京都文学散歩(4) 「異邦人(いりびと)」と「激流」

京都文学散歩(4) 「異邦人(いりびと)」と「激流」

 「異邦人(いりびと)」は、原田マハの作品です。原田マハは、キュレーターであり作家でもあります。キュレーターとは、博物館や美術館において収集資料の研究に携わり、専門知識をもって業務にあたる人のことで、日本では学芸員に相当します。海外では、キュレーター職は学芸員の中でも企画を担当する権限を有する人を指します。原田マハの作品は、キュレーターとしての経歴とも相まって、美術(特に印象派の作品)を題材とした作品が多く、「アート作品」とよばれ、専門的で緻密に描写されている作品が多いのが特徴です。

 たかむら画廊の青年専務、篁一輝と結婚した有吉美術館の副館長・菜穂は、出産を控えて東京を離れ、京都に長期逗留していた。妊婦としての生活に鬱々する菜穂だったが、気分転換に出かけた老舗の画廊で、一枚の絵に心を奪われる。画廊の奥で、強い磁力を放つその絵を描いたのは、まだ無名の若き女性画家。深く、冷たい瞳を持つ彼女は、声を失っていた。京都の移ろう四季を背景に描かれており、若き画家の才能をめぐる人々の業をめぐり、驚きの結末が待っている。

 「激流」は、柴田よしきの作品です。京都への修学旅行で失踪した15歳の少女から、20年後5人の同級生たちに謎のメールが届きます。そして再会した同級生たちに、不可解な事件が次々と襲いかかります。35歳という人生の転換点にたち、仕事でもプライベートでもそれぞれの岐路に立たされている5人は、転げ落ちる石のように人生の激流にのみ込まれていきます。2013年にNHKテレビでドラマ化されたので、見られた方も多いかも知れません。冬葉の吹くフルートの「アルルの女のメヌエット」も印象的でした。行方不明のままになっている同級生冬葉からのメール。冬葉はまだ生きているのか、それとも…。

 作品では、京都市バスの5番に一緒に乗った6人グループの中の冬葉が失踪します。どこで降りたのか、どこで失踪したのかわからないという混乱の中で修学旅行が終わり、やがて冬葉のことは忘れられていきます。5号系統は、京都駅を出発し、京都の東地区の南禅寺、永観堂、銀閣寺、修学院離宮等を通るバスです。市内の中心を走るバスに比べると、5号系統のバスは本数も少なく、比較的空いていてのんびりしています。私も5番の京都市バスに乗ってみました。冬葉が降りたのは、銀閣寺のバス停だろうか。それとも他のバス停なのだろうか。バスを降りた後どこに行ったんだろう…。そんなことを考えていると、実際には何も起こらないのに何だかドキドキしてくるから不思議です。

〈参考文献〉
1 原田マハ「異邦人」(PHP研究所)
2 柴田よしき「激流 上・下」(徳間書店)