劇場版「ごん」を観る

 新美南吉の「ごんぎつね」の映画化です。人形アニメーションで、上映時間30分の小品です。

 何よりも、映像が美しいのです。枝の先にとまってなくもず。すすきの穂の中から顔をのぞかせるごん。彼岸花が一面に咲き乱れる野原。一つ一つの映像に引き込まれていきます。それだけでも十分に観る価値があるといえます。

 文字と映像では、表現手段が異なります。したがって、原作とは異なる箇所がいくつもあります。しかし、それらはなるほどと納得できる解釈でもあります。一つあげますと、映画にはごんの母親が登場します。母親は、罠に足をはさまれて、逃げることができません。母親のそばには、幼いごんがいます。母親は自分が捕まって殺されることを覚悟し、幼いごんに威嚇するような声を発して、ごんを自分のそばから遠ざけようとします。それでも、ごんは母親に寄り添おうとします。人間が近づいてきます。母親は、ごんに向かってさらに強くうなります。とうとう、ごんは母親から離れていくのです。ごんが母を失う場面を描くことで、母を失った兵十へのごんの共感がより分かりやすくなります。

 彼岸花の使い方にも一工夫あります。どのような工夫かは観てのお楽しみということで。

 ミニシアターでの上映なので、全国どこでも観られるわけではないかもしれません。機会があれば、ぜひ一見をおススメします。ちなみに大阪では8月29日(土)からシネ・ヌーヴォ(九条)で公開されます。(シネ・ヌーヴォのHPです http://www.cinenouveau.com/)