冬の大会「一つの花」の模擬授業をふりかえる
本山智子(町田市立忠生第三小学校)
第20回冬の大会「文学作品の教科内容を定着させる授業づくり」では、町田と松戸サークルが共同研究で「一つの花」の前授業計画に取り組んだ。
今回の「一つの花」の授業化の試みは、繰り返し出てくる「一つだけ」のことばに注目させ、ゆみ子が覚えた「一つだけちょうだい」→「ひもじさからせめて一つだけ食べ物をちょうだい。」という意味から、父親の言った「一つだけの花」→「この世に一つしかないかけがえのないもの=家族、命、平和、愛」に転化する形象の流れを子どもたちが読み取ることで、この物語のテーマに迫ることを一つの試みとした。
1.当日おこなった山場の部の模擬授業の内容をふりかえる。協議会で話題になった大きな点は次の二点だったと捉えた。
① 授業が分析的になりすぎて、ブツ切りになった感があった。分析から総合への課題が残った。
② 「一つだけの花とは、何でしょう。」の発問がわかりにくい。「お父さんの願いは?」と発問した方がわかりやすいのではないか。
以下、その事を中心に、授業内容をふりかえってみる。
(1) まず、私が強く感じたことは、当日行った授業の部分は、山場の部であり「一つの花」の最もテーマに迫るところである。」積み上げなしで、行き成り授業に持っていったところに無理があったと授業をやってみて思った。少なくとも展開部からの授業か、それが無理ならば、解説を先に入れるべきであった。授業者の方から「操作に一生懸命で大変だった。」との感想があったが、傾聴に値すべき言葉だと感じた。
(2) 山場の部の授業の流れを簡単にまとめてみる。
① まず、時の大きな変化を読む。
ところが、いよいよ汽車が入ってくるという時になって
一つの花は、展開部、山場の部、終結部の初めに、時の大きな変化が書かれている。
② 「一つだけ」が、三箇所使われていることを線引きさせることで、ゆみ子の「一つだけ」=おにぎりと、お父さんの「一つだけ」=一輪のコスモスの花を抽出する。
③ お父さんがゆみ子に渡した一輪のコスモスの花の形象を読む。ここでは、かわいい、とかピンク色とか、丈夫な花といった読みがでた。
④ ここで、コスモスの花が、展開部でゆみ子をあやすお父さんと重なることを授業を受ける側からでることをねらった。
⑤ いよいよクライマックス、
「ゆみ。さあ、一つだけあげよう。一つだけのお花大事にするんだよう…。」
の読みに入り、「『一つだけの花』とは、何でしょう?」と発問した。
⑥ その時のゆみ子の様子はどうだった?と発問し、ゆみ子がキャッキャと足をばたつかせて喜んだこと、コスモスの花の美しさを感じて、満足したのかもしれないことや、お父さんの温かさを感じて喜んだのかもしれないことなどを出させたかった。
⑦ 「お父さんは、どうした?」「その時のお父さんの気持ちは?」と発問し、お父さんがにっこりわらったこと、ゆみ子が喜んだのをみてうれしかったこと、を読む。
⑧ 「一つの花を見つめながら…。」から「一つの花」にこめられた思いをみつめているお父さんの心情を読む。
2.さて、本論に入る。「一つだけの花は、何でしょう?」と発問したとき、授業を受けた方達に、わかりにくさをもたらしたものは何であったか?
(1) 一つだけの花の象徴をどこまで、どのように読ませるのかが、授業をする側に、はっきり整理されていなかったことが一つの要因になったように思う。戦地に赴き、戦わされ、死んでしまうかもしれないお父さん、しかも別れ際の切迫した状況のお父さんに「一つだけのお花大事にするんだよう…」と泣き顔のゆみ子に向かって言わせた、作品の持つテーマ性は、きちんと整理した形で、掴んでおかなければいけないと改めて思った。
(2) 「一つだけの花」の持つ象徴性を二つに整理した。
① この物語の主人物である父親の、ゆみ子とお母さんへの願いや思い
○元気に育って欲しい
○平和にゆみ子とお母さんは生きて欲しい
○お父さんは、ゆみ子とお母さんがとても大切なんだよ 等々
② この物語の中核をなす文学的テーマにつながる花の持つ象徴性を読む
○美しさ美しい心、美しいものを感じ取る心、文化
○平和であること、平和な中でこそ美は生かされる
○豊かさや、愛→花の後には、実が実り、タネが生まれ、やがて、新しい生命が育まれていく。
(3) 授業展開の一例を示す
T「一つだけの花」とは何でしょう?
C「一つだけの花」ここでは一輪のコスモスの花を指しますが、「一つだけの花」に託した父親の願いを表しています。
Tどんな願い?
Cゆみ子とお母さんは、幸せであってほしいと願っているよ
Cお父さんはお前たち二人がとても大切なんだよ。
C美しい心を持ち続けておくれ
T前の文章にもどって、そこから証拠を挙げてください
「高い高い」の所と「ゆみ子を抱いて」のところが出てくる
T「一つだけの花」は、父親を通して、
作者が読者に語りたかったことでもあります。この話のテーマともいえることです。ゆみ子(お母さんも)への父親の願いの中に、さらに何がこめられているのでしょうか?
T(助言)なぜ花なの?
C花は美しいものです。「美しいものを大切にしなさい。」と言っている。
C「平和であることを大事にしなさい。」と言っている。「人は平和な中でこそ美しいものを美しいと感じる心が持てる。人が人として生きることができる。」と言っている。
以上、授業のシュミレーションを書いてみたが、これが、そのまま四年生に適用できるとは思わない。父親の願いだけを読み取ってもよいのではないか、そこからでも十分に、平和の大切さは、読み取れるとも思う。が、やはり、読みは、主題に迫り、やがては、作品論にまで、読み深めていくこともまためざすところである。分析からどう総合に結びつけていくかは、言及できなかったが、また、改めて考えてみたい。
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