メディア・リテラシーと国語「較べて読む」

読み研通信74号(2004.1)

高橋喜代治(三芳中学校)

 一、「較べ読み」が面白い

 メディア・リテラシーの授業に興味を覚えた方には、先ず導入で情報の「較べ読み」をやってみることをお勧めしたい。「較べ読み」とは私が勝手に名づけたメディア・リテラシー学習の方法である。ある同じ出来事を扱った情報を較べて読み、その違いを見つけ、情報の送り手の意図を探り、情報というものが送り手によって構成されているということを学ぶのがねらいである。
 これまで私は何回か新聞記事を使って「較べ読み」学習をおこなったが、子どもたちはとても喜んで学んでくれた。この学習では、メディア・テキストは新聞に掲載されている記事が一番やりやすく実践的である。
 なぜ新聞メディアがいいか。次のような利点があるからだ。
(1)違ういくつかの新聞社が、ある一つの事件や出来事をほぼ同じ期日に扱うので比較がしやすい。
(2)新聞はテレビ等の映像とちがって文字、静止画なので保管しやすい(超多忙な現場の教員にとってこのことはとても大事で実践の重要な条件だ。)
(3)子ども達にとって新聞の記事は絶対的な権威(正しい)なので、それが新聞社によって内容が違っているというのは驚きであり、興味・関心を引く。
 また、情報の種類(メディア・テキスト)は、スポーツ記事、著名人の死亡記事等が教材化に適している。政治的な記事の場合、選挙記事を扱うとかなりおもしろい授業が作れる。
 スポーツ記事がやりやすいのは、スポーツには勝敗があって、動かしようのない勝ち負け(事実)が書かれていると思われているからである。また、日常的にあまり新聞を読む習慣のない子どもたちでもスポーツ記事に目を通す子どもはいるからである。
 著名人の死亡記事を読むと、故人への評価が新聞社によって違うことに気がつく。もちろん、死因、死亡年月日、喪主、葬祭会場などは同じである。同一人物(故人)なのに、新聞社(書き手)によって違っていることを発見することで、情報が構成されたものであることを学ぶことができるのである。
 国政選挙等のいわゆる選挙報道も「較べ読み」に適している。選挙結果の評価が、新聞各社によってかなりの切り口の違いがある。特に見出しの付け方には各社の政治的、イデオロギー的な姿勢が垣間見られておもしろい。それを比較検討することで情報というもののあり方や権力との関係まで検討できる。

 二、野球記事の「較べ読み」

 野球記事を使った「較べ読み」の実践を報告する。
比較した新聞記事(教材)の全文を掲載するとよいのだが、紙面の都合上、それができないことを断っておく。多少、説明がわかりにくいと思うが勘弁ねがいたい。
 試合は2003年6月7日の巨人対横浜戦。因みにこの試合の結果は4対1で巨人が勝利している。
 比較に使った新聞は読売新聞(A新聞とする)と朝日新聞(B新聞とする)の2紙。この2紙を教材としたわけは紙面の量がほぼ同じだからである。更に両紙とも写真の大きさも被写体(巨人の木佐貫投手)であり、較べるのに公平感があっていいと思ったからである。子どもを相手に教材化するとき、このことはとても大切である。
 A紙、B紙を印刷し、新聞社名を伏せて記事を配る。なぜ、新聞社名を伏せるか。それは、どちらが読売新聞社の記事かというメディアの送り手を推理することが学習目標にあるからである。
そして、次のような課題に取り組ませる。

課題1 A新聞とB新聞の巨人対横浜の試合の記事は、写真や紙面の量などがほぼ同じです。では、出場している選手がどのように書かれているか。調べてみよう。

 この課題で子どもたちは新聞に登場する選手を調べる。するとほぼ次のような結果に到達する。

A新聞の場合
〈巨人選手の扱い〉
(1)阿部    捕手としての活躍を特筆
(2)村田    捕手としてリードの良さを特筆
(3)上原
(4)清原    本塁打を打ったことを囲み記事で特筆
(5)川原
(6)木佐貫 記事の中心として書かれる。
・上原、川原は試合の流れの中で扱われている。
〈横浜選手の扱い〉
(1) ウッズ
(2) 金城
(3) 川村
以上3名を試合の流れを解説する中で扱っている。

B新聞の場合
〈巨人選手の扱い〉
(1)清原  (2)二岡  (3)川原
(4)阿部  (5)久保  (6)真田
(7)前田  (8)岡島  (9)木佐貫
・以上の選手を試合の流れを解説する中で扱っている。
〈横浜選手の扱い〉
(1) 鈴木
(2) 古木
・2人とも試合の流れの解説の中で扱われている。

 この結果から、どんなことが言えるだろうか。
 A紙が挙げている巨人側の選手は6名、横浜側の選手は3人である。B紙の場合は巨人側の選手を9名挙げ、横浜のそれは2人であることが分る。試合は確かに巨人が勝ったのだから当然かもしれないが両紙ともだいぶ巨人の方の選手の名前を掲載している。その点ではどちらも同じような報道姿勢だとも言える。
 ところが、2つの新聞が決定的に違っている点がある。それは、巨人の選手の扱い方である。A紙が清原の本塁打や久々にマスクをかぶった村田の好リードなどスター選手の活躍を中心にドラマチックに報道しているのに対して、B紙は試合全体の流れを淡々と解説している。その結果、B紙の場合、選手名が多く書かれることになったといえる。
 本当ならこういった書かれかたを直接に比較をすることがベターだが、まだ較べ読みに慣れていない段階なので、選手の扱われ方を中心に調べさせたのであることを断っておきたい。
 子どもたちは楽しみながら、この調べ作業をやり、A紙とB紙では選手の扱われ方が違うことを読み取れるはずだ。
 調べが終わり、その違いがわかったら、新聞社(情報の送り手)によって、同じ試合でも書き方がちがう、つまり構成されているということを確認する。
 そして次の学習課題にすすむ。

課題2 A、Bのどちらが読売新聞だろうか。ちなみに巨人のオーナーは読売新聞です。

 この答えはもちろん、A紙である。
 中学生ではほとんどの生徒が正解できる。特に野球好きの生徒の場合は、男子、女子を問わず、正解できる。(以前、学習女子大学でメディア・リテラシーの授業として、この教材を使って較べ読みをやったことがある。女子大生なので野球のことをほとんど知らないと思われる学生が多かったが、それでも不正解は数人であった。)
 新聞というものは公正で無謬で常に正しいと思っていた子どもたちにしてみると、野球の記事にせよ、自分のチームのことはそれなりに身びいきして書く、という現実を知ったことは意味が大きい。なぜなら、実は世論を左右し、現実を構成しているのはマスメディアなのだから。
 そして、メディア・リテラシー学習の大事な目的の一つは、市民的な立場で「メディアを社会的文脈でクリティカルに分析し、評価し、メディアにアクセスし多様な形態でコミュニケーションをつりだす力」(鈴木みどり・前掲書)をつけることなのだから。
 次に私のメディア・リテラシー学習指導計画(試案)を示しておく。

「クリティカルなメディア・リテラシーの学習指導計画」

1導入の段階
〈ねらい〉  ・メディアは送り手によって構成されている。
〈方法・教材〉(1)「較べ読み」 同じ出来事の記事をとりあげたいくつかの新聞を比べその違いを読む(野球などスポーツ記事、死亡記事、天気予報等)

2発展・深化の段階
〈ねらい〉 ・送り手の意図の吟味・批判
       (2)事実の吟味  
        書かれた事実と実際の事実との比較・検討
       (3)論理の吟味  
        社説、意見欄などの論理の妥当性の吟味
       (4)タイトルの吟味 
        タイトルそのものの役割、本文との照合
       (5)ニュースの順序(軽重、時間等も)
       (6)社会的文脈・ジェンダー等の吟味
       ・送り手の意図(写真、文字、グラフィックス、色)の吟味。
       (7)各メディア広告の吟味

プロフィール

「読み」の授業研究会
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