説明的文章「動物の体」(東京書籍・小学五年)の教材研究

1.構造よみ

前文   1段落
本文 1 2~6段落 (動物の体の形と気候との関係)
   2 7~9段落 (動物の体格と気候の関係)
   3 10~13段落 (動物の毛皮の役目)
   4 14~21段落 (ラクダの体の仕組み)
後文   22段落

 1段落に「そのような所(暑くてかわいた砂ばく地帯・雪と氷にとざされてしまう所)にも、いろいろな動物たちが、それぞれの環境に適応しながら生きている」が問題提示。一段落だけを読んでもここが問題提示ということははっきりしない。2段落が「動物の体の形と気候との間には……」とはじまり、「いろいろな動物たちが、それぞれの環境に適応しながら生きている」ことの具体が示されていく。そのことで一段落が問題提示とわかるのである。《前文の決定》
 この場合、問題提示というのはやや言い過ぎかもしれない。話題提示に近いといえる。
 2段落以降、いろいろな動物が「環境に適応しながら生きている」様子が紹介される。そして22段落で「動物たちの体は、それぞれに、すんでいる場所の気候や風土に合うようにできている」とまとめられる。21段落まではラクダのことを述べており、ここまでが本文。よって22段落が後文となる。《後文の決定》
 本文は、話題のまとまりから上記のように4つに分けることができる。

2.論理よみ

【本文1】
 2段落①文で「動物の体の形と気候との間には、おもしろい関係がある」といい、それを②文で「いっぱんに、寒い地方にすんでいるもののほうが、あたたかい地方にすんでいるものに比べて、体がまるっこく、耳とか手足とかの体の出っ張りの部分が少ないというけい向がみとめられる」と述べる。これは単純に包括関係でみるならば①文が②文を含むことになる。しかし「おもしろい関係」といったところで、その具体がわからないのであり、②文になってそのくわしい中身がわかる。ということから、ここの内容は②文でまとめるのが適切と考える。《柱の問題》
 3段落は2段落で述べたことの理由を述べている。4・5段落はホッキョクギツネとフェネックという具体的な動物の例をあげて説明している(例1)。6段落は、ゾウとキリンの例をあげて説明している(例2)。
 以上から2段落②文を本文1の〈柱〉と考える。

【本文2】
 7段落で「寒い地方にすむ動物は、同じ種類の中では、あたたかい地方にすむものに比べて体格が大きいといわれている」と全体をまとめて述べている。その例を8段落でニホンシカをあげて述べている。9段落はその理由が述べられている。
 以上から7段落が本文2の〈柱〉と考える。

【本文3】
 10段落で「寒冷地にすむ動物は、防寒用のすぐれた毛皮を身に着けている」と述べ、11段落でニホンカモシカの例をあげている。12段落では、毛皮が「防寒用のすぐれた」ものになっている理由が述べられている。
 13段落では「すぐれた毛皮を身に着けているのは、寒い地方にすむ動物だけではない」と述べ、フェネックの例があげられている。フェネックの毛皮は「強い太陽熱から身を守り、かんそうした空気によって、水分が体の表面からうばわれるのを防ぐ役目を果たしている」。
 ここでは寒い地方、暑い地方の双方において「すぐれた毛皮」を身に着けている例が説明されている。そう考えると本文3の〈柱〉は10段落と13段落の二つということになる。「すぐれた毛皮」という共通点を持ちながら、その内実において寒い途方と暑い地方は異なっているのである。一方は「防寒用」、一方は「強い太陽熱から身を守り……水分が体の表面からうばわれるのを防ぐ役目」である。このようにみてくると12段落は、直接には11段落の理由を説明した段落といえるが、その後の13段落の理由を説明した段落と考えることも可能である。つまり11・13段落双方の理由として12段落があると考えられるのである。

【本文4】
 本文3までは「外から見える形」にそって述べられてきたが、14段落では「体の中の仕組みも、それがすんでいる環境に適応している」と目には見えない所について述べていこうとしている。15段落以降はヒトコブラクダについて具体的に説明しており、14段落がまとめていることがわかる。したがって14段落が〈柱〉の段落となる。
 15段落で「環境に適応したものの例」としてラクダが示され、16段落で「どうして、ヒトコブラクダは、水分のない焼けつくような砂ばくの旅を続けることができるのだろうか」と小さな問題提示をしている。以下17~21段落は、その問題提示に答える形でラクダの「体の中の仕組み」を説明している。

●本文1~本文4までの相互の関係
 本文1~3は「外から見える形」について述べているのに対して、本文4は「体の中の仕組み」という目に見えない部分について述べている。その点からみるならば、本文1~3と本文4の大きく二つに本文を分けることも可能である。
 本文1~3は、1と2が気候と外形の関係を寒い地方と暑い(あたたかい)地方で対比的に述べているのに対して、本文3は「毛皮の役目」としてはむしろ共通点といえるような述べ方をしている。
 また本文1は寒い地方とあたたかい地方の対比、本文2はあたたかい地方から寒い地方への変化、本文3は寒い地方と暑い地方に共通することと、外形に関わる話題でもその述べ方には違いが見られる。
「いろいろな動物たちが、それぞれの環境に適応しながら生きている」という点においては、本文1~4すべてにおいて共通している。その意味では、首尾一貫した述べ方といえる。また若干の順序の違いはあるが、ある環境の中での動物の特徴が示され、そのようになっている理由が述べられる。そして動物名をあげて具体的な例が述べられている。この点については本文1から4の述べ方は共通している。

3.吟味よみ

*4~5段落
・ホッキョクギツネやフェネックの例は、この場合適切な例となり得ているのか?特殊な例ではないのか?(例示の適切性を疑ってみる → 調べ学習へと発展)
・なぜホッキョクギツネに対して、イヌ科のフェネックなのか?
 キツネはイヌ科の動物であり、フェネックは別名フェネックギツネともいい、キツネの仲間である。つまり、ここでは同じキツネを例にして寒いところと暑いところでの体形比較をしているのである。しかし、「イヌ科動物のフェネック」というとキツネの仲間とはわかりにくい。

★アレンの法則
恒温動物では一般に、同じ種の個体あるいは近縁の異種の間には寒冷な地域に生活するものほど耳・吻・首・肢・翼・尾などの突出部が短くなる傾向が見られること。体表面を小さくする事で体熱の発散を防ぐのに役立ち、動物の体温保持に対する適応であると説明される.

 このアレンの法則を見る限り、3段落の「体形が球に近い」という表現はまぎらわしく誤解を招きやすい。むしろない方がよいといえる。後で例にあげるゾウのことがあって、この表現が付け加わったのではないか。
*6段落
 ゾウもキリンも暑い地方(熱帯)にすむ動物である。それを本文1の(補足的ではあっても)例としてあげるのは、適切ではない。また、ゾウは確かに体形は丸いといえるが鼻が長く、耳が大きいという点からみれば「耳とか手足とかの体の出っ張りの部分が少ない」という部分には適合していない。その意味では例としてはふさわしくないといえるのではないか。
*8段落
 ニホンシカの例は適切な例といえるか。(例示の適切性を疑ってみる → 調べ学習へと発展)
 シカ以外にこのような例は何があるのか?( → 調べ学習へと発展)
*9段落
 ①「体温を一定に保っていくための熱の生産は、きん肉の活動によって行われる」、②「体が大きく、きん肉が発達していればいるほど、熱の生産が多くなる」。①②文の前提は理解できるが、ここから③の結論「体が大きいのは、熱量の必要な寒地の生活に適しているわけである」はそのままでは引き出せないはずである。③がいえるとすれば、寒地の動物はみな体が大きいことになる。体の小さい動物は寒地には適さないことになる。しかし現実は必ずしもそうではない。つまり、ここには熱の生産と消費の効率の問題があるはずである。9段落の説明はその点を抜かしている。

★ベルグマンの法則
哺乳動物の分布と体の大きさの関係を表した法則。
「近縁のものが南北に渡って分布するときは、寒い地域に生活するもののほうが、体が大きくなる。」というもの。
例えば、クマでは、北海道のヒグマと本州のツキノワグマではヒグマの方が体が大きい。
    ホッキョクグマ 体長1.5m 体重400~500kg
    ヒグマ 体長 2m 体重300kg
    ツキノワグマ 1.5m 体重60~150kg
理由は、体重の大きなものは小さいものに比べて体表面積の割合が小さく、それだけ保温効果が大きいから。
 もっとわかりやすく言うと、大きな鍋と小さな鍋ではどっちがさめにくいか、考えてみるとよくわかりますね。

*10段落
 「動物は……毛皮を身に着けている」という言い方は妥当か?「毛皮」というとき、それは通常衣類や敷物など動物の体からはがされたものとして私たちは考えるのではないか。「身に着ける」の「着ける」は「衣服などを着る。また、装身具などを身に帯びる。着用する。」(明鏡国語辞典)の意味である。動物にとって「毛皮」は体の一部であり、それを「身に着けている」という言い方は不自然な言い方といえる。
 また、衣類としての毛皮は人間にとっては防寒用のものである。したがって「防寒用の毛皮」というだけでは当たり前の言い方となってしまう。「すぐれた」という価値評価を表すことばがここに挿入されたのは、防寒機能において特に優秀なという意味合いを加えようとしたのではないか。

*13段落
 フェネックがここでも例にあげられているが、なぜフェネックなのか、フェネック以外にも「すぐれた毛皮」をもっているものはいるのか?
 ここでも10段落と同様「すぐれた毛皮を身に着けている」という表現が用いられている。10段落の寒い地方に対して、ここでは暑い地方のことが述べられており、対比的に述べる中では同様の表現を用いざるを得なかったとはいえ、前述したように不自然な言い方となっている。

* 本文3
◎阿部昇が「『毛皮』と言いつつ、『毛』の例示と理由づけが大部分という述べ方には問題がある」(「文章吟味力を鍛える」)と指摘しているように、本文3で述べられているのは動物の毛の果たす役割であるが、「毛皮」という表現も用いられている。そのことで論旨が、揺れているのである。13段落の最後において「フェネックの毛皮は……水分が体の表面からうばわれるのを防ぐ役目を果たしている」と述べる。毛皮は「毛」のついた「皮」であり、「皮」のところが「体の表面」にあたるといえる。「毛皮」の下に「体の表面」があるのではない。つまり、意味の上では誤っているといえる。正しくは「フェネックの(体の)毛は……水分が体の表面からうばわれるのを防ぐ役目を果たしている」というべきであろう。

◎10段落では「防寒用のすぐれた毛皮」という。これはそのままに読めば防寒にすぐれているという意味と思われる。しかし、13段落では「すぐれた毛皮を身に着けているのは、寒い地方にすむ動物だけではない」と述べる。フェネックなども「すぐれた毛皮」をもっているというのである。フェネックの「毛皮」は「太陽熱から身を守り、かんそうした空気によって、水分が体の表面からうばわれるのを防ぐ役目を果たしている」というのである。つまり本文3における「すぐれた毛皮」の「すぐれた」は一つの働きに限定していない。10段落と13段落では「すぐれた」の意味が異なっている。一方は防寒であり、もう一方は暑さから身を守るのである。
 ところで、「すぐれた毛皮」というからには「すぐれていない毛皮」というのがあるのだろうか。毛皮の優劣という意味で考えるのは、この文章の問題提示「いろいろな動物たちが、それぞれの環境に適応しながら生きている」から考えてズレてしまう。寒いところでは寒さに適応する毛皮を持ち、暑いところでは暑さに適応するための「毛皮」があるという意味に理解すべきであろう。ニホンカモシカの冬毛は寒さから体を守ることにおいてすぐれており、フェネックの「毛皮」は「太陽熱から身を守り、かんそうした空気によって、水分が体の表面からうばわれるのを防ぐ」ことにおいてすぐれているのである。その動物の住んでいる環境との関わりで、「毛皮」はそれぞれの役目を果たしているのである。
 その意味では「すぐれた」という形容をするのは、この文章の主旨からいってふさわしいことばの使い方ではない。本文の他の箇所と比べてみると、本文1・2・4では「すぐれた」もしくはそれに類する形容をまったくしていない。「それぞれの環境に適応しながら生きている」という観点からみるとき、すぐれているとかいないということではなく、その環境で生きていくためにどのような形態や機能がよりよいのかということこそが大きな問題といえる。本文3は「すぐれた毛皮」という表現を用いることで、動物をやや擬人化し、結果的に毛が果たしている役目をきちんと伝えることがいい加減になってしまったといえる。
「毛皮」という言葉を用いずに、動物の毛がそれぞれの環境との関わりでどのような役割を果たしているかを説明した方が、文章はわかりやすくなった。寒い地方では、毛が防寒の役割を果たし、暑い地方では暑さから身を守る役割を果たしている。そのどちらにも「毛によって、外気と皮ふの間に空気の層が作られ、外気の温度のえいきょうを直接受けないようになっている」という毛の働きがある。動物の体毛は、その動物の生活する環境との関わりで、果たしている役割が異なっているが、動物の体を保護するという役割においては共通しているのである。
 

★ホッキョクギツネの冬毛
白い冬毛は内部に空気が詰まった中空の形をしています。空気の断熱効果によって、キツネの体からは熱が逃げないようになっています。‐40℃でも平気。寒さに震えるのは‐70℃以下からです。

*17段落
「ラクダは胃に水をためるふくろを持っている」「背中のこぶにしぼうをたくわえていて、そこから栄養と水分がとれる」ということは誤りなのか?「そんなかん単なものではない」という言い方は、それを否定しているのか、部分的にも肯定しているのかわかりにくい。
*22段落
 前文では「それぞれの環境に適応しながら生きている」と述べ、後文では「すんでいる場所の気候や風土に合う」と述べる。「環境」と「気候・風土」との間にはズレはないか?

*哺乳類に限って述べていること
 ここで述べられるのは、ホッキョクギツネ・フェネック・ゾウ・キリン・ニホンシカ・ニホンカモシカ・(フェネック)・ラクダとすべて哺乳類である。したがって「寒い所で体温を一定に保っていく」(3段落)、「体温が上がりすぎないようにする」(5段落)、「体温を一定に保っていく」(9段落)、「外気の温度のえいきょうを直接に受けない」(12段落)、「強い太陽熱から身を守り」(13段落)、「体温の上しょうにたえられる」(18段落)と体温を一定に保つ(恒温動物)が述べられている。
 ただ、ここでは体温を一定に保つことが何故必要なのかは述べられない。もちろんそれが述べられないことで、この文章がだめだというのではない。ただ、この文章の吟味では教師は教材研究において恒温動物とはどのようなものかを、きちんと理解しておく必要がある。

★恒温動物
恒温動物と言われる動物は、体内で熱を作り出し、または体内の熱を外に逃がす機能を持つ。哺乳類・鳥類のほとんどはこれに属する。恐竜は爬虫類でありながら恒温動物だったと思われているが、体温調節機能が備わっていたのか、あるいは身体の巨大さによる慣性恒温に過ぎなかったのかという点で議論が分かれている。恒温動物の体温調節機能は恒常性の一例である。
一般に、恒温動物の体温は37-40℃と、気温に比べても高い温度で維持されている。この温度は、ほぼ酵素活性の最適温度であり、このような動物では、常に安定した体温の元、高い水準の活動能力を維持できることになる。ただし、そのためには、体表から逃げる熱を補うための熱を体内で作り続けなければならず、体温維持のためだけに多くのエネルギーが必要となる。つまり燃費がひどく悪くなる。従って、変温動物に比べて、遙かに多くの餌が必要となる。

【書かれ方】
*動物の外形と気候との関わりを述べ、なぜそのような体(体の仕組み)になっているか、その理由が述べられる。
 具体的な例をあげ、またその理由を説明するというかたちで述べられている。