見方が深まり広がるんだということを実感してもらう。
これらは、なぜ国語の勉強するのかという子どもの疑問に答えるとともに、子どもが国語の学習をしていくモチベーションを高めることにもなるはずです。教科書の冒頭によく掲載されている詩などがその授業開きの教材にあたるということになりますが、私は上記の①~③の達成のために自前の教材を用意してきたのです。

2 授業
おおよそ以下のように最初の授業(授業開き)は行います。

(1)授業のねらい
・日本語の語の音数はいくつあるか。班で追究し答えを出すことで日本語の音韻について学ぶととともに協同で学ぶことを体感する。

(2) 教材   「五十音図表」

  あいうえお
  かきくけこ
  さしすせそ
  たちつてと
  なにぬねの
  はひふへほ
  まみむめも
  やいゆえよ
  らりるれろ
  わいうえを


(3)学習形態
・班学習。1班は4人くらいがいい。
・まだ、学期の初めなので学習リーダーは決めなくともよい。ただ、「世話人」という名目で、話し合いの司会進行を課してもよい。
・ただ、グループだけを机の並び方でてきとうに決めて、勝手に話し合わせてみてもよい。その話し合いをじっくり観察すると、しぜんに誰かがリーダーとなって話しはじめる場合が多い。

(4)授業の流れ(展開)
≪)問い≫   日本語の音数はいくつありますか。日本語はいくつあるか、班で協力して答えをだしてください。時間は15分です。答えが出たら、黒板にその数を書き入れてください。始め。
≪班学習≫
 ※子どもたちは教師の問の意味が分からない場合が多い。でも、教師は何も教えずに黙っている。そうすると、「先生、どう数えるのかわかりません」などと質問してくる。そうしたら、「五十音図で50個だろう。でも、もよく見ると同じ音もあるよな。それを引いたらいくつになる?」「でもチュウガッコウのチュはこの表には書いてないよね。」こんふうにヒントを出しながら、拗音や濁音について考えさせ学級に広げる。
※子どもが数を出す方法について質問したことを必ず褒める。

≪答え合わせ・まとめ・ふりかえり≫
※すべての班が音数を黒板に書いたら答え合わせをする。私のこれまでの経験では数は90個~130個くらいの幅で出される。
※子どもたちは正解がいくつなのかを知りたがるから、清音、拗音、濁音、半濁音などと整理しながら、教師がリードして音数を出していく。
※音数はおよそ110音前後になるが、正しい数だけにこだわらせない。それよりも、「フィ」や「ヴ」の音を入れたか入れなかったか、鼻濁音はどうするかなどを考えさせ、日本語の音韻について認識を深める。また、子どもたちがときどき使う「あ“」と表記される音を日本語の音として認めていいかどうか、などについて意見交換させると討論が起きて白熱することもある。
※最後に、「班の答え」が、一人で出せたかどうかを確認する。そうすると必ず、数え方やヒントが班の話し合い・共同の学びの結果であることが分かってくる。学習というものが集団的であることをかなり楽しく実感できるのである。

3 おわりに
 私は、中学校1年、2年、3年の発達に合わせた国語の学級開きとそのための適切な教材開発が必要であると思っています。
「日本語の音数はいくつか」は今のところ中学1年生がよいと思っています。「なぜ、国語を勉強するのか」(中2)を考えるための学級開きでは野口英世のお母さんである野口シカさんの英世宛ての手紙文を使うことがあります。シカさんが農作業と家事の合間に独学でひらがなを覚えた理由と努力が、「ことばを学ぶ」ことの意味を解き明かしていると思うからです。中3の適切な教材はまだ見つかりません。詩「土」を使うこともありましたが。
 余談ですが、大学の学生たちに「授業と何か」を考えさせるために、「日本語の音数」について検討させたことがあります。学生たちはすでに学んで使いこなしているはずの日本語の音について四苦八苦しながら、でもけっこう楽しんで検討します。

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
「読み」の授業研究会は、子どもたちに深く豊かな国語の力を身につけさせるための方法を体系的に解明している国語科の研究会です。
2021年に設立35年を迎えました。