問うということ 1「大学生数学基本調査」から

【お断り】このコラムは、2012年6月10日にアップしたものですが、その後、大学生数学基本調査の担当者の方から「放物線を確定できた場合には正解」(「y軸との交点、x軸との交点を二つの合わせて三つの点を指摘する」加藤の答えも正解だったということ)との連絡をいただきました。私(加藤)の論旨は、それによって変わるものではありませんが、念のために再度アップさせていただきます。

 ──大学生の4人に一人は「平均がわからない」
 このニュースに驚かれた方も多いのではないだろうか。それとも、あなたは、そのくらいのこと、今更……と驚かれなかっただろうか。

 大学生の4人に1人は平均の意味が分からず、マークシート入試が中心で論理的思考力が低下している-。日本数学会が24日、発表した大学生数学基本調査の結果から数学に弱い大学生の実態が浮き彫りになった。同会は「論理を正確に解釈する能力や整理された形で記述する力が不足している」と分析している。

 上記のような報道が2012年2月にあった。以前、『分数ができない大学生』という本が話題になったことがある。それから見れば、分数がわからないのだから平均がわからなくても驚くには当たらない、となるのかもしれない。
 「大学生数学基本調査」とは、どのようなものか。日本数学会は、その狙いを次のように述べている。

日本数学会は、2011年4 月から7月にかけて全国の大学生約6000人を対象に、テスト形式の「大学生数学基本調査」を行いました。目的は、高等教育を受ける前提となる数学的素養と論理力を大学生がどの程度身につけているのか、その実態を把握し、大学教育の改善に活用するとともに、初等中等教育に対する提言の材料とすることでした。

 そして「基本調査に至る経緯」の中では、「①読解・表現など国語力②抽象的・論理的思考力③知識に対する意欲や忍耐力といった、ごく基本的な能力が学生の間で低下しつつあるという現実」があり、「論理的文章を理解する力、論理を組み立て表現する力が学生から失われつつあるのではないか、との危惧」があると述べている。
この問題意識は、数学だけものではない。私たち国語を専門とするものにも大いに関係している。
 さて、報道にあった平均の問題だが、次のようなものである。

ある中学校の三年生の生徒100 人の身長を測り、その平均を計算すると163.5cm になりました。この結果から確実に正しいと言えることには○を、そうでないものには×を、左側の空欄に記入してください。
(1) 身長が163.5 cm よりも高い生徒と低い生徒は、それぞれ50 人ずついる。
(2) 100 人の生徒全員の身長をたすと、163.5 cm × 100 = 16350 cm になる。
(3) 身長を10 cm ごとに「130 cm 以上で140 cm 未満の生徒」「140 cm 以上で150 cm
未満の生徒」……というように区分けすると、「160 cm 以上で170 cm 未満の生徒」
が最も多い。
       ◆正解は(1)×  (2)○  (3)×

私が面白いと思ったのは、平均の計算をさせるのではなく、文章で考えさせるところであった。
全体として、この調査については、興味深く見せてもらったのだが、その一方で気になることもあった。その一つは、「調査」の第二ステージの2の問題である。次のような問題である。

2次関数 y=-X2+6X-8のグラフは、どのような放物線でしょうか。重要な特徴を、文章で3つ答えてください。(「X2」は「Xの2乗」と理解して下さい。HP上の画面ではうまく表示できないことをお許しください)

 さて、あなたはどう答えるだろうか?
 現役の学生として数学に取り組んでいたのははるか昔。この問題を前にして、今の自分はどう答えるかと考えてみた。私は、y軸との交点、x軸との交点を二つの合わせて三つの点を指摘するのはどうだろうかと考えた。
 この答えを同僚の数学教師に示したところ、3つの点を示すことでこの放物線は確定できるが、放物線の「重要な特徴」を3 つという点から見ると不十分だと言われた。出題した日本数学会は、どのように考えているのだろう。その模範解答は以下のものである。

1.上に凸である。
2. 頂点の座標は(3、1) である。
3. y 軸と点(0、8) で交わる。

 答えを見てみれば、むかし、二次関数では頂点の座標を求めてグラフを書いたことを思い出し、たしかにこう答えればよいのだとなんとなく納得した。
 しかし、納得しつつも「重要な特徴」という表現は気になった。何が重要なのが、そして何は重要ではないのか、「重要」の捉え方一つで答え方は多様になるのではないか。つまり、この問いは「ゆれる発問」になっているのではないか。したがって、答えが出題者の意図とずれてくる可能性がある。現に、以下のような批判をネット上で見ることもできた。

そもそも何に価値があるかは、それを何に用いるかによって大きく異なることがありうる。例えば、放物線の特徴として、通過点を3つ答えることは、3つの異なる観点を挙げているとは言えないが、放物線を唯一つに決めるという意味で重要である。また補間法の観点でも基本的なアイデアであるといえるだろう。他方でそれは放物線の概形を把握するために適切であるとは限らない。通過する3点を与えても放物線の頂点を求めるには多少の計算を要する。何が知りたいかによって何を重要と考えるかは変化しうる。


http://d.hatena.ne.jp/enomoton2011/20120330/1333087280 より

(つづく)