『あめ玉』(新美南吉)の教材研究

物語「あめ玉」(光村図書 小学5年生の教材研究) 

1 構造よみ
  〇冒頭  春の暖かい日のこと、……
  
  〇発端  しばらくすると、一人の子どもが……
  
  〇山場のはじまり  いねむりをしていたはずのさむらいは、……

 ◎――クライマックス  さむらいはそれを舟のへりにのせ、刀でぱちんと二つにわりました。  
  〇結末  ……二人の子どもに分けてやりました。

  〇終わり  ……こっくりこっくりねむり始めました。

2 形象よみ
(1)導入部の形象よみ
 ■時
  ・時代……江戸時代(侍、あめ玉)
  ・季節……春(春の~)
  ・時間……お昼前後(ぽかぽかあたたかい、いねむり)
  ・春のあたたかい日……これによって侍がいねむりを始める仕掛けとなっている。

 ■場
  ・わたし舟、川の上……これによって逃げたり隠れたりできない密室状態となり、
             母親と子どもに危機的状況が迫る仕掛けとなっている。

 ■人物
  ・母親と二人の小さな子ども
  ・侍……強そう、怖そう、いばっていそう(黒いひげを生やして、舟のまん中にどっかりすわって)
      身なりを気にしない、役職がなさそう、年をとっていない(黒いひげを生やして)
      おっちょこちょい(「おうい、ちょっと待ってくれ。」)
   侍の外見はいばっていて怖そうに見えるが、わたし舟に乗り遅れそうになり「おうい、ちょっと待ってくれ。」の言葉からはユーモラスの面も感じ取ることができる。

(2)展開部の形象よみ
  ・あめ玉は、もう一つしかありませんでした。
    ……二人の子どもがあめ玉をほしがっているが、あめ玉は一つしかない。  

  ・「あたしにちょうだい。」「あたしにちょうだい。」二人の子どもは、両方からせがみました。
    ……「あたし」から小さな姉妹であることがわかる。年が小さいので、侍がねむっていてもお構いなしに声を出してせがむ。母親は侍が怒り出さないか心配でたまらない。

  ・「ちょうだいよう。、ちょうだいよう。」と、だだをこねました。
    ……母親の「いい子だから、待っておいで。」の言葉も効果なく、だんだん二人の子どもはわがままを言い出し収拾がつかなくなる。母親はどうしたらいいか分からず侍が怒り出さないかますます心配になる。

(3)山場の部の形象よみ
 ・お母さんはおどろきました。いねむりをじゃまされたので、このおさむらいはおこっているのにちがいない、と思いました。
   ……侍のいばったような態度と「侍」は怖いものだという既成概念をもっている母親は侍が「おこっているのにちがいない」と思い込む。                                

 ・さむらいがすらりと刀をぬいて、お母さんと子どもたちの前にやって来ました。
   ……刀をぬくということは、母親にとっては子どもたちが切られることを意味している。

 ・お母さんは真っ青になって、子どもたちをかばいました。
   ……絶体絶命の危機から子どもたちを守ろうとする。「真っ青」から侍に対する恐怖がわかる。

 ・「あめ玉を出せ。」と、さむらいは言いました。
   ……「出せ」という命令口調からは、侍への恐怖が続いている。

 ・さむらいはそれを舟のへりにのせ、刀でぱちんと二つにわりました。
   ……さむらいの行動を見て、母親は侍が刀をぬいた理由がわかる。外見とはちがう侍のやさしさに気づく。

 ・「そうれ。」と、二人の子どもに分けてやりました。
   ……「そうれ。」とやさしく声をかける侍を見て、一層侍のやさしさが分かり、母親の侍に対する見方が変容する。

(4)終結部の形象よみ
 ・また元の所に帰って、こっくりこっくりねむり始めました。
   ……侍はあえて何も言わずにねむるふりをすることで母親を怖がらせないようにしようという心遣いをする。また、母親からお礼の言葉をもらおうという気持ちもない。ここから侍がやさしい人、いい人であることが分かる。母親には侍の心遣いが理解できたはずである。

3 吟味よみ
 ・主題 
 母親が、あめ玉を割る侍の行為を見てそのやさしさに気づく話〈侍に対する見方が変容する話〉→外見からでは人を本当に理解することはできない。言動を見ることが大切である。

  
 ・題名「あめ玉」の読み
 あめ玉をなめるとほっとした気分になり、ゆったりする。あめ玉は一粒でも人を幸せな気持ち、やさしい気持ちにすることができるものである。侍の「ちょっとした行為」(あめ玉の象徴)が人を嬉しい気持ち、やさしい気持ちにすることを表現している。
 母親は外見から侍は怖いものだと決めつけていたが、侍の言動からそのやさしさに気づく。あめ玉も同じように外見からではその味は分からない。なめてみて初めてその味が分かるのである。

 ・終結部があることのよさ
 終結部があることによって、侍の人柄ややさしさなど外見とは違った内面が一層強調されている。また、落語のようにオチの働きもしている。

 ・物語のおもしろさの発見
 批評する場合、「おもしろさ」に焦点を当てて批評文を書く。観点は次のようである。
  ・物語の展開のおもしろさ
  ・物語の結末のおもしろさ
  ・視点の変化のおもしろさ
  ・心情表現、情景表現のおもしろさ
  ・伏線(仕掛け)のおもしろさ

4 仕掛けの読み
 ・春のあたたかい日……いねむりをしたくなるような日
 ・わたし舟、川の上……逃げたり隠れたりできない密室状態
 ・侍のいねむり……いねむりを邪魔しないように静かにしていなければならない状態
 ・二人の小さな子ども……静かにじっとすることができない年頃
 ・あめ玉が一つ……母親の手では割れないあめ玉が一つしかない
 ・あめ玉を二つにわる……刀を持っている侍にしかできない行為