構造よみの指導~「小さな手袋」(内海隆一郎) 三省堂・中学二年~
1.小説「小さな手袋」
小学校3年生のシホは雑木林の中で年老いたおばあさんと出会い、交流を深める。おばあさんは雑木林に隣接する病院に入院している患者であった。しかし1ヶ月後、シホは祖父の死をきっかけにおばあさんとの交流を一方的に断ってしまう。それから二年半後、その病院で偶然おばあさんのことを思い出したシホは、おばあさんが不自由な手で編んだ手袋を渡すために来なくなったシホを必死で探していたことを知る。おばあさんが今ではひどい認知症のために周りの人のことがわからなくなってしまっていることを知ったシホは、病院の帰りに父親である「わたし」に雑木林へ寄っていきたいと頼む。
物語は父親である「わたし」が語り手となって語られていく。
2.「小さな手袋」の構造
○冒頭 わたしの家から歩いて十五分ほどのところに、・・・
○発端 六年前の秋、・・・
○山場のはじまり およそ二年半後の春・・・
◎───クライマックス 「会ってもしかたありません。・・・
○結末 ・・・昔の大連にね。」
○終わり ・・・、自転車を雑木林の入り口の方へ向けた。
3.構造よみ
「発端」は比較的わかりやすい作品である。「六年前の秋、・・・」から、シホがおばあさんと出会い交流が始まること。それまでの導入部では雑木林のことが説明的に書かれているが、ここからは十月半ばのある日の午後のことが描写的に書かれ始めていること。以上のことから、発端が決定される。
「クライマックス」は次の3カ所が考えられる。
A:「二年以上も、とつぶやきながら、シホは袋を開けてみた。手袋だった。赤と緑の毛 糸で編んだミトンのかわいい手袋だった。」
おばあさんがどれだけシホを大切に想い、待っていたかをシホが初めて知るところである。シホが突然おばあさんに会いに行かなくなってからも、おばあさんはシホを待ち続けていた。寒くなっても雑木林に出かけ、シホのために不自由な手でミトンの手袋を編んでいた。「小さな手袋」は、シホがおばあさんのことを忘れていた2年半という歳月の長さを表している。
B:「シホは、小さな手袋を両手に堤、顔を強く押しつけた。かすかなおえつが漏れ出た。」
Aと同じく、シホがおばあさんに会いに行かなくなっても、おばあさんがシホを待ち続けていたことをシホが知り、「小さな手袋」に込められたおばあさんの愛情の深さを知ったこと、そして2年半も会いに行かなかったことを後悔して泣くところである。
C:『会ってもしかたありません。もうシホちゃんが誰なのか、わからないんですよ。 Cの直前の部分でシホは、『会いたい。会ってもいいですか。』と言って「すぐさま走りだそうという気配を見せ」る。そこではまだシホはおばあさんと2年半前と同じように心を通わせることができると信じている。しかし、修道女がシホに衝撃の事実を告げる。もう二度とおばあさんと心を通わせることも、手袋のお礼を言うことも、突然会いに行かなくなったことの謝罪を伝えることもできなくなり、自分が取り返しのつかないことをしてしまったことに気づくところである。
確かに、AとBもシホがおばあさんの状況や深い愛情を知るという変化は見られる。しかし、シホにとっておばあさんと二度と心を通わせられないことが大きな衝撃だと言える。 以上の理由から、Cをクライマックスと考える。
4.クライマックスを決定することの意味
(1)作品のテーマが見えてくる
この作品のテーマは「おばあさんのシホに対する深い愛情と、その気持ちを十分に理解できていなかったシホ。その二人のすれ違いがもたらした深い悲しみと後悔の物語。」である。
シホは初めて自分が「取り返しのつかないこと」をしてしまったことを知る。クライマックスの『会ってもしかたありません。』の言葉がそれを十分に表している。
(2)形象よみでの読むべき箇所が見えてくる
○導入部では、場の設定として「雑木林」のしかけを読む。
○展開部では、シホとおばあさんの出会いと交流が深まる様子やおばあさんとの交流を 断ったシホの様子をいくつかに絞り、表現に即して読み取っていく。
○山場の部では、2年半後おばあさんのことを知るシホの思いをいくつかに絞り、表現 に即して読み取っていく。
○終結部では、全体を読む。「雑木林へ寄っていきたい」というシホや、「うなずいて、 自転車を雑木林の入り口の方へ向け」るわたしの心情を、物語全体を振り返りながら 読み取っていく。
学習後作品の批評文を書かせると、初発の感想で疑問に思ったことが解決してすっきりしたり、形象よみをすることで深く読めたことに感動したり、作品のしかけに納得したりしているのがうかがわれる。物語・小説を読むおもしろさはここにある。
プロフィール
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八女市立見崎中学校
[趣味]テニス
[執筆記事]教育科学「国語教育」(明治図書)
№860(2021年8月)中学校 教科書「新教材」の教材分析・授業ガイド「クマゼミ増加の原因を探る」(光村図書2年)
№845(2020年5月)定番教材で学ぶ!場面別 説明文の指導技術・ 交流・話し合いの技術「クジラの飲み水」
№812(2017年8月)中学校 教材研究のポイントと言語活動アイデア 「モアイは語る」ー[全体を俯瞰する][詳しく見る][吟味する]
№751(2013年6月)文学作品指導における〝価値ある発問〟の具体例 比喩・反復などの表現技法をとらえさせる 他
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