第19回 高校部会報告(2)

竹田博雄

 今年の2月19日(土)・20日(日)の両日、新大阪丸ビル新館において第19回高校部会が開かれました。関西・東海地方を中心に20名の参加者をお迎えして有意義な勉強会となりました。今回はその様子をご報告致します。
◎19日(土)
☆教材分析と模擬授業
 最初の講座は、立命館守山中学・高等学校の有賀康文氏による、「徒然草〈花はさかりに〉(一三七段)ー説明文として読むー」と題した古典の研究発表です。『徒然草』の中でも多く教科書に採用されている有名なこの段落を、説明文として分析をしてみるという面白い試みでした。話題のまとまりごとに意味段落に分け、問題提起と筆者の主張はそれぞれどこにあるのかを見つけていこうという読解を、模擬授業形式で展開されました。随筆として知られているこの作品の中にも、一定の論理構造が存在していることが分かり、とても興味深い内容でした。また、文中の係り結びや反語表現に着目することで、筆者の主張の強弱や深浅が明らかにもなり、文法をいかに読解に生かすかのヒントが見えたようでした。
☆講演
 続いて、大谷大学文学部国文学科教授の池田敬子氏に、「『平家物語』と『太平記』のことばー〈ゆゆし〉の語義を例にー」と題して講演をしていただきました。
 「不吉な感じのする様子などを表す言葉」という意味で、多くの古語辞典においても、「忌まわしい、畏れ多い」と訳される「ゆゆし」という形容詞。しかし辞典には、一方で「すばらしい、並大抵でない」とも載っている。同じ言葉でありながら、どうしてこうも極端に意味の違いが生じるのか? このような疑問を端緒に、古語の意味の変遷について、具体的にお話いただきました。まず、覚一本の『平家物語』と、古活字本の『太平記』から「ゆゆし」の全用例を抽出され、使われている意味別に分類されました。これだけでも大変な労力だったと思われます。しかし、そうすることで、意味の変遷が非常に見えやすくなり、この言葉が、中世以降、ほぼ肯定的評価として使われるようになっていった経緯が鮮明となりました。私達が普段、授業でそう深く考慮せず、一方的な説明で済ませている「古語の意味」について、今一度、入念な教材研究の必要性を自覚した講演でありました。
 また、御講演の中で、「『太平記』では『ゆゆし』はむしろもう古語に近い」とおっしゃった一言も、古典作品の時系列の重要性を再確認することができました。参加の先生方も、一時、学生時代のゼミの頃に戻ったかのような感覚で、聞き入っておられました。
 池田先生は、御講演の前、有賀氏の模擬授業も参観され、授業後は、ご高評もいただきました。お忙しい中、お時間を割いて御参加下さった先生に感謝申し上げます。
☆教材分析 
 次に、大阪 高槻中学・高等学校の私、竹田博雄が、「〈語〉にこだわる古文の授業を目指してー『発心集』を使ってー」と題して、古文の教材研究発表を二日間に分けて行いました。
 「山に叡実阿闍梨といひて、貴き人あり」という一文を、例えば、「山に叡実阿闍梨といふ人ありけり」と比較してみる。「貴し」という言葉があるのとないのとではどう違うのか? この違いを考えることにどんな意味があり、何が読めるようになるのか? という具合に、古文の「語」に徹底的にこだわることで、作品理解を深められないかという提案をしました。こうして「語」にこだわることで、この「貴し」という「語」が、筆者の「叡実」に対する評価であるということが、まずはっきりと生徒らに意識化されます。ならばこの後、筆者は「叡実」の「貴さ」について述べていくに違いなく、そう解釈し読んでいくことで、筆者の表現意図や「叡実」の人物像などが読めてくるのではないか? そう思ったのです。
 大会後の感想では、教材準備の不十分さを指摘され大いに反省しました。今後は十分な教材研究を背景に、指導の共有化を図れるような提案をしていきたいと思います。「語」にごだわるという指導の方向性は、全く無意味ではないと今は信じます。
 音読・解説・文法・口語訳、という膠着した古文指導からの脱皮をこれからも目指したいと思っています。
◎20日(日)
☆教材分析と模擬授業
 この日は立命館宇治中学・高等学校の野村康代氏による研究発表でした。「クリティカルリーディングの試み~芥川龍之介の『魔術』を用いて~」と題して、模擬授業をしていただきました。金貨を元の灰に戻そうとする「私」と、戻させまいとその金貨を使って賭けカルタ(トランプ)に誘おうとする友人とのやりとりの場面を取り上げました。「君が僕たちとカルタをしないのは、その金貨を僕たちに取られたくないから」という友人の論理をどう論破するか、という課題に参加者は取り組みました。その過程で、論理の中でも最たるレトリックの一つ、「二分法」に気づかされたときは、参加者の方々はみな心地のよい興奮を感じられているように見えました。
 ホワイトボードに掲示物を駆使して展開される授業は見事というほかはなく、みな大いに感心し、刺激を受けました。
 野村先生の発表については、今回の通信にも、報告が掲載されてます。御覧下さい。また、今夏発行予定の研究紀要にも寄稿を予定されてますので、そちらも是非、ご一読下さい。
 今年も無事、研究会を開催、終了させることが出来ました。来年は20回大会となります。次回も、充実した内容を先生方にお届けできるよう準備して参ります。校種を問わず、是非、先生方の御参加を御願い致します。
○ごく一部ですが、参加者の方の感想を紹介します。
☆『徒然草』
・強調する表現に注目させて構成を考えさせる方法は、すぐれていると思いました。
・面白く拝聴しました。「徒然草」は擬古文というご指摘は大変参考になりました。
・随筆を説明文として読むという試み、大変面白かったです。
・文法事項から主題に切れ込んで行く方法が新鮮であった。
・古典作品の筆者は豊かな古典についての知識を背景に持っていて文章を記しており、どのよ うな形で、ど こまでそれらのことについて触れるのか(生徒に紹介するか、考察させるか) も大きい課題だと思いま  す。
・係り結び、反語という高校生には耳慣れた事項から筆者の意図や主張に迫るというアプロー チは生徒にも よく分かるのではないかと思い参考になりました。
・入試問題に対応できる力をつけるためと、どうしても、中身を味わい古典を楽しむより、読 み解くことに 重点を置き、文法・解釈中心の授業になっている。生徒に答えさせながら進め るのでなかなか進まない。 古文は現代評論のようにすっきりいかないが「かは」に注目した り、係り結びに注目しながら筆者の言い たことを考えてみるのは楽しかった。
☆講演
・「語」にこだわるという点で重要な示唆を頂きました。
・言葉の持つ価値が、時代や作品の違いで、鮮やかな対照を見せることを教えて頂きました。
・「国語学と国文学はひきはなして勉強するものではない」という言葉、まさにその通りであ ると思いまし た。
・久しぶりに大学の授業を思い出し、懐かしく、ワクワクしながら拝聴させて頂きました。一 つの言葉の変 遷をたどることで見えてくるものが、いろいろあることがわかり、これからの 教材研究においても、言葉 の歴史、語義の変遷を意識しようと思いました。
・「ゆゆし」の一語で作品理解の奥行きが広がることに面白味を感じました。
・「平家物語」のことばを、いわゆる中古の作品と比べて、浅くとらえてしまっていたことを 深く反省させ られました。文学作品のよみこみ、人物像の掘り下げにかかわって、一語一語 の大切さを改めて実感して います。
・ひとつのことばに注目するだけでこんなに様々な発見があるのかと大変興味深く聞かせて頂 きました。
☆『発心集』
・表現には必ず意図があると考えて、語にこだわって読むのはおもしろかった。
・他の教材でもぜひこの方法で授業を行ってみたいと思いました。また、生徒の考えを深める ためにはどん な発問が効果的なのか、考えさせられました。・教授者が授業の下準備として まず語句にこだわることが 大切だと改めて思いました。指導書の次元にとどまらない、教授 者の読みの深さが授業に反映されると実 感しました。
・筆者の言葉の選択に表れた意図を読むことで読みが深まるという指摘はとても示唆に富んで いて非常に面 白かったです。
・面白い提案であったが、少し突っ込み不足で研究不足気味。もっと万全の提案であることを 切望する。
☆『魔術』
・綿密な教材研究のもとに構成された授業で大変関心した。大いに参考になった。
・論理を教えるよい発表でした。自分でもやってみたいと思いました。
・ねらいや準備のおもしろさに目をうばわれる授業でした。見事な授業だと思います。
・クリティカルリーディングは、生徒の論理的思考力向上に最適な方法であると思いました。 生徒参加型の 形式が興味を引くものでした。
・文学教育ではなく、文学を用いて論理を鍛えようという試みに大変感動いたしました。私は 「羅生門」を 読んでいて、やはり老婆の発言にとても違和感を覚えており、今日の授業です っきりする感じがしまし  た。私もこのような授業をしたい! と思いました。ただ、やはり 生徒の意見をどのようにまとめるのか が本当に難しいなと、今日の授業、ビデオを見ていて 思いました。そこを改善して私もしていきたいで  す。・貼り物やロールプレイなど、授業と しても完成度は高かったと思います。参考にさせていただき、 自分もやってみたいと思いま す。

プロフィール

「読み」の授業研究会
「読み」の授業研究会(読み研)
「読み」の授業研究会は、子どもたちに深く豊かな国語の力を身につけさせるための方法を体系的に解明している国語科の研究会です。
2021年に設立35年を迎えました。