小学校低学年の読みの指導

読み研通信69号(2002.10)

1.はじめに

 読み研方式の授業法を知ってから、国語の授業が楽しくなってきた。それまでの国語の授業では、「文章を読んで子どもにどんな力がつけられたか」という点がいつも曖昧だったからである。
 例えば、『おきなかぶ』の授業では、主人公の気持ちになって「かぶがぬけないかなぁ」などとプリントの吹き出しに書かせながら、「これがゴールではない」と思いつつ、授業化の手立てが見つからなかったからである。せいぜい「暗唱させて劇でもやるか」と、国語ではなく、特別活動のようなことをしている自分にはっとするのである。
 読み研方式は、もともと中学高校の国語の授業のために大西忠治氏が考案したものであり、小学生には高度であるとされていた。もっとも小学校の教師が実践を交流する機会も少なく、大西氏も「小学校低学年段階では構造よみ、中学年で形象よみ、高学年で主題よみを」と、その著書で述べている。

2.読み研方式の授業で目指すものは

 一つの作品を読んだことで、次の作品に、読みの方法が使えること、少しずつ読みの方法を身に付け、広げていくことを目指していると言える。算数で言うと、四則演算から小数・分数・面積・体積へと身につけたものと新しい学習課題を関連させて、より高次の学習をすることと似ている。
 実際に、授業の中で「『ごんぎつね』の時は・・・」とか、「『おにたのぼうし』ににてる」などと子どもの発言が出てくることもその証である。
 読み研方式は、作品の内容主義ではなく、作品を使って読みの方法を学ぶことを目指す。しかし、読みの方法を駆使することで、作品の内容やおもしろさ、逆に薄っぺらさや批判的に読むことも可能になる。「良書に親しむ」とは、よく言われるが「悪書さえ教材と化す」のも、読み研方式のよさである。

3.『大きなかぶ』物語文の場合

 1年生の2学期の教材であり、多数の教科書に採用されている作品である。1年生の子どもたちは、喜んでこの作品を暗唱する。覚えやすいからである。繰り返しを多用していること、そして、かぶを引っぱる人物が、おじいさん・おばあさん・まご・いぬ・ねこ・ねずみと一場面ごとに増えていくことの二点である。人物が増えていくが、大きいものから小さいものへと転換している法則性が判れば、暗唱は容易になるのだ。ここは、気付かせたい。

ア.おじいさんの人物形象をよむ
 おじいさんが呼んだのは、おばあさんである。そこで、おじいさんの人物形象をよませる。
おじいさんは、「男・年寄り・しわがある・よぼよぼしている・はげている・杖をついている・耳が遠い」などの形象が子どもからはすぐに出てくる。どちらかといえば、おじいさんに対して否定的な形象が多い。そこで、肯定的なおじいさん像を考えさせる。すると、「いろいろなことの名人・もの知り・経験が豊富・長生きできて健康」などの意見が出る。また、大きなかぶに出てくるおじいさんは、働いていること・大きなかぶを作ったことなどから、農家としてなかなかの腕前があることにも気づいていく。このおじいさんがてこずっているかぶであるからこそ、とてつもなく大きいかぶなのだと気づく。実際のかぶを見せながら、「大きなかぶは、どのくらいの大きさなのかな」と、とえば、両手を大きく広げ、教室の端から端まで動きながら大きさを伝えようとする。

イ.おばあさんの人物形象をよむ
次に、おばあさんの人物形象をよむ。一般論として、おばあさんの体力は、おじいさんより小さいか、同じぐらいと考えられる。さらに、肯定・否定の両面からおじいさんの時と同じように形象をよむ。力はおじいさんより弱い・優しいなどが、出てくるが、挿絵からも弱々しいばあさんというより、働き者のおばあさん像の方が受け入れられやすい。

ウ.なぜおばあさんをよんだのだろう
「とてつもなく大きなかぶをぬくのに、おじいさんはおばあさんを呼んだね。みんなだったらどうする。」この問いには、「馬を連れてくる」とか、「車で引っ張る」とか、「お父さんを呼んでくる」とか、明らかにおじいさんよりも力の強いものを子どもたちは考える。ヘリコプターなどと言う子も現れる。それでもおばあさんを呼んできたのは、その方が手っ取り早いか、そんなに大きな力が必要なかったか、強い力のものがいなかったか、おばあさんしかいなかったかのどれかである。後を読めばわかるように、呼べば誰かが来るのだ。しかし、一度に全員を集めたわけではない。おじいさんは、「自分ひとりでは無理だが、おばあさんがくれば抜けるだろう」と、考えたわけである。つまり、かぶはびくともしない状態ではなく、少なくともおじいさんにとってはもうすぐ抜ける状態であったと考えられる。手強い相手ではあるが、何とかなりそうだと感じている。次にまごが来るのは、さらに抜けそうな感触があることと、それは、まご(女の子)程度の力で抜けるとおばあさんが考えたことになる。このように、かぶとの力関係の誤差を埋めるために、段々と小さな人物が登場してくるのである。そして、力関係は、ねずみの登場によって逆転するのである。
 『大きなかぶ』は、抜こうとするものとかぶの力比べであると同時に、知恵比べでもる。また、人物が人から飼われている動物、そして最後には、人間にとって害になる動物までを取り込んでかぶを抜くというナンセンスなおもしろさも見えてくる。登場の順番をよむことで、大きなかぶのおもしろさはより高まるのだ。

エ.『大きなかぶ』での読みの方法とは?
ここまでの読みの方法を確認しておく。
一つ目は、人物形象で使った「肯定・否定のよみ」である。これは、低学年の子どもには、「○よみと×よみ」として、教えておく。
 二つ目は、おばあさんを呼んだ理由で使った、「自分の考えとの差異のよみ」である。低学年の子どもは柔軟で、物語の登場人物に同化してしまう傾向が強い。しかし、同化するだけでなく、客観視してみることから、より形象性やテーマ性にふれることになる。
 三つ目は、「事件の発展のよみ」である。大きなかぶの場合は、人物の登場する順番である。この順番を考えることで、かぶとの知恵比べが見えてくる。なんとなく楽しく暗唱できた訳が理解できる。
 『大きなかぶ』では、この三つの読みの方法を身に付ければ、学習は成立したと考えてよい。さらに、授業法として、隣の人と相談することや、問いに対する答えを複数考えることなども、指導の中で身に付けさせたい。また、板書をノートに写すこと、視写、音読、教科書の指定された文や語句に線を引くことなど、国語の授業活動の要素も繰り返し経験させたい。

4.『はたらくじどう車』説明的文章の場合

 『はたらくじどう車』は、前文と四つの本文という構成で書かれている。

ア.構造よみはドラえもんのポケット
 『はたらくじどう車』では、前文の存在や前文が全体をまとめていること、つまり前文が本文を包括する関係になっていることが読めればよい。しかし、一年生にとっては、前文と本文の関係をそのまま理解するのは困難である。
まずは、一文字下げの改行を教え、段落番号をうつことから指導する。本文を分けることについては、ページごとに前文や本文にわかれているので、それをそのまま利用すればよい。バス・キャリアカー・ロードローラー・ポンプ車の四つの本文段落と(一年生にとっては謎の)一段落で構成されていることがわかる。この場合、通常の読み研方式のように、構造よみで、前文と本文を区切るのではなく、本文から前文を分離すると考えることがポイントである。
 松戸読み研の柳田良雄氏の考案した『ドラえもんのポケット』を使って、段落の包含関係を教える。物語文と異なり、説明的文章には提示できる例がないからである。(物語文であれば『アンパンまん』など、テレビアニメで構造をつかませることができるからである。)

『ドラえもんのポケット』
1 みなさんはドラえもんの四次元ポケットをしっていますか。のび太くんがこまったとき、ドラえもんは四次元ポケットからいろいろなものを出して、たすけてあげるのです。
2 タケコプターは、そらをとぶどうぐです。あたまにつけると、プロペラがまわってそらをとべるのです。
3 どこでもドアは、ドアのかたちをしています。とびらをあけると、いきたいところが、めのまえにあります。
4 こんな四次元ポケットが、あったらいいですね。

この例文で、「いろいろなもの」は何かを問うと、二つのアイテムが出てくる。1段落は全体の説明であり、2・3段落は1段落の詳しい例であることを説明する。2・3段落は1段落に入ってしまうのである。『はたらくじどう車』の構造と比べさせれば一段落が、まとめの段落であることを発見できるだろう。

イ. 前文と本文?をよむ
一段落と本文?(バスについて)をリンクさせ、そのつながり方を確認しながら授業を進めていきたい。バスに乗ったことのない子どもにとっては、バスの内部についての記述もチンプンカンプンである。できれば映像資料を用意しておくとよい。
 じどう車には、いろいろなものがあります。人やものをはこぶじどう車、こうじにつかうじどう車、じけんがおきたときにつかうじどう車などがあります。どのじどう車も、つかいみちにあわせてつくってあります。
 「いろいろなもの」と「バス」の関係、「つかいみちにあわせてつくってあ」ることと「手すりやつりかわ」の関係はつかめるが、子どもにとってわかりにくいのは「どのじどう車も、つかいみちにあわせてつくってあります。」と、「バスはきまったじこくにきまったみちをはしります」についてはわかりにくい。「つかいみちにあわせてつくってあります」を似ている言葉で言い換えをさせる。「はたらき方によって、ものがそうびされています」「しごとにあわせて部品がついています」などでよい。「はたらき・しごと」として、ワークシートの表にまとめるとわかりやすくなる。
本文?を受け、残りの本文?~?も、違う話題であるが同じ書き方になっていることを見つけさせたい

ウ.論理関係は作文で考えさせる
 論理関係を理解させるには、同じ形式の文章を一段落分作るとよい。このときに、前述の表を使うとわかりやすい。

種類・○○は○○するじどう車です。
装備・そのため○○になっています。
         がついています。
仕事・○○をします。

はじめが柱(言いたいこと)、次が詳しい説明(作りや装備)、最後が補足・付け足し(はたらき・しごと)である。本文を文の機能ごとに色分けしてから、『続・はたらくじどう車』の文章作り活動にうつるとよい。

5.『はたらくじどう車』での読みの方法とは?

 一年生の説明的文章の学習では、羅列的な書かれ方の文章から、似ているところを見つけ出すものが、必ず採用されている。同様の論理関係を持ったいくつかの段落から、「柱←詳しい説明、柱←理由など」の関係を見つけ出すことである。しかし、一年生には、柱とそれに含まれる段落の論理関係の説明は無理である。そこで、同じ論理関係の文章を作ることで、論理関係の説明をし、理解していることとするのである。
 具体物から抽象概念や上位概念を見つけ出すのは、三年生以上の課題であるが、抽象概念や上位概念から、具体物を想起することは可能である。抽象概念や上位概念が、結論になっている場合が多い。上位概念と下位概念の関係の理解は『ドラえもんのポケット』を上手く活用することで可能になる。「人やものをはこぶじどう車」と「バス」「キャリアカー」のような語句の関係と、一段落と本文のような段落関係にも、使えるからである。