京都文学散歩(5) 「鴨川ホルモー」と「京都まで」

「鴨川ホルモー」は、万城目学の作品です。京都大学に入学した主人公の安倍が、「京大青龍会」という怪しげなサークルに勧誘され、「ホルモー」という謎の競技に参戦することになります。初めて作品名を見たとき、「ホルモン」の間違いかと思いました。「ホルモーとは、10人と10人で対戦を行う集団競技のようなものである。対戦に際しては、式神や鬼を用いる。」とあります。祇園祭の宵山に、四条烏丸にて、4つの団体(京都大学・京都産業大学・立命館大学・龍谷大学)が戦うのです。しかしその戦いは、サークルの部員にしか見えないのです。登場人物も「高村(篁?)・安倍(晴明?)・菅原(道真?)」と謎めいていて、万城目ワールド全開です。

 しかしこれは「陰陽五行説」という平安京の律令制における「陰陽道」をもとにしているのです。つまり「東が青龍の京都大学、西が白虎の立命館大学、北が玄武の京都産業大学、南が朱雀の龍谷大学」となっていて、四神がもとになっているのです(奈良明日香村のキトラ古墳の四神図と同じです)。

 万城目学はこの作品の他にも、「鹿男あをによし(奈良が舞台)」、「プリンセス トヨトミ(大阪が舞台)、「偉大なるしゅららぼん(滋賀が舞台)」と、実在の事物や日常の中に奇想天外な非日常性を持ち込むファンタジー小説を書いています。

 「京都まで」は、林真理子が直木賞を受賞した作品です。東京暮らしのOLの京都に寄せる心情をあざやかに描いています。思わず「そうだ、京都に行こう!」というJR東海のCMを思い出してしまいます。フリーで編集者をしている佐野久仁子は、取材で京都に住んでいるという草間高志と知り合います。「久仁子が京都案内を頼んだのは、ほんのはずみであり、気まぐれであった。」しかしその後、2週間ごとの京都行きが続くことになるのです。「自分の嫌なもの、汚いものは、すべて東京という部屋に置いてきた。そして鍵もしっかりと締めた。後は美しく身じたくをして京都へ向かえばいいのだ。」初秋の清水寺、鴨川畔の散歩、有名ホテルでの食事、小さなバー、冬の大原…舞台装置はバッチリです。

 しかし破局は、思いのほか早くやって来ます。「雪の詩仙堂で、『私、しばらく京都で暮らそうと思うの。』といったときの高志の戸惑い。時間がゆっくりと過ぎていく京都の嵯峨野にでも住もう、琴か琵琶でも習って――という久仁子の思いは、東京で心身をすり減らして生きてきた女のひとり合点で、高志の心に届かない。2週間後、京都駅のホームに高志の姿はなかった。」のです。そして東京へ戻る新幹線の中で久仁子は、高志に惹かれたのは、「恋をしたかったから」だと気づきます。最適な場所で、最適な男と。そして京都は、そのためのできすぎの舞台装置だったのだと。

 恋の舞台装置をめざして、今日もまた「そうだ、京都に行こう!」と新幹線に乗る男性や女性がきっといるのでしょうね。

〈参考文献〉
1 河村吉宏 他 「京都文学散歩」 京都新聞出版センター 2006年
2 真銅正宏「ふるさと文学さんぽ 京都」 大和書房 2012年