1時間の授業をどう組み立てるか(2)

「森のスケーター やまね」(教育出版小3)を例に

(続き)

 次に、「天てき」と「冬みん」を取り立てて指導します。

●天てき=天敵。二分すると、「天の敵」。その動物にとっていちばんおそろしい特定の動物。例 ハブに対するマングース。「やまね」の天敵は、テン・イタチ・フクロウ・ヘビなど。自然界は、天敵がいることによって、バランスが保たれていることにもふれておきましょう。
●冬みん=二分すると、「冬に眠る」こと。冬期に、ある種の動物が運動・摂食をやめ、物質代謝のきわめて不活発な状態に入る現象。冬ごもり。本文に「えさのないきびしい冬の間、やまねにとって、ねむることは生きることなのです」とあります。「ねむる」ことは、「永遠の眠りにつく」などとも使われ、死を意味することがあります。しかし、やまねにとって「冬みん」はエネルギーを節約し、食べ物の少ない厳しい冬を乗り切る方策です。本文は、逆説的な表現によって生き抜くことを強調している点に注意を向けておきたいものです。

 このように国語辞典に書かれている意味だけでなく、本文の読みに即して語句の意味を広げていくことによって、読みの力もついていきます。

◆「はじめ・なか・おわり」に分けて、文章構成と内容の大筋を読み取ろう

 「やまねを知っていますか?」とたずねたら、名前を知っている人はいるかもしれません。けれども、どのような生活をしているか、くわしく知っている人は少ないでしょう。

 教材文の冒頭の文章です。導入する役割を持っています。
 はじめに、ズバリと「やまねを知っていますか?」と聞かれると、知らないけれど、「やまね」ってなんだろうと後を読んでみたい気持ちになります。こういう書き出しは興味をひきつける効果があります。作文を書くとき使ってみるといいと教えておきます。

発問1 では、書き出しの後に説明されているやまねの特徴は何でしょうか。

 こんなに小さくてねてばかり動物が、どうして、長い間生きぬいてこられたのでしょうか。

 一斉に声をそろえて読みます。一、二、ハイ。チョッとそろわなかったよ。
 もう一度。 ハイ。今度はとっても上手でした。(一斉音読)
「どうして、」のあとを、一斉に音読します。ハイ! 今度は、一発でそろいました。すごい。

発問2 文末が「~のでしょうか。」となっています。こういう書き方をなんといいましたか?

・ 質問。
・ 問題提示です。前に習いました。

 ここまでが、「はじめ」(前文)です。「はじめ」を見つけるには、問題提示に目をつけると簡単にわかります。その答えが次に書かれていくからです。その次に「なか」(本文)があって、最後にまとめなどが書かれている「おわり」(後文)があります。

 本文の構成は次のようになっています。
◇はじめ(前文) 小さくてねてばかりいる「やまね」は、どうして、長い間生き抜いてこられたのでしょうか。(問題提示)
◇なか(本文)  生きぬくことができた理由。(5点挙げられている)
◇おわり(後文) 最近、自然の森がへってきて、やまねはほろぶことが心配される動物に指定されたやまねのすむ森を守るためにも、やまねをもっとよく知ることが大切です。(やまねを守るための今後の課題)

発問2 では、書き出しの後に説明されているやまねの特徴は何でしょうか?
・小さい。
・毛のふさふさしたしっぽがある。
・木のうえで生活している。
・昼は休んで、夜動きまわる。
・「小さくてねてばかりいる」って、書いてあります。
・よその国では「やまね」を「ねてばかりいるねずみ」と呼ぶのに、日本ではどうしてそう呼ばないのかなぁ?

 スゴイことに気がついたね。辞典で調べると、「やまね」は「冬眠鼠」と書きます。冬の間、ずっと眠っているねずみという意味です。だから、日本でも同じように考えているんですね。でも、ふつうは「山鼠」と書きます。「やまね」の「やま」は漢字の「山」です。「ね」は「子(ネ)・丑(ウシ)・寅(トラ)…」、聞いたことあるかな? 「干支」と言います。年賀状やカレンダーにその年の干支の絵が印刷されていますね。そのうちの「子」は、ねずみのことです。こんなめずらしいねずみだから天然記念物になっているんですね。

発問3 次に、

 こんなに小さくてねてばかりいる動物が、どうして、長い間生きぬいてこられたのでしょうか。

という問題提示の答えは、いくつ書かれていまか。グループで見つけてください。

・五つです。

一つずつ、発表してください。

①木の上ですばやく動くことができる体つき
②木の上での生活にてきしたせい長の仕方
③様子をつたえ合う鳴き声
④自然の森にあるいろいろなものを食べること
⑤冬みんの仕組み

 よくできました。どうして、簡単に答えられたのかな?

・一つめの理由は、… 二つめの理由は、…と書いてあります。

 そうですね。こういう書き方をなんと言いますか。
・箇条書き(一斉に)

 箇条書きになっていると、とてもわかりやすいですね。

机間指導  

 グループ学習では必ず机間指導を行います。机間指導の大事な点は、次の3点です。

1.話し合いができるようにグループリーダーを指導しておくこと
2.グループの全員が発言して、話し合いに参加すること
3.子どもの発言を肯定的に評価すること

◆授業のおわりに取り上げたいこと(第8時―文章の吟味)
 「文章の吟味」とは、書かれている文章のよい点、すぐれている点はどこかがわかるようになることです。例えば、本時の授業では、書き出しのところがよいと評価しました。同時に、事実と違っているところはないか、話の筋道があっているか、問題点はないかと吟味することです。文章を吟味することは、高学年の課題ですが、批判的に物事をとらえ、真実を追究する読む力の大事な課題です。

発問1 ところで、ほんとに、この5つが理由かな?

・先生の言っていることがわかりません。

 もう一度問題提示をよく読んでみよう。「小さくてねてばかりいる動物が」どうしたの?

・「生きぬいてこられた」…

 理由だね。

・アレ! ③がおかしいよ。サルだってゾウだって、鳴き声で伝え合うよ。ゾウなんか大きいし、サルだって冬眠しないでしょ。
・先生、④も違うと思います。鳥だって森にあるいろいろなものを食べます。

発問2 では、ぴったりするのはどれかな?

・⑤は大丈夫です。冬眠のことが書いてあるから。
・①もOK。「やまねは小さくて軽いので」すばやく動くことができる。
・②もいいと思います。
…という意見だけれど、いいかな?
・違うと思います。だって、リスだって、鳥だって木の上での生活に適した成長をします。
・でも、やまねは生まれて二日めに、逆さまに枝につかまれるんだよ。小さいうちから…。

 ナルホド…。しっかり読みとれましたね。

発問3 でも、どうして、こんなに意見が食い違ってきたのかな?

・「小さくてねてばかりいる動物」に限ったからかな? 

説明 そう、ゾウなんか大きいものね。「長い間生きぬいてこられた」理由がごちゃまぜになってしまったんだね。

 長い間生き抜いてきた動物はゾウのようにほかにもいますからね。だから、「小さくてねてばかりいるのに、やまねは、どうして長い間生きぬいてこられたのでしょうか。」とすれば、つじつまが合う文章になりますね。

参考文献

*阿部 昇『「説明的文章教材」の徹底批判』(1996年)、『文章吟味力を鍛える』(2003年)いずれも明治図書出版
*小林義明『国語科の教科内容をデザインする』(国語授業の改革4・学文社2004年)語彙を吟味する力―「森のスケーター やまね」(湊 秋作・教育出版・小学校三年)を例に―