「平和を築く」(三省堂・中3)要旨よみの指導―説明的文章・三読法を生かす実践事例―
読み研通信84号(2006.7)
加納一志(東京・多摩中学校)
はじめに――三読法技術の有効活用
三読法(科学的読みの授業研究会がとなえる読解指導法)という有効な指導法を使い、さらに豊かな授業形態はないか、いつも考えている。今回は、説明的文章の実践において、どのように要約文づくりの指導を行ったか、また生徒の相互評価で学習活動活性化をどのように図ったかを紹介していく。
「平和を築く」の授業展開
※数字は授業時間
1 一表層のよみ
・ワークシートを使っての表層のよみ指導(漢字の読み書き・語句の辞書的意味と用法)と本文の音読。
2 構造よみ
・生徒には自分なりに作品を大きく三つに分けられれば合格と指導。その後、次のような構造を教師が提示。
I(本文1)はじめ~P20L15
II(本文2)P20L16~P21L1
III(後文)P21L2~おわり
※前文はない。P18・L1~2の第一文の疑問提示文は内容段落?のみに係っていく。
3 要約文づくりにチャレンジ
(1) 要約文のつくり方指導
次の三つの読解ポイントを生徒に示す。
1 くり返される主要な語(キーワード)※語を○で囲む。
2 筆者の考え(思い)と例の区別
※考えの部分をワクで囲む。
3 柱の文
※柱の文に――線を付ける。
(2) 要約のためのドリル
要約文に挑戦させる前に、言葉を巧みに使いこなす技術習得の練習ドリルをさせる。「学校・友人・笑う・運動会・楽しい・先生・走る」の七語を使い、できるだけ短い文を作らせる。このドリルは『フィンランド・メソッド入門』(北川達夫&フィンランド・メソッド普及会、経済界)から学んだものだが、柱の語(キーワード)柱の文を組み合わせ、加工しながら筆者の意図に一致させていく要約の技術習得にはふさわしい。
(3) 要約文に挑戦
構造よみで分けた三つのまとまり(???)のいずれかを要約させる。どのまとまりを担当するかは学級を三等分し、教師が指定する。要約文は30~50字指定。次の1~3の三段階で活動活性化をはかる。
1 生徒個人で要約文づくり
2 ニ~三人のグループで再検討
※各内容段落を担当するのは四グループとなる。
3 五~六人のグループでさらに磨きをかけた要約文に仕上げる。
※要約文の二条件を指導。
・要約文は「骨」のようなもの。例や体験などの読んでいておもしろい内容のいわば「肉」に当たるものは、削れるだけ削れば味気ない文になる。しかし、要約は味気なくてよい。
・柱の文、キーワード、考えと例、そして「骨」と「肉」などの要素を意識しながらも、本文に即して筆者の意図に合うものとする。
※各内容段落を担当するニグループで、どちらがより優れた要約文になるか、対抗戦【要旨よみボクシング】とすることを予告。
4 要旨よみボクシング
(1) グループ要約文の再検討 〈5分〉
(2) 掲示物作成(拡大原稿用紙〔50字模造紙〕・マジックペン)~掲示 〈10分〉
※各内容段落を担当したA・Bの二グルー
プの対抗戦を1~3ラウンドまで行う。
※要約文の二条件を再確認
(3) 各内容段落の音読(教員)
(4) Aグループ(赤コーナー)要約文音読
(5) Bグループ(青コーナー)要約文音読
※ニつの要約文の差異を意識させる。
(6) 判定
※他の内容段落担当生徒が判定役。A(赤コーナー)は「パー」、B(青コーナー)は「グー」を「判定!」の合図で挙げる。判定の理由も指摘できることが大切。
※判定5以上の差がついたらKO。
〈(3)~(5)が10分×3ラウンド=30分〉
(7) まとめ〈5分〉
※プリントにて教師作成要約文と要旨よみの技術を確認
★生徒要約文例(1)
?A カンボジアの難民キャンプで、コーンちゃんの思いやりに感銘を受けた。〈33字〉
VS
?B 極限状況下で乏しい食事を他人に分ける。そのような思いやりを失わずにいる難民少女の存在に感銘を受けた。〈50字〉
「難民キャンプ」「コーンちゃん」などの具象的用語か「極限状況下」「難民少女」などのより一般的用語かの議論が生徒間で起こる。二文を関連づけるみごとさも加わり、Bの判定勝ち。
★生徒要約文例(2)
?A 子供達の生きる権利を確保する第一歩は、戦争をなくし平和への目標を見定め取り組むことである。(45字)
VS
?B 戦争と平和とは何かを考えて見定め、その目標に取り組むことが、同じ地球の子供達が生きる権利を確保する第一歩である。(56字)
筆者の意図(本文に即すこと)を重視して検討するも、優劣つけがたく引き分け。
おわりに―指導法から技術開発へ
今回の実践で生徒に指導した技術をまとめると次のようになる。
・ 柱(骨)を見つけ出す読みの技術
・ 複数の柱(骨)や語を関連づけてつなぎ合わせる作文技術
・ 語の具象性・抽象性を検討し使い分けたり加工したりする言語技術
・ 筆者の意図との整合性をはかって読む技術、書く技術
我々が学んできた教科指導法、そして明確な教科内容。それらから導き出される技能・技術と授業形態。これからはそれらの開発が待たれていると思う。指導法のための指導法ではなく、生徒に力(技術)をつけていく実践をともに進めていきたい。
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